討論 |
金澤:
ここまで2人の先生のご意見を伺いましたが、ここからは会場の方から是非ともご質問やご意見を頂きたいと思います。どうぞどなたからでも結構ですので。実務的あるいは法制度的な問題についてあまり議論されてませんが。
建築設計をやっています。教育の話が出ていましたが、僕もそういうところが一番重要だと思っています。
きっと要綱を策定するときには大学の先生方が集まってあれやこれやと色々話し合って大まかなガイドラインを決めて、後は運用で解決するという考えであると思いますが、運用する側にときにその最初の意義とかいったものが全くいかされていないわけです。それはやはり行政に責任があると思うのですけれども、現場で働いている人のレベルも問題だと思います。
土田:
よくある話ですよね。景観担当の間は一生懸命景観を語っても部署を移るところっと忘れるというような、ああいったのを専門家と言うのかという話があります。
都市計画家協会というのがあって、そこで都市プランナーの職能はどういうものだろうかということを議論しようという委員会があります。そこで出る意見の一つに、都市計画は政府がその権限をもってしっかりやる必要があるから、行政のインハウス・プランナーが大事だという話があるんですが、これに関しては僕はわりあい悲観的なんです。専門家をちゃんと教育してトレーニングし、権威のある計画機構を運営する体制というのは、行政が身軽になろうとしている社会状況に反しますから。
ですから、そういった場合には場面場面で誰をどういう形で活用すれば良いのかということを教えておくしかないと思います。そういう人材や組織をアウトソーシングして活用していけばいいと私は思っているんでが、官尊民卑の社会状況や権限をもつポストがどうしようもない人材だったりという事態を考えると、これもそう簡単にはいきそうもないなと思ったりします。
その辺りの問題は、私の住んでいる街でも腹立たしいことが一杯あるんですが、あまり文句言ってもしょうがないなあと思っています。まあ世の中全部がそうなんですけれども。
景観についても、京都は重点地区が多いと思いますが、景観のガイドラインを作るときにはさんざん専門家の間で議論があるはずで、それを適用しようとするときにもまた専門家が集まれば必ず議論になるはずです。
そういった場合に、例えば川崎ではまちづくり局というのがあって、そこに良くわかっている担当者がいて、そういった議論をかなりしつこくやります。それを傍聴している地元の人達もいるし、地元の人達がガイドライン作成に参加しているから、途中で色んな事態が起きても、あのときの話と違うといった話になる。つまりある程度オープンなのです。
京都の場合はそういう議論になっているのかどうかは私にはわかりませんが、一般論としてこの問題をどうするのかという事ですと、今流行りのCPD(継続研鑚)なんかで無理矢理教えてあげたらどうでしょうか。知識がないのならば土木建築職の皆さんは3年に一度くらいは必ず研修を受けることと市長の約束でも取り付けて。それを受けてなかったらクビとか、街路樹清掃にまわすぞ、とか。それと並行して学生もちゃんと教える。そうでもしないことには良くならないですね。
先ほど出された写真で、映っているのはたいてい低い家並みに巨大な建物があるものでした。
皆さんご存じだとは思うのですが、景観問題になったものでデザインの問題であったものはほとんどなく、規模と用途とその場所が問題になっているわけです。やはりこれは制度の問題ではないかと思いますし、先生も制度の問題だと仰っていたと思います。
しかし、景観法は、その一番肝心なボリュームや用途、配置を考えてまちづくりをするというよりは、どうもそれを放っておいて表面のデザインだけをやりなさいと言われているような感じがします。
そこで景観法を最大限に活用する方法、どの点は街を良くするために使えるよ、あるいはこれを利用してどういうふうに働きかけると新しい動きがでるだろうとか、とにかく景観法を使うコツを、もしお考えのところがあれば教えて頂けないでしょうか。
土田:
私は、先ほども言いましたように、景観計画区域は都市計画区域外でもかけられます。ですから目を瞑って市全域かけて、それから考えたらどうだ、といっています。いろんな行政で言っているのですが、皆その気がないようです。それが最大の問題です。
それから建物の嵩の問題は、建てる時に、隣りの建物のスケール合わせる規定をガイドラインにいれればいいんです。多分専門用語で粒度(グレイン)と言うと思うんですが、粒の大きさを揃えること。
だから幕張の住宅地なんかでも、中層と高層のグレインをいくらかでも近づけるために、高層の同一表現の面は2000m2以下にするという約束事をしています。40×50mくらいです。高層マンションだとそれ以上の単一平面が絶対に出てきてしまう。そういうのを認めない、必ず分割するといったようなルールです。ただ色だけで割るのは承知しないぞ、と言っていた割にはたいてい色だけだったんですけれども。
景観のストラクチャー(構造)がしっかりしていれば、あとは色や緑でなんとかカバーするとか、いろんな手があると思うんですけれども、構造がしっかりしていないと駄目ですね。
いずれにしても、それぞれの地区でガイドラインを作っていくことは必要だと思います。
ただ皆さんも経験がおありだと思いますが、ガイドラインといっても、普通の街で商店街団体なんかでつくるガイドラインと、新開発地でも事業者が複数いる場合のガイドラインが実はあるわけですが、いずれの場合も初めてガイドラインを作ると、中身が豊富すぎるんです。つまりデザイン上の制約をいっぱいつくってしまう。そうすると絶対にうまくいきません。ですから、もっといい加減にしておけと私は言うんだけれども、いい加減さの加減というのも、そんなに合理的には説明できないので難しいですね。
単純に言えば、建築家というのは拘束されたくないという人間性を持っていて俺が一番偉いと思っていますから、そういう人は土田が作った法律なんかに従えるか、とだいたい反発します。ところが「俺がサッカーをやろうって言ってるのにお前はラグビーやってるんだぞ、今」というふうに言うとわかってくれるんです。
つまりこれはゲームであり、ゲームのルールを作ろうとしているんであって、法律を作ろうとしているわけじゃない、何が正しいとか間違っているとかじゃなくて、ともかく共通のルールでゲームをしようとしているんだから、参加してくれ、というものの言い方をするわけです。
そういった形で、同志だけでもルールを作って街づくりをするという事を考えていくしかないと感じてますし、このような議論もやっている過程では出ていました。
実際のところ、東京であまり汚いので有名な街なんだけど、戸田という街があります。ここは昔かなり田んぼが多かった所なのですが、新開発地ですのでいろんな種類の建物があるんです。それで困って、戸建ての所で3軒協定というものを作ったんです。両隣3軒がまちづくりのはじまりだと言うことで、とにかく隣同士で話し合いをして、共通の事をやっていただけるんであれば、それに対して助成しますというものです。
それでやってみたら、そんな2軒3軒で本当に助成くれるの?ということで結構人気があったわけです。隣同士で花を置きましょうとかフェンスを直そうとかいった程度のものに助成してくれるんですよ。こういった計画に建築家がどんどん参加してくれればもう一段上のところまで多分いけるようになるんじゃないかと思いました。
ただ、これはもう景観の話というよりもまちづくりの話ですので、話の範囲が広くなってしまうのでやめます。
私もJUDI会員で、今年はデザインフォーラムという秋のイベントの委員長を仰せつかっています。今は、それに向けて色々と議論しているところなのですが、都市環境におけるデザインの力をどう表現していくのか、どう見せて行くのかを議論しているところです。
そこで、都市デザインの中から、まず良いデザインを捜したいと思うのですが、先ほどお話に出てきたような良いデザインというのはどこにあるのでしょうか。
ヒルサイドテラスは私も大好きですし、日本でなくてもよいのかもしれませんが、できれば関西で良いデザインの場所があれば教えて頂けたらと思います。
私達、若い世代にとって、良いものを見たり知ったりすることが今後の励みになりますので、そういった意味でもお願いします。
それからもう一つは、私はデザインには付加価値がつかなければ駄目だと教えられてきたのですが、その付加価値が、特にバブル以降、どうも一般社会の中では経済性のみでの付加価値といったことになっているように思うのです。
実際、それがデザインに求められる付加価値であるということも多少はあるかもしれませんが、違う面から言えば、例えば芸術性といったことも付加価値となりうると思います。
なかなか一般に経済性以外で評価されることは難しいのですが、それを評価する側のレベル、意識の問題もあると思います。
ですから多くの一般社会の人に、都市デザインの重要性なり、都市デザインの価値みたいなものをどう見せて行けるか、
それには、私たち専門家は何をすれば良いのかと考えているところです。その辺りについてご助言頂ければ有り難いと思います。
土田:
関西で良い所と言われても古い所しか思いつかないけど………それはさておいて、例えば京都の街の飲食店は概してハズレがないように思います。東京では結構ハズレが多いんだけど、京都では雰囲気の良い感じの店が結構多いし、少なくとも京都の方が一般的にインテリアデザインのセンスは良いと思います。まあこれは街並みの話じゃないわけですけれど。
あともう一つは、例えば幕張の住宅地に携わっていたときにヨーロッパの街並みがどうのこうのと言ったら、住民で商社にお勤めの人なんかが「ヨーロッパの街並みっていう触れ込みだったけど、住宅も狭いし道路も狭い。ヨーロッパはこんな狭くないぞ」と言われてしまい、はいすみません、言われてみれば確かに狭いね、という話になったことがありました。
そのときも、女性が自分達で雑誌か何かを編集したいといって、中に住んでおられる方も外で住んでおられる方も参加して作っていました。話を聞いてみると、特に若い女性、若いといってもミドルくらいの女性の方が、男性よりもヨーロッパの都市を歩いてるということがわかりました。
つまり、皆さん海外に結構行かれていて、良いもののモデル、本物をそれなりに見ちゃっているわけです。だから目が厳しくなってると思います。専門家の場合も当然厳しい目で見るでしょうが、街を見に行くというよりは建築を見に行ってしまいますから、案外女性の方が街を見ている可能性が高いかもしれません。
むしろ、そういった人達を味方につけていく事が必要かも知れないですね。
ついこの間、歌舞伎町のまっただ中に建ったばかりの新しいビルに最初に貸しギャラリーが入りまして、そこの最初の展示がLRTの写真展だったんです。LRTの同好会みたいなのがあって、LRTオタクみたいな人が写真を撮ったものを展示してあるわけです。
結構良い写真で、日本のものもありましたが、だいたいがヨーロッパのLRTでした。どうやらLRTのデザインが気に入って撮っているようで、街の交通問題を解決するためにどうのこうのといったことには全然興味ないようでした。
それでよく考えてみると、こういった風景展とか写真コンクールみたいなのはよくあるじゃないですか。ヨーロッパでも日本でも良い街のコンクールとかね。そういうのをうやってみるのもいいかな、と思いました。
一般の人がどういう所を良いと思っているのかというのがあまり掴めていないのかもしれません。
今JUDIでは「美しい都市評価委員会」という会で日本の街を1位〜100位までつけようかとか言ってるのですが、まあ順位で並べるのは難しいのでA〜D評価とか、ともかく何らかの評価をして、この街のこういう所が良いから点数が出てますよという事がわかるような、いわば僕たちからのメッセージみたいなのが出せれば、その市にとってみれば多少は関心事になってくるんじゃないかと考えています。
ただし、富山は一番住みやすい街だ、何故なら住宅規模が一番大きいからだ、などと言われても困りますから、そうはならないようにしないといけないと思っています。一方、ちゃんと改善努力をすれば点数も明らかに上がるという、そういう仕掛けを作っておく必要があるでしょう。
とにかく、いろんな手を使って関心を喚起する必要があるなとは思っています。
金澤:
それでは時間も参りましたので終わりたいと思います。
景観に関しては、このように大変広範な、また専門的な話まで関わっておりますので、是非本を買って頂いて理解を深めて頂きたく思います。
また、今年度は景観を引き続きテーマにしてやっていきたいと思いますので、是非またご参加をお願いしたいと思います。土田先生ありがとうございました。
景観法の運用現場に問題があるのでは
藤本:
仕事で役所の人と直接話をする事が多くて、今も京都の景観地域にあたる所で住宅を建てているのですが、そういうところでも担当者レベルの方に景観に対する考え方というのが全くないんです。
京都市で決めた指導要綱があるのでそれに則ってやってくださいと言うのですが、要綱には極め細やかにかなりの項目が載っているのですが、その土地の成り立ちなど関係なく画一的に決めています。
先ほど先生にも仰いましたけれども、建築をやった方と都市計画をやった方というのは同じ脳みそじゃないくらい全く違う教育を受けてきていますから、その二つの間にある景観などのあやふやな分野が本当はとても大事であるのに、その部分が全く抜けているように思います。
ですから景観法の運用に対してもう少し改善すべき点があるのではないでしょうか。
景観法を使うコツは
山崎(立命館大):
よいデザインを評価してもらうには
高原(HTAデザイン):
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