景観法で都市は美しくなるのか
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むしろスケールに問題が大きい

都市環境研究所 土田旭

 

そんな、大袈裟に考えなくても

土田

 そんなに何でもかんでも答えられる訳じゃないんで困ったもんですね(笑)。

 建築については、僕だったらこうするというのはあるけれども、そういう場合は大抵中層程度の比較的小さなスケールのものなんです。電柱をなくすというのも、道路の一車線分あればそこに街路樹でも植えてちゃんと育てれば、そのうち電柱も吊り出し看板も見えなくなるだろうと言った具合です。地方都市や大都市でも中心を外れた多くの市街地で、もっとも多い街のスケールはこのようなスケールではないかと思っています。

 あとはちょっとした増築や建築でバランスをとっていくことができると思うんです。4〜6階くらいまでだったら。あるいは建物の色。今は優秀なカラリスト達が沢山いますから、街そのものを色で造っていくこともできます。

 実際あるんです。ブエノスアイレス郊外のボカ地区(La Boca)は木造の2階建てバラックの建ち並ぶ所ですが、たまたまそこにふらっと居着いた画家がいて、その人がこの朽ちかけた港の絵を描いていたわけです。子供達が寄ってくるので面白がって子供達に絵を教えているうちに、絵を描いてるだけじゃ面白くないというのでペンキをどこかで調達してきて、じゃあ建物に子供達に好き勝手に塗れと、もちろん持ち主には断ったんでしょうけど、あばら屋だしお好きにどうぞとなったのでしょうか。それでペンキで好き勝手な色をつけてる横で「せっかくここでこういう挑戦してるんだから、ここんとこはこういう色で塗ったらどうか」とかいったことを言いながら、本人は絵を描いていたわけです。

 子供達は一生懸命ローラーを使ったりなんかしながらペンキを塗っていきました。そのうちに段々大規模になってきたものだから話題になり始め、絵描き一人じゃ追いつかないということで、仲間の絵描きにも手伝ってもらって、そうしてできた街が今では観光地になり、お土産屋さんまであります。ここでは容積なんか全然関係なしで良いわけです。今ではそこに絵描き達が居着いてアートヴィレッジになっています。

 日本の場合は何かというと容積、容積と言って、容積さえあれば街が魅力的になると思いこんでいるふしがあります。


とはいえ、トンデモナイ建築もある

 確かに高い建物はどうしようもないですね。さっき東大の話が出てきましたが、安田講堂内にある会議室で総長以下学部長会議をやるのですが、あそこから上野の不忍池がよく見えるんです。そのとき総長先生に「工学部の先生にお伺いしますが、あそこに見えてるモノは何ですか?」と聞かれたことがあります。結論を言えばそれは菊竹清訓さんが設計したホテルでした。僕も内井昭蔵さんとあの辺りを歩いたことがあるんですが、僕が「ひどい建物だね、これ」なんて言ったら内井さんが「菊竹さんの建物は当たり外れがあるんだよね。あれは番頭のせいなんだ。番頭の当たり外れなんだよ。あれは」なんて言っていました(笑)。

 とにかく、人によるものもありますので、できるだけ日本の建築家の資格を厳しくするか、何かした方がいいのではないかと思います。

 安藤忠雄さんは建築家協会に入っていなければ、もちろん建築士会にも入っていません。しかし名だたる世界一の建築家なわけです。JIAのトップが建築家協会に入ってくれと言ったら「今、何人ですか? 5千〜6千人? ちょっと多いですね。千人きったら私、入ります」と言ったというのです。日本には千人くらいで丁度いいんじゃないですか? だからもっと会費を思い切り高くしたらどうかと仰るわけです。今、日本には一級建築士が20万人以上います。そのうち実際に設計に携わっているのは、おそらく2万人くらいだと思いますが、その辺りの社会システムもおかしいでしょう。


大規模な建物は分節化が必要

 新開発については私でもそうですけれども、例えば2haもあるような土地に建物を並べていると、10個くらいで嫌になります。10個並べると言っても標準バージョンで言うと、超高層のオフィスビルは40ないし50m角くらいのを描いてペロっと立ち上げると、1フロアが2000m2、それが40階建で8万m2です。計算しやすいから、みんなそれで計算するわけです(笑)。

 ましてや六本木ヒルズみたいな、あんな小錦みたいな格好のものは容積の計算するのが面倒くさいから最後の土壇場じゃないとやらないでしょう。そういった事がその後もずっと尾を引いてしまって、最終的にスケール感のない建物が出来てしまう。

 ですから大規模開発でももうあとふたまわりくらい細かいスケールが出るような計画をやれば、周りともなじんでくるという気がします。

 先ほど触れませんでしたが、飯田町は旧国鉄の貨物駅があった所で、ものすごぐ伝統的なレンガの車庫というか倉庫があって、それが良かった場所です。

 このレンガ倉庫自体はあっという間に壊されてしまいましたが、あそこではわりあい時間をかけて、段階的な開発をやっていました。あの辺りは緑も多いし、それぞれの場所が非常にデザインされていると思います。他のものほど大規模ではないですが、一番大きいエドモント・ホテルなども結果的にまあまあ良いのではないでしょうか。

 建築家が携わったものの中で時間がかかっていて最良の街並み、それがアーバンデザインなのかどうかという事は別として、とにかく建築デザインの延長上であるところの最良の街並みといえば、それは多分、槇文彦さんの代官山ヒルサイドテラスでしょう。

 あそこは地主の朝倉さんが会社組織で維持しておられるから、ある日突然急に相続税のために売り飛ばすなんてことはないと思いますが、それにしても随分と低度利用です。

 実はあそこは法的には中高層住居専用地域です。中高層住居専用なんて変な制度をつくるから余計おかしくなってしまうわけですが、とにかく、それで認められている容積の何分の1かしかありません。逆に今、代官山の界隈では開発の色んな動きがあって本当に心配です。

 それから、日本は美しくなったかという話ですが、マクロに言えば明らかに美しくなっています。戦後の東京オリンピックより以降10年おきぐらいにずっと見てみれば綺麗になっている。

 ただ、ここ10年は何でこんなになっちゃったの?という感じがありますし、地方都市は比較的良いデザインが集積されてきているという都市もあるけど、多くの地方都市ではコストが安くうわべだけ修繕した建物や、建物がなくなって駐車場だらけになった場所が目についてひどいんです。

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