「際立たずおさまる」美しさか、「目立つ破調」の美しさか
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なぜ目立つことが求められるようになったか

 

ナラティブ・アーキテクチャー〜しゃべる建築

 こんなことを考えていたときに思い出したのが、ナラティブ・アーキテクチャーです。ジェームス・ワインズが率いる「サイト」が提唱したもので、「ナラティブ・アーキテクチャー」すなわち「しゃべる建築」と言うべき一連の作品です。彼らはカナダ・モントリオール博覧会のゲートを設計したグループで、最初から崩れているようなビルをデザインしたりしています。つまり、デザインにおけるメッセージが強烈なんです。(97年第5回セミナー参照)。

 彼らに言わせると、モダン建築は何も意味を語らない、幾何学的な構成原理を強制してきただけだということになります。それに対して、サイトは社会的な考え方や宗教性、市民の主張をデザインでもっと語らなくてはいけないと主張しています。例えば「幽霊駐車場」というものは、駐車場のコンクリートの床や壁に潜り込んだような形で車のオブジェが置かれているデザインです。つまり、駐車場でありながら「反自動車社会」のメッセージを訴えているもので、デザインとしてはとても分かりやすい。一目であっと驚くようなデザインで、そこに車を停めるのは勇気がいりますが。

 サイトは「建築はもっとしゃべるべきだ」と言い、単に幾何学的美しさで私たちの環境は出来ているのではない、大昔は環境はもっとしゃべっていたと言います。つまり、言い換えれば我々はしゃべらない環境をデザインするのがモダンデザインだと教育されてきたとも言えます。


多文化と均質文化

 ジェームズ・ワインズと名古屋で行われたシンポジウムで一緒になったとき、「あなた方のデザインはちょっとやりすぎではないか」と意見を言ったことがあります。彼の返答は「アメリカは多文化国家だから、パブリックメッセージは饒舌でないと伝わらない」というものでした。なるほど、いろんな民族がいますから、パブリックメッセージは言葉が分からなくても文化が違っても、一目でパッと分かるメッセージでないといけないんです。

 その時、私は、日本の都市を前提にして都市デザインの考え方を論じたわけですが、彼は「日本のデザインは評価するが、日本は均質文化で説明しなくても分かるから、パブリックメッセージは淡泊だ。」と言いました。それに対して私は、「デザイン感覚の違いがあるわけだから、サイトのデザインは日本の環境の中では迷惑だ」とコメントした。しかし、日本も今までの淡泊なパブリックメッセージが通じる状況が崩れつつあります。一昔前よりデザインが混乱しているようです。

 日本的な文化に対する認識が失われてしまうと、デザインもミスをしてしまうわけです。つまり、国際化、グローバル化が進むと、それまでとは違ったデザイン意識が出てきてしまうわけです。今はデザインの混乱が広がっていきつつある状況だととらえています。

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