京都市中心部の新しい景観政策
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規制の運用について

 

大変な点とは

姥浦(大阪市立大学)

 3点質問させていただきます。

 まず1点目は、「大変だ」というお話がありましたが、具体的に何が大変だったのでしょうか。

福島

 「大変だ」と言うものの一つは、作業が大変ということです。京北町合併前の610.21km2という広い面積の、ほとんどの箇所を見直していくというのは、量的な問題から大変です。

 また、新しく都市をつくるわけではなく、ある意味で成熟している都市です。現在取り組んでいる施策も、これから建て替えが進み、目指す形態になっていくにはかなりの年数がかかります。各地区に関しても、今の状況がいいのか、それとももっと異なる状況を目指していくべきなのか、考えていく必要があります。このように、各地区の特性をくまなく調査していくのが大変です。その業務量は大変なものですが、50年、100年後の政策を決めている訳で、非常にやりがいのあることだと思っています。


従来の31mラインでのデザインコントロールに問題があったのか

姥浦(大阪市立大学)

 2点目は、従来の45mの高さ制限の時に、31mくらいまでの高さを強調するようにデザインコントロールを行っていましたが、それは効果が無かったのでしょうか。そして効果が無かったのは基準自体があいまいだったのか、指導ができなかったのか、それとも指導しても要綱なので、業者が言うことを聞かなかったということなのでしょうか。

福島

 45mの建物が可能な地域で、31mあたりでデザインの変化を出すように指導してきました。場合によってはそれも効果的ですが、31mのところでラインを引くことで十分なのかという問題もあります。デザイン面の指導の内容として、31mのラインを考えることが適切なのかということも、見直すべきかと思います。

 ただ、この事が問題で31mに変更するのではありません。盆地形などにみられる都市の形態など、色々な要素と関係しています。

 特に、田の字のアンコ部分では歴史的な京町家との調和という観点から、高さを5階相当の15m程度に下げようしています。こうした地域に連坦する地域として、任意の建築活動によって形態が形成されていくことで無秩序な町並景観を生み出し、田の字地区と内部のアンコの部分との乖離が大きくなることが考えられます。そのため、全体的な都市の形態構成として、45mのところは31m程度に下げることが、田の字のアンコ部分の職住共存地区における考え方との調和に繋がると考えられます。

 ですから、31mのラインでデザインを考えていた事とは関係がありません。


景観法にもとづく条例への移行による変化は?

姥浦(大阪市立大学)

 三つ目は、これまでの独自の条例により進めていた時と比べて、景観法に基づく条例になって、どんな変化があったかについてお聞きしたいと思います。

福島

 条例にしても、法律の委任を受けたものと、自治法にもとづく京都市独自の条例では、その重みや、違反行為に対する歯止めとしての力の大きさが違います。景観法の枠組に取り込んでいくことで、国の補助も出していただけます。例えば、同じ修復に必要な市の補助が従来の半分になれば、単純に倍の数に補助を出すことが可能です。厳しい財政の中で予算を組んできましたが、こういった点からも景観法を活用すべきだと考えられます
 京都市の条例はかなり先進的なものであったので、制度の仕組みが景観法とほとんど同じでした。そのため、景観法の移行に際しては、そのままそっくりと移し変えることができました。


景観に取り組む役所の体制は?

田端(大阪芸術大学)

 景観の問題というのは、地区によって全く異なります。そのため、現状をどうやってきっちり把握していくのかという問題があります。その点は私たちもお手伝いしたいと思いますが、もちろん役所の方も一緒になってやっていくべきでしょう。コンサルタントだけでなく、役所の中でも情報を蓄積すべきだと思います。そういった問題に対して、役所では現在どのような体制で取り組んでいるのでしょうか。

福島

 日本建築学会主催で、京都を題材にした研究活動が行われています。平成14年には京都の都市景観に対する第一次提言が出されました。そして先日の平成18年7月22日には、第二次提言について、京都市も共催してシンポジウムを行いました。その中でも、京都は地区ごとに特性が異なるという話題が出ていました。

 大きな枠組の中では、保全・再生・創造というキーワードがありますが、それぞれの地区の中にも、保全・再生・創造のエリアが存在しています。モザイク都市ともいわれる所以です。マクロな制度、またミクロ・ミドルな制度や仕組みを活用しながらやっていきたいと思います。

 当然、有能なコンサルタントを使う必要もあると思います。しかし、基本は行政の人間がノウハウを身に付けてやっていくべきだと思っています。都市景観部では、自分たちが走りまわって写真を撮り、自分たちが報告書を書いています。行政の人間がしっかり景観に対する知識やノウハウを身につけていくべきなのです。体制は十分とは言えません。今後の制度や基準を運用してく体制を整えないといけません。

 学会でも言われていることですが、人材育成がすごく大事なのです。景観というものに取り組んでいくためには、様々な分野において、小さい頃から美に対する感性を養うためにも学問として取り入れていくことが必要になるでしょう。行政として資質の向上も必要だとおもいます。


建築家への教育の場が必要では

山崎

 補足して質問をさせていただきます。フランスには建築家が景観保全などの勉強をする場所がありますが、建築家への教育の場所も必要ではないか感じます。この辺りのことは、何か考えられているでしょうか。

福島

 日本建築学会でも、ナショナルプロジェクトとしての教育機関の創設が提言されています。京都市の方でも、そういった提言を受けて、国に対して景観の教育センターのようなものを京都市に創ってほしいという要望をしています。京都には、歴史・景観に関しての資源が多くあります。それらを活用して、様々な人が景観を学ぶことができ、また専門家を統括していく研究教育機関を作る必要があると思います。


優良なデザインに対する高さ制限の緩和の可能性は

前田(学芸出版社)

 中心部の制限が31mから15mになるのは良いと思います。しかし、例えばマンション紛争などにみられる、通りから通りまでを貫く細長い31mのビルが、そのまま15mに低下するよりも、もう少し高めの21mくらいでも、分節してデザインした方が良いと思います。そういった優良な事例なら認めるということは、かなり例外的にしか運用されないのでしょうか。どのような運用の仕方をお考えでしょうか。

福島

 許可制度の仕組みなので、皆さんが興味や危機感を持ってらっしゃる部分だと思います。例外は認めない方が良いという意見もあります。一方で、画一的に高さばかりを考えるのではなく、敷地の形態や位置、土地利用なども考えた、トータルデザインとして考えるべきだという意見もあります。

 制度があるからといって、許可を無秩序に使うことはありません。しかし、良いものを認めることができなければ、何のために歴史的都市の景観を考えているのかわからなくなってしまいます。これに対応する制度を作ることが、最大の課題だと思っています。

 中間とりまとめでも言われていますが、一つの趣旨からの許可制度の仕組みでは無理があると思います。市民のための地域施設などでは、高さだけではなく、その用途に応じた機能を盛り込む必要がどうしてもあります。限られた土地の中で、どのような土地の使い方と景観形成を行うのか、その合理的な組合せが必要となります。ただ単に、営利目的というのは難しいと思います。

 色々な規制を頭に置きながら、良いものを作ろうとする事を検討できる仕組みを考えるのが必要だと思います。この仕組みが一番重要で考えるべきなのですが、今のところは白紙の状態です。


白地のゾーンはなに?

難波(北摂コミュニティ開発センター)

 ゾーン分けのお話のところで、点線で囲まれた白い部分は何を示しているのでしょうか。

福島

 景観審議会において京都市の景観のあり方を検討するときに、異なる特徴を持っている全ての地区を審議をしていただくことは不可能です。山並み、麓、内縁部、歴史都市の中心部、幹線道路沿い、低層の住宅地などの地理的な特徴、また世界遺産の周辺など、大きな特徴から8つに類型化を行い、審議がなされました。

 点線で丸く囲っている白地の箇所は、直接審議された所ではなく、8つの類型を参考に、行政が応用して施策を検討していくエリアです。細かく審議をしていないけれども、審議した8つのエリアと同様に考えることができるという地域です。これから具体的な制度や仕組みを入れていく必要があります。


歴史的風土特別保存地区での買い上げ後の維持管理は

難波

 歴史的風土特別保存地区の嵯峨野で土地の買い上げを行っているとのことでしたが、買い上げた後に維持管理を行う事と、買い上げずに規制を行っていく事との違いは何なのでしょうか。

福島

 歴史的風土特別保存地区では法に基づく厳しい規制がかかりますので、所有者の申出に基づき買い上げる制度があります。

 ただ厳しい財政の中で買い上げの金額も大変なものになります。古都法に基づく買い上げなので、国からもお金が出ます。所有者から買い上げの要望もありますが、計画的に予算を組んでいかなければ対応できない状況です。

 買い上げた場所は、京都市が維持管理を行っています。この費用も大変なものですが、これに関しては国からの補助はなく、京都市が独自におこなっています。この件に関しては、国に補助制度の創設を要望しています。

 嵯峨野などでは、買い上げた土地を安くお貸して、継続して水稲や畑を行ってもらっています。田園風景がこの地区の歴史的風景なので、水田の風景を維持していただける方に、ほとんど無料のようなお金でお貸しし、その風景を守っていくお手伝をしていただいています。京都市が維持管理にかなりの予算を組んでいますが、財政難の中でなかなか厳しい状況です。もっと広い地域に対応したいという気持ちはありますが。

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