お聞きしたいのは、景観の視点だけから、まちづくりに関する重要事項を決めることができるのかということです。歴史的都心部ではある程度有効かと思うのですが、市の周縁部には、必ずしも景観に結びつくような歴史や文化があるわけではありません。そのため何を基準に、何を目指していくのかがわかりにくいと思います。景観と言うよりも、広く環境と言う方が良いのではないでしょうか。まちづくりに関わる価値の多様性についてどうお考えなのでしょうか。
また、都心部でも緑化、ヒートアイランド対策、風の道など、景観だけで割り切らずに都市環境を総合的に考えていく必要があると思います。
福島:
景観というのは単なる箱庭を作っているわけではありません。生活があり生きている都市における、景観を切り口にしたまちづくりなのです。景観という言葉は、比較的新しい言葉でありますが、文化、生活、生業などが存在するところで、景色として現れてきているものの事です。何もない田畑でも景観ですし、住宅が立ち並ぶところも景観ですし、自転車が置いてあるだけでも景観です。全ての事から景観は生まれます。そのため文化だけで景観を語るのは難しいことです。
歴史的都心地区で、町家の横に大きなビルが建つことがありますが、景観同様に住環境の問題もかなりあります。東山が見えなくなったり、日照が悪くなったりと、住環境が崩れてしまいます。景観、環境、ヒートアイランドなどの多様な問題が、それぞれがばらばらではなく、ひとつが動けば全てが変化するのです。
周辺部の件ですが、盆地地形という特徴を先ほどお話しました。都市の大きな立体構成として、都心部の一定の高さから、山裾周辺にいくにしたがって低層化していくのが京都市の盆地系の中では妥当だと考えられます。山裾部分では歴史的な要素が必ずしも多くありませんが、歴史的というよりも地理的条件が重要になってきます。低層の住宅地と、世界遺産を初めとする歴史的名所との調和を図っていくことを考える必要があります。
京都の山にはそれぞれに名前が付いているように、山そのものに伝承があり、歴史性を持っています。山裾周辺では、畑だけの地域もありますが、そのすぐ隣には世界遺産が点在するような歴史性を持っている地域もあり、それを取り巻く環境を考えていかなければなりません。
その上で、低層の住宅地の環境として、勾配屋根をつけていくのか、そのままでいいのか、といったデザイン面での取り組みも必要になってきます。
京都の目指している町の姿を具体的に絵にしたら、どうなるのか、具体的に分からないと基準を作っても実際の効果が弱いでしょう。それを今から皆で作っていくということでしょうが、デザインコンペの取り組みもそれに含まれると思います。行政だけでなく、みんながそう思う目指すべき具体的な町を真剣に考える最後の機会が、我々に突きつけられていると、大いに期待します。 そこで、その出発点になる基本的な方向について確認させていただきたいと思います。
田の字地区のアンコ部分、職住共存地区に限っての話になりますが、高さ15mを目指していく場合に、既に存在する高層マンションは既存不適格になります。また、実際に2階建ての京町家の形を少しでも増やしていくことも目指されています。すると50年か100年後には、15mまでの建物と2階建ての京町家が共存する町ができることがイメージできます。これはいわゆる伝建地区で見られるような、京町家だけの地区の姿とは異なります。現在の、マンションが無秩序に点在する町とは異なりますが、やはり構造も素材も形も異なる2つのタイプの建築が共存する町並が、形成されるのです。
その時に形成されているであろう新しいスタイルを、京都の目指すべきスタイルとして積極的に考えるのか、または、本当は伝建地区のように2階建ての様式にしたいけれどもいまさら難しいと、妥協案的なものとして考えていくのか、この2つの考え方は全く異なる考え方だと思います。この考え方の、どちらを向かれているのでしょうか。
福島:
京都には、既にグランドデザイン的な物があります。中心市街地から山裾に向かって低層化していく、世界遺産の周りではポイント規制等を用いてしっかりとした政策を打ち出していく、歴史的町並との調和を考えて、残すべきものは徹底的に残していくといった内容です。
また博物館都市ではなく歴史都市なので、元の第一勧銀の建物などのような近代洋風建築のように、日本の元々の伝統に融合していった、それぞれの時代の建築文化や歴史を語る建築物も残していく必要があります。その中には、昭和、平成の建物も当然あってしかるべきだと思います。
職住共存地区と言われる歴史的都心地区においては、現代都市景観の調和と、適正な新旧の対比の観点から、2階建ての町家に対して、5階程度が限度だと思います。ただ、全て2階建てにしたいが、5階で妥協したという訳ではなく、現代的な都市空間を作るという意味で5階程度は必要だからです。
そして、後世に伝統的建造物と言われるような、良いデザインのものをつくって欲しいと思っています。少々オーバーな感じになりますが、50年先には平成の伝統的建造物となるものが欲しいのです。そういった事を思いながら、京都の新たなデザインコードとして、「新・京みやこデザイン」の提案募集を行っています(HP公開時には既に終了しています)。
また行政だけでなく、みなさんと一緒に考えなければ意味がありません。パブリックコメントなどいろいろな形で、市民の皆様に提起し、意見を伺っていきたいと思います。
50年後、100年後を見据えたプランですが、それは市民には分かりにくいのではないでしょうか。短期的な成果も必要ではないでしょうか。その辺りは戦略的に進めておれられるのでしょうか。
福島:
短期間の成果というお話に関してですが、すぐに出る成果というのは少ないですね。歴史的景観の再生事業にしても毎年予算を積み上げて建築活動を誘導しますが、一定の群が出来上がってこないと成果として実感できないでしょう。ただ景観重要建造物のような物は、たった一つでも、再生していけばとても目立つ物になるのかもしれません。伝統的建造物群保存地区等で、年間1億円近い補助金を組んでいるので、毎年いくつかの修景ができていきますが、即成果という事例はまちづくりにおいてはなかなかありません。
景観に取り組む姿勢について
景観だけでなく総合的な視点が必要では
中村:
京都のこれからの新しいスタイルは
井口(京都造形芸術大学):
短期的な成果も必要では
中村(ランドデザイン):
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