さて、屋外広告物が景観を構成する他のものと決定的に違うのは、その記号性にあります。人にいろんなことを想起させてしまうのが、建築やその他の景観要素とは違うところです。しかし、その点については今まであまり議論されていません。
そういうことを考えるきっかけになったのはだいぶ前になりますが、ある留学生との会話です。
二十数年前のことになりますが、一緒に歩いていると、その人が「日本語の看板や広告は、ヨーロッパとは違って絵のように見えるからいいですよね。アルファベットだと意味を訴えてしまうから、小さくてもうるさくてかなわない」と言うんです。漢字や日本語は元々が象形文字だから「絵のよう」というのはあながち間違ってはないのだけれど、そもそも彼は日本語が読めないからよかったんです。日本人は逆にアルファベットで書いてある方が、「絵のよう」で景観の邪魔にならないと思っています。
これも屋外広告物が持つ情報性、記号性に問題があるのだろうと思います。
屋外広告物の文字情報の問題点は「強制」になってしまうことです。本屋だと開いて読むまでは文字情報は入ってきませんが、風景の中にある文字だとそれを読まないわけにはいきません。読んで意味が分かったからには心理的作用を与えてしまうんです。
研究の背景は今言ったとおりですが、その目的は屋外広告物のどんな文字情報が景観に影響を与えるのかを明らかにすることです。数年前にも風景の中に文字広告や看板を入れて、SD法(Semantic Differential method 意味微分法と言い、意味やイメージなど複数の要素から構成されているものを、相対する言葉の対をいくつか用いて得点評価し、定量化する方法)でどれだけイメージが変わるかを調べました。今回はどんなタイプの文字グループがどんなタイプの景観に影響を与えるかということを調べました。
それから、どういう群の文字をどんな風景に入れると影響が出るのか。それを調べるため、写真の風景から広告物の文字を消してしまって、そこに五つのグループを順番に入れてイメージの変化を見ていきました。この実験には環境システム科の4回生29人が参加してくれました。
まず看板の文字を塗り潰し、文字が全く入ってない風景について評価し、続いて五つのグループの文字情報を入れた風景について比較・評価していくやり方です。五つの景観写真と五つの文字の組み合わせについて調べていきました。
研究の背景と方法
広告物と景観
田端先生がお話しされたように、屋外広告物の規制はその規模や位置、大きさに限らず、市によっては色彩を周囲と調和するよう規制することもあります。周囲が高彩度の場合、補色になる色を広告に使わないよう企業にお願いしている自治体がいくつかあります。京都市では広告以外に、照明についても指導があり、場所によってネオン管を直接外に出さないとか、チカチカさせないというルールがあります。
屋外広告物の文字情報は「強制」である
屋外広告物についてはそれ以来、景観の問題だとは思っていたのですが、なかなか具体的な研究ができませんでした。しかし、ここ2、3年ウチの研究室では学生さんの修士論文や卒業論文で取り上げるよう指導しています。今日の発表も、今来て貰っている高橋君が卒業論文でやってくれたものです。
研究の背景・目的
今の規制は位置・大きさ・色彩・照明に関するものですが、文字内容までは及んでいません。そんなことすると、この商売は書いて良い、これはダメと大変なことになります。ただ文字内容を放置しておくと、景観にふさわしくないものが出てくる可能性はあります。また、用途地域によってどういう内容の広告が出てきそうかもふまえて、規制をコントロールした方がいいでしょう。その時の参考にしていただければと思って、広告物の文字情報の研究に着手いたしました。
研究の方法
まず広告物の文字を町で採取してきまして、それを主成分分析でイメージが似通ったものごとにグルーピングしました。その結果、五つの広告文字グループができました。
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