都市公共交通と環境デザイン
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質疑応答

 

 

なぜ富山市助役はトータルデザインを考えたか

金澤(大阪産大)

 トータルデザインを考えるきっかけになったのは富山市助役の依頼だそうですが、助役さんはなぜトータルデザインをしようと思ったのでしょうか。プロジェクトの出だしで、これが一番重要なポイントだと思うのですが。

宮沢

 その助役さんが建設省におられた頃、まちづくりでは交通拠点が大事だと常々おっしゃられていて、交通拠点の移動を円滑にするためにはどうしたらいいかの研究会を、都市づくりパブリックセンターと一緒になってやっていたことがあるんです。

 その研究会では駅にはいろんなセクション、いろんな事業者がいっぱいいるのだから、案内のガイドラインあるいはマニュアルみたいなものを作る必要があるという議論を盛んにやっていました。流通路を作ってから後でサインを付けるのではなく、流通路を作る段階からどんな誘導案内が必要か、バスをどういう風に入れたらいいかを考えないと円滑な移動は難しいですよね、というような話です。

 その後、富山市の助役さんになられたのですが、富山市のLRTのプロジェクトが出てきたとき、その研究会のことが記憶にあったんじゃないかと思います。


高山線との連携について

堀内(都市交通問題研究会)

 富山市では高山線も富山と猪谷間の増発等も行いましたが、今後あそこへ駅を増設する計画はないのでしょうか。

宮沢

 細かいことは分からないのですが、市が考えている公共交通によるコンパクトなまちづくりの将来構想の中で高山線を何とかしたいというのはあります。まずは路面電車のネットワークを作って、その後高山線の話が出てくるのだと思います。ネットワークを作って、それをリンクさせて全体を活性化させようとする構想です。さっきの「串と団子」の例えで言うと、高山線は串の部分になると思いますが、高山線とのリンクもかなり現実的に考えているようです。


料金ワンコインが実現できたのは

藤本(京都芸大)

 今回のプロジェクトは私たちデザイナーが今までやりたかったことを全て実現された格好の事例だと思います。私も3回ほど乗りに行きました。

 ところで、今日のお話には出ませんでしたが、料金はどこまで乗ってもワンコイン(100円)ですよね。なぜそんな低価格で実現できるのかの秘密をうかがえたらと思います。

宮沢

 料金体系を作るのは我々ではないので、正確なことは分かりませんが、通常の料金は200円、昼間の乗客が少ない時間帯だけ100円となっています。

 多分市長さんの考えとしては、今は利潤を上げるよりはみなさんにどんどん乗ってもらってLRTの良さを実感してもらいたいという気持ちがあるのでしょう。

 言い忘れたのですが、富山市では公設民営と言っています。今の時代、インフラ作りから運営までをひとつの会社が手がけるのはほとんど不可能です。資金が回収できません。

 市長さんもそれを分かってらして、富山市ではLRTのインフラ部分は公設(国+県+市)、運営責任は第3セクターが持つというふうにしています。

 今、昼間がワンコインなのは、まちづくりの突破口のひとつの志として市民に理解してもらうのが大事という理由からなんです。

 採算計画とまちづくり計画のビジョンのバランスを取るのは難しいところだと思いますが、そういう背景で料金も決められたのだと僕は理解しています。


LRT普及の可能性について

當麻(大阪大学)

 2点ほど質問させていただきます。

 (1)今後日本で、LRT市場拡大の可能性はありますか。

 (2)ストック活用型でLRTに転換できる場合はLRTシステムは優位になると思うのですが、新設する場合のコストパフォーマンスはどうなっているのでしょうか。

宮沢

 路面電車は今日本のあちこちで話題になっていますが、富山港線は本当にまれなケースだと思っています。8割が既存線です。つまり極端に言うと、インフラにお金がほとんどかかっていません。それに加え、市長が「公設民営」の旗を振って国がそれを応援したという背景があります。もうひとつ特徴的なのは、路線を通すことで完結しないで、まちづくりと連動させようとしたことです。

 今、LRTを導入しようとして頑張っている堺、宇都宮、東京のいくつかの町も、それぞれ町ごとに事情が違います。だから、町ごとの事情が解決できないと、富山のようにはいかないと思います。しかし、鉄道などのインフラ施設は民営化されたとは言え、社会資産なのですから、その意義を法律面や国で考えていかないと、LRT普及は難しいだろうと考えています。

土橋

 LRTは地下鉄に比べたら敷設費が安いのが特徴だと言われています。地下鉄は1kmで300億のコストがかかります。LRTはそれに比べたら格安とは言え、20億、30億、場合によっては60億という声も聞こえてきます。独立採算を求められる企業としてLRTを作るとなると、どこの町にとっても厳しいんじゃないかと思います。幸い運輸省と建設省が一緒になりましたので、その点での縦割りの弊害は若干緩和されるんじゃないかとは思いますが。

 LRTが普及するかどうかは、安く作れるということで人口百万を切るぐらいの都市で普及が始まるかどうかにかかっているように思います。今の地方都市は自動車がないと生活できない所がほとんどですので、そういう所でLRTが定着すれば日本の未来も明るいという気がします。

 富山港線は本当にレアなケースで、富山市長はうまく事を運ばれたと思います。JRから廃線にともない10億円の手切れ金をもらって、それでイニシャルコスト(初期投資)を圧縮できたのではないかと推測します。

 また、昼間の料金が100円というのは秋までの社会実験なのですが、朝夕のラッシュ時にも料金が100円だと思っているお客さんも多いようで、降りるときにもめている光景も見たことがあります。本当は100円ぐらいで乗れるシステムがどこのまちにもあれば、どんどん町中も活性化していくのではないかと思うのですが。


市民参加のあり方

當麻(大阪大学)

 万葉線は地元がその必要性を認識して、ボトムアップでライトレール化が実現したという経緯があります。富山ライトレールは、これから市民にアピールしていくところですよね。その時の課題とか万葉線に学ぶことがあれば、お聞かせください。

宮沢

 万葉線も既存路線がかなり長いネットワークで出来ています。あそこに入った低床式電車は、ある意味地域のシンボルなんです。僕はそういう風に見ています。他は既存の路面電車が走っているわけで、メインの稼ぎ頭はそこなんですから。ただ、LRTは既存路線とは全然違うところで最初から事業として入っていて、そこの所が多分富山とは違う点だと思います。


新幹線富山駅のデザインは

難波(兵庫県)

 素人考えなのですが、ライトレールのコンセプトやデザイン要素を新幹線の駅にも使ったらいいのではという気がするのですが。

宮沢

 ライトレールの作業の中で、駅の検討をしているとき、富山駅北口について我々も検討しました。南北乗り入れを前提に話をしたら、新幹線から降りた人がライトレールに乗る状況もあるねという話も出ました。その時、委員会の中では連続一体型の駅舎と広場をやるときにはライトレールの時と同様にトータルデザイン委員会を作って富山の顔を作らねばならないという声がありました。その時はぜひやりましょうという事になりましたが、実をいうと実現できるかどうかはちょっと分かりません。

 なぜかと言うと、富山ライトレールは第3セクター1社だけなんですよ。駅舎+広場づくりとなると、企業としてはとても強力なJRさんが入ってくるし、いろんな会社、地権者が輻輳(ふくそう)してきて、その調整は困難になることが予想されます。

 ただ、勇気を持ってやればそれが出来る人は沢山いらっしゃるだろうと思います。そこに踏み切れるかどうかです。景観やデザインが大事だとは分かっていても、現実にはいろんな理由で取り組みにくい事情があります。とは言え、駅前は本当に顔として目立つ場所ですから、何とかしていただきたいと期待はしております。


どういう人が乗客なのか

彦坂(吹田市)

 現在、どういう乗客がどの区間を利用しているのですか。

宮沢

 データを持ち合わせていないので正確なことは言えませんが、何回か現場に行って見た範囲では、高校が沿線にいくつかあるので朝夕の高校生の利用が一番多いと言えます。昼間利用では、競輪場来場者が車からLRTに変えた人もけっこういるようです。また、昼間利用では沿線のスーパーマーケットを利用する主婦の方々も目立ちます。

 こうした日常利用に加え、近隣からの観光利用も増えています。LRT終点の岩瀬浜はきれいな街で食べ物もおいしいですから、LRT開通後は岩瀬浜の集客が40%ほど上がったそうです。


トータルデザイン料は

前田(学芸出版社)

 トータルデザイン料はいくらぐらいでしたか。

宮沢

 スタート時の見積もりでは1億を少し切るぐらいでした。最終的にはそんなにはいかなくて、6割ぐらいの額でした。トータルデザインだけでなく、個々のデザインも全部含めてです。

 仕事の内訳は、2004年の最初はコンセプト作りやアイテムの方針などのソフト関係、2004年の後半からは車両や駅舎、サインなど個別のデザインに比重が移り、2005年になると実施設計に入って、オープンまでは現場の監理までやって、その値段です。

前田

 個々のデザインを個別に発注してもその値段ですか。

宮沢

 いや、トータルにやった方がはるかに安くできます。個別の発注だと前提条件をそれぞれに考えないといけませんので、トータルで発注した方がコンセプトなどの前提条件が共通していますので、その労力を省くことができます。


なぜ信用乗車システムを採用しなかったのか

堀内(都市交通問題研究会)

 富山ライトレールは全車両が低床式で運行されたのは画期的ですが、信用乗車システムが採用されなかったのは残念だと思いました。これがないために後ろの扉から乗って前から降りないといけないから、車椅子やベビーカーの人がいると降車時に遅延が生じてしまうんです。

 信用乗車システムは前、後ろ、どちらからでも乗れてどちらからでも降りていいシステムですから、市民の合意形成を図り今後の日本でも導入していくべきだと思うんです。その点、どうお考えですか。

宮沢

 富山でも混雑時には両方のドアを使えるようにしようと、今検討しているところです。

 結局、料金システムをどうするかの問題になると思いますが、今考えられる問題として(1)ICカードと現金払いの人との混在、(2)将来南北乗り入れを実現した際、既存の地鉄の料金システムとどう連動させるかなどを解決しないといけません。

 信用乗車システムを実現しようと思ったら、少なくとも市内の路面電車全てで共通する料金システムにする必要があります。今のところ検討はされていますが、解決策はまだ見つかってないようです。

前田

 以前見学したときは、朝夕ラッシュ時の遅延がやはり問題となっていたようですが。

宮沢

 実はすでに一部の所では、朝夕ラッシュ時にはどちらから降りてもいいと誘導しています。そのための告知貼り紙(新しい料金システムのお願い)も必要になったりして、試行錯誤している最中です。

 私も公共交通ネットワークを作るときは、料金システムはとても大事だと考えています。路面電車だけでなく、バス料金とも連動させて考えていかねばなりません。多分、富山ライトレールは第三セクターとして初めて出来た会社なので、試行錯誤しながら何か解決策を見つけていくことでしょう。とは言え、あんまり時間がかかるのも困るので、せめて南北乗り入れの頃までには解決策を見つけて欲しいと思います。


パーク&ライドについて

稲葉(積水樹脂)

 お話の冒頭でパーク&ライドという言葉が出てきましたが、今回のプロジェクトではどのように展開されたのですか。

宮沢

 富山ライトレールと連動させた取り組みには、パーク&ライドとフィーダーバスがあります。

 フィーダーバスは、終点の岩瀬浜と中間の蓮町(はすまち)でネットワークの社会実験を一年間やっています。これはその左右に広がる工業団地などとのネットワークとのつながりがうまくいくかどうかを見るためで、うまくいくようでしたら他にもネットワークを広げていくらしいです。ただ、市街地から離れている人はまだ自動車利用が多いようで、担当者は「社会実験だからできているけど、採算性は問題だね」と言っていました。

 パーク&ライドについては、この沿線の中で車の駐車場を大きく取っているところはほとんどないです。スーパーのオーサカヤさんの駐車場がパーク&ライドになっているぐらいです。あとは駐輪場を意識して作りました。


身障者のためのガイドラインについて

高畠(スペースビジョン研究所)

 デザイン面からの質問です。駅の床の点字ブロックではデザインの工夫はどんなものがございましたか。

宮沢

 プラットフォームの点字ブロックに関しては、国交省の基準をベースにしています。また、トイレについても駅設置のガイドラインをベースにしています。

 ただ、正直僕はこうした基準やガイドラインが本当に効果があるんだろうかと思うんですよ。特に点字ブロックは幅の狭いところにすると、点字ブロックが真ん中になってあまり現実的ではない状況になってしまうんです。

 こういう身障者向けのガイドラインも新しく作り直した方がいいように僕は思うのですが。ただ、今のところは基準やガイドラインを遵守して作っています。


車窓からの風景について

長谷川

 以前、富山ライトレールに乗ったとき、「トータルデザインはGK設計がやりました」というマークが貼ってあったので、デザイナーの1人として思わず拍手をしました。

 それと私はランドスケープデザイナーですから、どうしても電車の窓から見える風景に興味があるんです。もちろんこれはGK設計さんに何の責任もないことですが、10年ぐらいかけて沿線のランドスケープも考えられたら本当の意味でのトータルデザインになるのではないかと思います。頑張ってください。

宮沢

 ありがとうございます。

 委員会の中でも当初、沿線の緑化や道路から見える所をどうするかの話題が出ていました。そういうところも、これから少しずつ前進していくのかなと思います。


さいごに

鳴海(大阪大学)

 宮沢さん、土橋さん、今日はどうもありがとうございました。

 関西では堺にライトレールが導入されることになり、今日は私もそれに関連して景観の話を堺市で議論してきたところです。富山の例のように、優れたデザインのライトレールが町中を走っている光景はそれだけで景観に寄与しますから、もっと全国に普及してほしいものです。

 東京に限らず、今日本中の電車やバス、モノレールは醜悪な広告を貼り付けて走り回っています。もっとちゃんとしたものを走らせないと、国の美意識が疑われてしまいます。今日はトータルデザインの仕事をきめ細かいところまで紹介していただいて、とても参考になりました。こういう力のある方に「醜いものをなくすにはどうしたらいいか」と国交省に働きかけてもらいたいと思います。

 とても貴重な報告でした。どうもありがとうございます。

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