質疑応答
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神戸市の近隣住環境制度では特に駒ヶ林南地区は、かなりの成果が上がっているとお見受けしました。狭隘道路整備は何年間で延べ何mぐらい出来上がっているのでしょうか。また、新しく創設された路地を活かしたまちづくりタイプの事業で、他に候補地はどんな所を考えておられるのかお聞かせください。
狩野:
神戸市の路地整備は「密集事業」でやっていますので、実は狭隘道路整備ではないんです。ですから、将来は4m道路に拡幅する前の整備というコンセプトです。もちろん駒ヶ林では将来的には路地を残す方向で、7年前から松原さんと話し合いながら密集事業としてはイレギュラーにやっています。
今まで路地整備を行なったのは駒ヶ林地区では3路線です。長田地区南部では全体が密集事業地区なので、その手法で数百mにわたってやっています。
近隣住環境整備については、全体の実態調査をしてないので、どのくらいの規模になるかはまだ分かりません。また、地区によっては、事業の中身もそれぞれ違ってきます。これからどうなるかは住民の意向次第という面が大きく、つかみきれてないのが実情です。
路地は昔の町の状態がそのまま残されている状態ですよね。今の法律に合わせてどう魅力的に作っていけるかを今日知りたくて、参加しました。
例えば、家が世界遺産にでも指定されたら、中に住んでいる人は改変が出来なくて生活が大変不便になってしまいます。システムキッチンが欲しいのに、それが許されなくて我慢するとか。不便さと魅力を、どう今の生活に融合させればいいのか、どなたかにうかがいたいのですが。
松原(スタヂオ・カタリスト):
私は、先ほどの神戸の事例に出た近隣住環境エリアの1丁目にこのほど事務所を構えることになりました。今おっしゃった古い路地の生活を不便と感じるかどうかはかなり相対的なものだと思います。私自身は路地にとても魅力を感じています。
ただ良いと思ったとしても、それを保全する方法について、今は都市計画のバリエーションが与えられていません。みなさん、路地の雰囲気にはとても魅力を感じているのに、今の都市計画では十分対応し切れていない。そこで、みんないろんなやり方でバリエーションを広げようとしているのではないかと感じております。
寺田(粋なまちづくり倶楽部):
路地に対する住民の見方は、十数年前までそんなに良いものではありませんでした。特に表通りの商店街は「路地がそんなに良いものか」と言ってました。
そこで、我々は路地の持つ機能を考えたんです。神楽坂は花柳界ですので、その路地は文化を生み出し、保有し、町に循環させる機能がある、それを訪れた人に伝えることができる。また、生活空間としても何かしら風情が漂っている、だからこそお店もそんな魅力を求めて次々と出店しているのだ。こんなことを13年間、いろんな所で強調してきました。今では、住民は「神楽坂には路地は必要だ」という意識になってきています。古いものを残そうと思ったら、やはり意識的な啓蒙は必要だと思います。
路地は日本だけでなく、世界中の古い町にあり、それぞれの魅力があります。ヨーロッパの路地はどんな状況ですか、井口さん。
井口(京都造形大):
世界にいろんな形の路地がありますが、私の得意とするイタリアの山岳都市には町全体が路地という所が多くあります。路地の持つ魅力は日本とも共通しますが、一番の違いは日本は残そうと思わないと残らない、イタリアは元が石造りですから、その路地があるという前提でまちづくりが考えられていることです。もっとも、イタリアの場合も正確には残そうとする意志がないと残りにくいのは同じなのですが。
ですから、日本でも「残す」と言うよりは、路地があることを前提とするまちづくりが考えられないかと思います。建て替えではなく、確認申請にかからない「修繕」でやっていくとか。30年ほど前になりますが、防火地区になってしまった料亭で、古い木造2階建てを小規模修繕と言いながら、構造も含めてほとんどそのままやり替えたという内緒の例を思い出しますが(私がやったのではありません)、そんな手法を一般化できないか思って聴いていました。
最後に鳴海先生から、今日の路地論議について何かコメントをいただきたいと思います。
鳴海(阪大):
何年か前、我々JUDI関西とJUDI中国が共同して尾道で路地セミナーを開催したことがありました。尾道は斜面に向かっていく路地でなかなか風情があっていいのですが、やはり建物の老朽化と住人の高齢化が問題になっていて、斜面の上の方の住宅の建て替えをどうしたらいいかを議論していたことを思い出しました。
路地は世界中にありますが、路地は生まれる背景や条件があって作られてきたのです。ですから、路地を今の時代に生かしていくためには、人々の生業や暮らしがそこで持続していくことが必要です。
我々もずいぶん前から路地に関心があって、いろんな議論をしてきました。日本の環境を考える上での大きなテーマでしたが、路地愛好家の言う「路地はいいもんだ」という言葉に地域の人はあまり納得いかないようでした。日々の暮らしも大変、環境整備も大変、住宅の建替えも大変。そういうことで、否定的に考える人が多かったと思います。
しかし、今日のみなさんのお話からは「風情」「好き」という言葉がポンポン出てきて、路地をめぐる社会情勢が変わってきたように感じました。路地セミナーが開かれたり活発な活動が報告されるのも、そうした情勢と無関係ではないように思います。20年前は「良い町だから保存すれば」と言うと総スカンを食ったものですが、ここ10年は同じ所で同じ事を言うと「そうですね、残したい」と返ってくるようになっています。大きな変化ですが、お住まいの方の意識の変化をとりわけ強く感じています。
また、祇園南の報告では「商売を続けながら残していく」というお話がありましたが、これは話すのは簡単ですが、実際に取り組むことは大変だなと思いました。しかし、これからのまちづくりにとっては、大事な観点です。単に環境や空間性だけではなく、生業と共に環境は生きていくという観点がとても重要なんだと、今日は大変勉強させてもらいました。貴重な事例の数々のご報告、ありがとうございました。
神戸の事例・その成果と今後の課題
北野(大阪府):
不便と魅力をどう融合させるか
太田(夢設計):
欧米と日本の路地
司会:
生業と共に環境を考える観点が大事
司会:
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