今日は空堀の路地まちづくりの最新事情を報告したいと思います。空堀は祇園南や神楽坂などに比べると、まだまだまちづくりの初動期です。現在、まちづくり構想をつくっていますが、その苦労や工夫を地域の目線からお伝えできればと思います。
空堀の路地から
DAN計画研究所 柴田容子
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平成17、18年と合わせて5件の修景物件が完成しました。そのうちの3件がお店でした。地区全体の建物は住居の方が多いのですが、修景整備はお店が先行して進んでいる状況です。 写真の事例は住居の修景物件です。これまでの修景物件は、商店街や通りに面している所にあり、「路地のまちづくり」と言いながら路地奧の家まではまだ手が届いていません。協議会の中では、空堀のまちは路地がキーポイントなんだから、もっと路地に焦点を当てていくことが必要なんじゃないかとの議論が出ています。
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空堀地区の路地ネットワーク |
地区の道路・通路を合わせた総延長のうち、約4割が通路、2割が2項道路ですので、あわせて約6割が路地ということになります。空堀地区が路地のまちと言われるのがよくお分かりいただける数字だと思います。
また、この地図を見るとお分かりのように、路地を含めて道がかなり複雑にネットワークしています。聞いた話では、昔は路地奧で賭博をやっていて警察が踏み込んできたら、地元民しか知らない路地ルートを抜けて逃げたそうです。もちろん、そういうまちですから、密集市街地と呼ばれる防災上の問題も抱えています。
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そこで、路地は魅力的だけれど同時に多くの問題を含んでいることに焦点を絞り、HOPEゾーン協議会では「路地部会」を作って検討することにしました(平成17年12月より)。“2項道路”とかいろいろ専門用語が出てくる話ですので、そうした知識のあるメンバーを中心に、4〜5名に集まってもらいました。 まずは、若い人に定着してもらうためにも、路地内の老朽化した建物の建て替えができるかどうか検討しようということになり、個別の建て替え手法の可能性について検討しました。
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例えば、路地の幅員が狭いままでも建て替えができる手法として、3項道路指定や法善寺横丁再建のように連担設計制度を使う手法、東京月島の事例のような町並み誘導型地区計画など、空堀の事例に当ててシュミレーションしてみました。でも、ほとんどの敷地が50m2未満、後ろがどん詰まりで敷地の奥行きがないということで、容積率と斜線制限に引っかかってしまいます。法律どおりにやると今でさえ小さい家がさらに小さくなってしまうことが分かりました。この現状だと誰も建て替えなんてしないだろう、現実に合ってない制度だね、という話になり、こうしてまとめたのが、以下の「路地まちづくりの方針」です。
このように、平成18年5月には一定の方向性を出しましたが、検討を進めるにつれ、路地内の建て替え更新をしていくということは、とても難しい問題を抱えていることが地元の人々にも分かってきました。そこで、路地部会の数人で話し合っていても埒がアカン、もっと地域全体で問題を共有して議論していこうという話になってきました。
路地まちづくりの方針
路地のたたずまいを受け継ぎながら住環境の向上が実現するような、空堀らしい、新しい建替え更新の制度づくりを目指し、地域と行政が連携して取り組んでいきます。また、地域の知恵を集めて、防災まちづくりに取り組み、安心して暮らせる路地づくりを目指します。
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空堀路地まちづくり会議でまず取り組んだのが、防災ワークショップです。 路地にお住まいの方は、高齢で単身の方が多いです。会議室で話し合いをしようといっても、なかなか外へ出たがらない。じゃあ、こちらから出かけようと、出張ワークショップのような形で始めたわけです。 写真のように、家の前まで出てきてもらって防災についてのご意見をうかがいました。これをやって大きな成果だったと思えるのが、今まで「路地のまちづくりなんて私たちの生活に関係ない」という態度だったまちの人々から「こんなふうに意見を言える機会があってとても良かった」と言ってもらえたことです。「HOPEゾーン事業のこともよく分かった」という声も多数あり、大きな成果になったと思います。
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ところで、密集市街地は火事の危険性があるとよく言われますが、空堀では何十年も大火がありません。実際お住まいのみなさんに話を聞いてみると、火を出さないように細心の注意を払いながら生活されていることがよく分かりました。バケツに水を張って玄関先に置いておくとか、お風呂にため水をする、天ぷらを揚げるときは濡らしタオルを用意するなど、いろんな工夫をうかがいました。建物や街の防災性を上げていくのはもちろん大事なことですが、こういう地域の作法や工夫の積み重ねで防災を担保していくやり方もあるのではないでしょうか。そんな方向性も見えたワークショップでした。
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その年の12月にはもうひとつ、50人のメンバーでワークショップを行いました。路地の井戸端会議では議論が広がらないので、地域全体にお声がけをしてのワークショップです。この時も人集めには苦労したのですが、新聞の折り込みチラシを3千軒に配ってみるなど工夫ました。それを見て来られた方もいらっしゃいました。 このワークショップでは、祇園南地区でまちづくり活動を支援していた元京都市職員の吉田先生に「防災まちづくり、まちなみづくり」でお話いただき、その後、空堀のまちをどうしていこうかとディスカッションしました。
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ひとつは住民のまちに対する意識なのですが、一言で言うと「総論賛成、各論反対」です。「路地は残したい、マンションが建つのはイヤだ、防災面も不安だから対策が必要だと思う」がアンケート調査の結果の大半なんですが、いざ個別の例を話し合うと様々な事情で「あ、そんなん無理やわ」となってしまうのが現状です。
ふたつ目は、住民感の意識の差です。大家か店子かで、町に対する意識に違いがありますし、路地に面してない空堀商店街の人たちは路地に対する熱意はあまりありません。また、路地に魅力を感じて移り住む人も増えているのですが、その人たちと元から住んでいる人との意識の差も大きいです。
今はこうした様々な意識の差を埋めていく必要がある段階です。
三つ目は、地主が地区からいなくなって、跡地が売られてしまうという問題です。地区内に住んでいた地主さんが芦屋や帝塚山に引っ越してしまうと、その2代目さんはもう空堀には何の思い入れもない。地主さんが地区内に住んでいたら、土地を売るときも一言店子さんに相談ぐらいしたものですが、今は何の相談もなくある日突然売られてしまうのです。ですから、地主さんの意識も地域とつないでいく必要があると考えています。
幸い、最初は「何のことだか」という顔で集まってきたまちづくり会議のメンバーも、今では「自分たちがやらねば何も動かない」という意識になってきつつあります。これは大きな動きへの第一歩だと思います。
今は空堀路地まちづくり会議50人のネットワークができ、アンケートもその方々を通じるとスムーズに返答があることも分かりました。最初に比べたら、素晴らしい進歩です。こうしたネットワーク作りからプレーヤーも育ってくるだろうと期待しています。
路地をとりまく住民の想い
路地をとりまく住民の想い
このような地道な活動をひとつひとつ積み重ねていくことで、段々と見えてくるものがありました。
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