一言で言えば、無料で出来ることであればあらゆる事に手を出していきました。出来ることなら何でもやるというわけです。
最初に問題になったのが、それまでの美術館のイメージ・所産・活動をどのように評価し、どのように受け継ぐかということでした。
ご存じの方も多いと思いますが、芦屋美術館の一番のお宝は具体美術作品の収集です。具体についてご説明しますと、吉原治良という吉原製油の御曹司がおりまして、彼自身も画家でもありましたし、《具体美術協会》のまとめ役でもあったわけです。
この吉原氏の元に色んな前衛アーティストが集まってきていました。例えば白髪一雄さん、元永定正さんなどは皆さんもよくご存じだと思います。嶋本昭三さんもそうです。そしてその一番若手今井して祝雄というJUDIのメンバーがいらっしゃいます。具体の面々は、実体のある作品もさることながら、色んなパフォーミングアート的なもの、さらに平面・立体等を組み合わせた活動をしておられます。この具体芸術については、国内よりも海外で高く評価されています。
それで、これをどうしようかという話です。当然大事にしなければならないのですが、市民の中にはこれが分からないというか、こんな市民に分からないものばかり大事にしてどうするのか、もっと一般に受け入れられやすい作品に注目すべきという意見もあったそうです。
これについて、芦屋市の美術館なんだから市内の幼稚園からいっぱい出してもらって入賞してもらったらいいじゃないか、という話が出るわけですが、実際には芦屋市の幼稚園はあまり入選しません。全国から、もちろん近畿が中心ではありますが、作品が集まってきます。そのことで、なぜ芦屋の税金を使ってやっている美術館の展覧会に芦屋の幼稚園の子供が入賞しないのか、というような話もやはり漏れ聞こえていました。
それからもう一つ芦屋市展というものがあります。これは芦屋市民向けの公募展で色んなジャンルがあります。こちらは市民中心のものだからいいじゃないか、という意見があるわけです。
このような美術館の存続問題に関わる周辺事情がありました。美術館そのものが問題だというよりも、美術館の姿勢が問題なんじゃないか、というような話も聞きました。ですからこれをどうするかという話になっています。
まず展覧会ですが、6月からやったんですが、3月は全く白紙の状態で、4月にやっと今年何しようという話を始めました。本当に走りながらここまで来たわけです。最初にやったのが「枕展」でした。これは芦屋在住のある方の個人コレクションです。その方は枕だけではなくて、色んな物を収集されているのですが、以前から美術館のことを心配してくださっていました。うちの学芸員と親しいということもあって、そのコレクションを借用して展示したわけです。
それから、従来は具体や童美展に代表されるように美術系のイメージが強かったのですが、ここは本来、美術博物館です。美術系だった旧の学芸課長が退職し、それまでいた歴史系の学芸員が学芸課長になり、歴史系の位置付けが重くなりました。その結果色々な企画が出て参りました。それ自身は決して悪いことではないと思います。
例えば「なにわ四条派」という近世絵画グループの展示を先ほど言った学芸員が中心になってやりました。近世から近代にかけての大阪と阪神間文化との関連を意識したものです。
さらに我々が今考えているのは、美術博物館なんだから、美術の展示と歴史あるいは博物の展示を別々にやるのではなしに、繋がりをもうけた企画展を行いたいという事です。これは我々の中で一致しました。去年はまだ思いつきでしかなかったのですが、今年はもう少し積極的にやっていこうと考えています。
それからさらに自然科学も使えないか。これはマーケットを見越してのことなんですが、子供達を集めようとすると、例えば昆虫とか恐竜とか、自然科学系の展示が良いのです。幸い芦屋川がすぐ近くです。芦屋川では自然や生態系を守ろうという市民運動がいっぱいあります。ですから、そういったグループとも上手くコラボレーションしながら、どうせ美術と歴史をやっているのだから、科学も混ぜてしまえという事です。ただ、それらをバラバラにやるのじゃなくて、これらをつなぐ明快なコンセプトを決めて展示していこうということで、進みつつあります。
ちなみに、岩手県の花巻に宮沢賢治記念館というのがあります。以前訪れたときに面白いと思ったのは、宮沢賢治はもちろん詩や童話などの文学作品もありますし、自身が農学校の教師でしたし、農芸科学者でもあったようですね。ですから彼を媒介にして、理科と文学と芸術・アート、それらが繋がるような仕掛けを考えているんです。今もお客さんが入っているかどうかは知りませんが、オープンした当初、僕は面白いなと思いました。
ですからそういった形で、美術と歴史を繋いでいくような企画展示を考えたいと思っています。
また、どんなところにお金がかかるのかというと、展示品の貸し借りというのは持ちつ持たれつの関係があるので、そんなには費用は発生しないのですが、その運搬費と展示ケースなどのしつらえ、それから当然保険。実はそういうことにものすごくお金がかかるのです。
しかし、とにかくお金がないので、少なくとも昨年一年間は今ある館蔵品主体、あるいは先ほどの個人コレクションをお願いしていくようなことやっていかないと仕方ないというわけです。
そこで鳥取の伝統工芸を扱いました。たまたま美術館に勤めている市の職員が鳥取県出身で、そんなことで決まっているわけです。大阪の駅前再開発ビルの中に鳥取県事務所があり、毎年そこでやっていた鳥取県の物産展をうちでやってくれないかという話をしました。ただ、いくらなんでも物産展だけというわけにはいかないので、因州和紙の展示会と即売会をやろうということになりました。
ちぎり絵を習っている人達のマーケットというものがあるんですよ。だからそういう因州和紙の作品を見せて和紙を売れば、近くのちぎり絵サークルから結構買い物に来てくれるだろうということを鳥取県の方から教えて頂いて、見事その通りになりました。
ということで、物まで売ってしまう美術館ということになったわけです。
これはそんなにお金はかからないですし、今までもやっていたことですので、それをさらに活性化していこうというわけです。
市民にいかに支持されるか、評価されるかということが存続のための一番の大きな指標ですので、学校教育の関係は、とにかくどんどんやっていこうということになりました。
たとえば、学校の社会科のカリキュラムに合わせて、昔の暮らしがどんなものだったのか実際に美術館に来てもらって見てもらい、また詳しい人に話をしてもらうといった講座も行っています。
こんな事はどこのミュージアムでもやっていますから、そんなにびっくりすることではないのですが、逆にどうして今までやらなかったのかしらという感じです。
さて新たに企画したのが「造形教育展」です。先ほど童美展の話をしましたけれども、童美展は芦屋の幼稚園はもう全然相手にしてもらえないというイメージだと言っていたのに対して、こちらは芦屋の幼稚園とか小学校低学年児の作品を期間を限って美術館で展示しますというものです。2〜3月にかけて行いました。
それまでも幼稚園や学校から色々依頼があったそうですが、美術館としてのプレステージを保つために、あまりそのような事には応えてこなかったそうです。それを市民にいかに支持してもらうかということで、そういうニーズがあるのであればやろうということになり、急遽やってしまいました。一年間でこれが一番入館者数が多かったです。それはそうですね、子供の作品が展示されたら、お父さんお母さんお祖父ちゃんお祖母ちゃんと皆来ます。とりあえず数字稼ぎはこれでいけるということもあります。
「アートフリーマーケット」は毎年秋に庭を使ってブースを50くらい区切って、といっても庭に線を引くだけでほとんどテキ屋状態ですが、造った絵画やアクセサリー、彫刻といったものを持ってきてもらって、それを売るというイベントです。これは以前からすごく人気があって、お客さんも多かったので、もっと積極的にやりたいということで、今年はもう春にやりましたし、秋にもやります。
問題は、アートフリマと言いながら、その辺のフリマと変わらないものが出てきている点です。一部それを楽しみにされてる方もおられるのですが、そういったクウォリティコントロールというのはなかなか難しいと実感しています。でもやりたいです。
それから古書市。ちょっと大きな玄関ホールがあるのですが、ここを古本屋さんにしてしまいました。当然古本を売るだけではダメなので、古美術・骨董の講座などもやりました。これが結構人気がありました。ちゃんと受講料を頂戴したのですが、沢山そういう趣味の方がいらっしゃる事がわかりました。
それからコンサートです。実は開館のときに、このミュージアム専用のグランドピアノを買っていたんです。ベーゼンドルファーという、専門家に高く評価されているピアノで、しかもいわゆる大きなホールで演奏するための大きなグランドピアノではなく、このホールの大きさに合ったグランドピアノでありました。それがちょっとルナホールに預けられていたりしたわけですが、これを使って、またこれに限らずいろんなコンサートをやっていこうということで、屋外やホールを使って開催しています。
ベーゼンドルファーのコンサートはつい先日も行ないました。その前にも一回やりました。これはなかなか人気があります。美術館のロビーは音が響きすぎて講演会などには不向きなのですが、コンサートには向いている空間なのです。
それ以外には70〜80人収容できる講義室があり、もちろん学芸員によるいろんな美術講座もやります。それ以外にもっと貸し館営業していこうとしています。
コーラスグループに貸したり、人形劇場に貸したり、写真展に貸したり、この間は三田市にある人と自然の博物館の講座の授業にも使っていただきました。これもちゃんと使用料を頂きましたけれども、要するにここでは貸し館営業をしているわけです。
AMMが主催する自主コンサートや貸し館事業、それから先ほど申し上げた喫茶室の再開など、いろんな事業をいろんな方のご協力で進めております。
3。活動の多様化
市民の美術館への不信感
では実際に受け手がどんな活動を始めたのか、あるいは活動する中でどんな議論が起こったのかという話をしたいと思います。
急ごしらえの企画展
企画展・学校教育との関係強化
さて今年1年間どういったことをやってきたかをお話します。
お金がない
本当にお金がないんです。年間の企画展およびそれから色んなアウトリーチ活動も含めた教育等、学校との繋がりイベント、などなども全部ひっくるめて使えるお金は1200万円程度です。皆さんの中にはプロの方もいらっしゃいますから、例えば200万円の企画展ってだいだいどのようなものか想像つくと思います。
学校教育との連携強化
これはどこのミュージアムでも当然おやりになっていることですけれども、学校教育との関係をどのようにしていくかということがありました。それも子供だけでなく美術系の学生達を集めてワークショップを行ったり、館内美術教室をやったり、また同時に、出前ですね、アウトリーチ活動をやりました。
多様な工夫
多様なイベントの模索
それ以外にも色んなイベントを催しました。とにかく今あのスペースを使って出来ることはなんだろうかということを考えてやりました。
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