質疑応答
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まちづくりの担い手は今どういう人たちか、どういう組織なのかについてうかがいます。
まず、地域の担い手の筆頭は商店会だと説明されましたが、実際にはどうなのか。また商店会のオーナーとテナントでは立場が違います。まちづくりには合意が必要なことがしばしばありますが、立場の違いで意見の食い違いなどはありますか。
横山:
宗右衛門町のまちづくりの担い手は商店会というよりも、活性化協議会です。活性化協議会は商店会だけではなく、宗右衛門町のまちづくりに関わる人なら誰でも参加できます。街の課題解決や将来像、その手法としてのルール作りなどを進めていくにあたり、まちづくりに関する基本的な意見はこの場で出し合い決めてゆきます。
まちづくりの為の会は、大きく分けて、まちづくりミーティングとまちづくり説明会を行っています。まちづくりミーティングで時間をかけて議論し、まちづくり説明会で、ミーティングで決まった内容を説明するという2段の方式を行っています。
会の開催通知は、土地建物所有者だけでなくテナントにも呼びかけています。ですからまちづくりに経費が相当かかっています。
まちづくり活動の中で特に、商店会理事会の方々が重要な働きをされています。今では数人づつのグループを作って、様々な時間帯で営業しているテナントや行政に働きかける活動をされています。担い手としては街全体で「みんなで考える」という姿勢を保とうとしています。なかなか参加者は限られてきていますが、この自由な話し合いの場が、無料案内所やホストの参加により、看板撤去の時等に見られるように街の人の努力と、彼らの力を借りて成功することができています。
2つ目の質問の「立場の違いがまちづくりに影響するか」についてですが、土地建物所有者とテナントの立場の違いより、まちづくりの話合いによく出席する人かそうでない人かによる差の方が大きいです。話合いを続けることで、意識の共有化は起こってきます。
その変化を強く感じることができるのが、商店会の総会時です。先日も総会が行われたのですが、年々総会の雰囲気が変わっていくのを感じています。どんどん積極的な意見が出てくるようになり、今年は予想をはるかに超えた参加者でした。また、発言の内容も以前は「どないかせなあかん」という内容ばっかりでしたが、今では東京からわざわざやってきて積極的な意見を述べるオーナーもいるぐらいです。
とても精力的な活動をされていることは分かったのですが、ただひとつ「宗右衛門町には安全がない、魅力がない、魅力的な店がない」とないない尽くしなのが気になりました。僕らがワークショップをするときは問題点だけでなく、町のいい所を伸ばすために長所についても議論をします。
宗右衛門町はもともと道頓堀沿いの料亭で客をもてなすというイメージの町です。川沿いにあるという立地上の利点をもっと生かすべきだと思うし、建物と川との関係を考えると、道頓堀川に出来たプロムナードに向けて建物をどう開いていくかが課題になってくると思うのです。
通り沿いのファサードの連続性やデザインの問題よりも、宗右衛門町の特質である川と建物の一体性をどう演出出来るかの方が問題だと考えます。可能性はいろいろあるはずです。今日は「川を感じる」という説明はありましたが、建物と川との関係性をどうすべきかは説明がありませんでした。もっと大きな発展性は考えられないのかということをうかがいたいです。
横山:
まず今日の報告は、宗右衛門町まちづくりの1000日のトピックスを報告させていただいており、これが宗右衛門町のまちづくりの全てではありません。
もちろん、街と川との古くからの関わり合いの話は、初期の街づくりミーティングでは、必ず出てきた話題です。宗右衛門町や道頓堀の古い写真を見ながら「ここには川へ降りる階段があった」とか「渡し船があった」など川とこの土地との関係や生活を振り返り、川と街について常に意識してきました。
自分たちの町の歴史を振り返り、川とかかわりのあった生活を見つめ川との関わりをデザインしたりという活動は積み重ねられています。“食と酒 川のある街宗右衛門町”と言うまちづくり宣言の中にこめられた思いには、川とのかかわりが宗右衛門町の魅力であるという意識の現われです。
それでは何故、とんぼりリバーウォークが完成すると同時に、建物は川を向かないのかと言うことがあげられますが、これには、単純ではない様々なこの街の問題が影響しています。
金澤:
景観協定の話も進んでいるということですが、その中に川との関わり、特にデザインはどんな風に書かれていますか。
横山:
景観協定も考えていますが、実はようやく地区計画を組み立てたところです。まずは、用途制限などの大枠の取り組みを行って、次に景観協定に取掛かります。
金澤:
僕が一番聞きたいのは、地区計画、景観協定の条文に川との関わりがどう書かれているかということなのですが。道頓堀川に接する所がどうなるかはとても重要だとおもうのですが。
横山:
川とのかかわりのある南側の建物は、いろいろな問題を抱えています。道路の高さと遊歩道の高さの違いや、川との関係を考慮してほしい対象を低層階にするか、1、2階にするかの検討も相当行っています。
前田:
さきほどは、詳しい説明をされませんでしたが、地区計画案では次のようになっています。
また景観協定案では、
このように用途は方向が見えてきたけれども、まだデザインなどの細かい話には至っていない。川沿いでも、にぎわいにふさわしい店舗を低層階に持ってきたいけれども、エレベーターが斜線制限のために奥(川側)に来てしまうと、難しいといったこともあるそうです。
だから、道側についてはセットバックする代わりに、できれば誘導型地区計画にして斜線制限をはずしたいんだけれど、まだその話し合いを始めたばっかりとのことです。
大枠としてはそんなところでしょうか??。
市民ディベロッパーファンドについて興味があります。具体的にはどう動くかが知りたいです。それから、ビル事業に直接参画してくるのは沿道のビルオーナーなのか、それとも地区に関係ない人たちが会社を立ち上げるのか、それとファンドの関係はどうなのかをお聞きします。
横山:
市民ディベロッパーファンドは、そもそも町の大きな課題(魅力的な店がない、客が来ない、不動産屋が頼りない)が先にあって、それを解決するために出てきたアイデアなんです。
いろんな課題を話し合ううちに、それでは自分たちが来てもらいたい店に協力を求めよう、それにはやはり資金を調達しなければという話になって、と、それに早く空いている部屋・ビルを押さえないと変な風俗営業が入ってきて大変だということで、まず資金を集めよう、それをうまく使おうということからスタートしたのです。
このまちづくりファンドづくりは、まちを支援する専門家だけで議論をするとファンドの作り手の議論になってしまい、話の規模が膨らみ、宗右衛門町のようにローリターン・ローリスクのファンドの話は難しく作れる余地が見当たらない状況に陥ります。
例えば、50億、100億の規模のファンドを作ろうと言った途端、誰がその責任を引き受けるのかということになり具体的な絵が描けなくなるのです。それでスタートしたファンド作りですが、宗右衛門町のまちづくりのためには、どんな規模の資金群が必要で、需要はあるのかなどと言った実態把握をした上でできることを考えていかなければ、できる可能性が見えない状況です。
大枠を議論した作り手の調査では、土地を購入しないのであれば15年の融資で絵が描けています。
お金を出そうと言う町の人達も大勢で始めてきています。しかし、権利関係を調整できるのか、誰が調整するのか、事務経費を含めて事業として成り立つのかと言う点ではまだまだ問題が山積みです。
前田:
要するに、お金が回る絵は描けても、手数料やその他経費のことを考えるとうまく動かないということですか。
ファンドというと、証券化を連想しますが、そうじゃないんですよね。
証券化といった話だけではありません。
不動産を取得し、運用益や値上がり益を狙う資本として入れていくならば成り立つ可能性があります。
一方、不動産を借りたいという人に融資するという仕組みにもっていくことも理屈のうえでは可能です。まちづくりとしては融資の方向でやっていくべきだという議論がありますが、いずれにしろ、ファンドとしてかかる経費と、利回りを生み出すのにはこの低迷期のこの場所では、問題が多すぎる状況です。
前田:
融資とは、お店をやりたい人にファンドから貸すということですか。そうすると手数料や管理にお金がかかるから、いっそのこと銀行から借りてしまえば良いということですか。となると銀行や国民金融公庫から借りられない人が対象になってしまうんですか?。
横山:
融資だけで考えると銀行の方が安いです。私たちもいろんな事例でシュミレーションして、融資を10年で返済するとファンドとしての採算は合うということは分かっているのですが、そういう銀行より高いお金を借りてくれる人がいるのかと思っています。
そうなると、ファンドは銀行から借りられない人たちのためだけの融資になるのかということになり、(最終的にはそういう形になるのかもしれませんが)、一度実際にはどういう人たちがどんな資金を必要としているのかを検討する必要があり、それと同時に、高いリスクを市民がどう回避するのかについても検討していく必要があります。また、誰が、どうその責任を負うのかという問題も解決してゆかなくてはなりません。
街が必要としている資金は、具体的には何なのかを実際あたって見なければ始まらないのです。今は作り手側で想像しているだけなので、具体的にはどうなのかを知らなければ、仕組みは絵に書いたもちになってしまいます。
角野:
この話には(1)市民ファンドを積んでどこかに融資するという話と、(2)市民がディベロッパーになってビル経営したりすることでリターンを図るという話の2種類あると思います。
ファンドからの融資の話は今の説明で銀行と競合する部分があるということが分かりましたが、ふたつ目の話、市民が直接ビル事業に出資してそれがうまく回り、まちづくり活動の資金になるという可能性はどうでしょうか。昔、アメリカで盛んだったTMOがビルを持つという話に近いものかなと思ったのですが。
横山:
将来的には角野さんが言われる不動産開発をやり、運営をするまちづくり会社のようなものを目指したいところですが、今は何も担保されていません。頭の中で考えただけで、実際どれだけの経費が発生するのか、それをどこで確保したらいいのかが具体的に分からない。実際にやってみないと分からないことだと思います。実体験を通して取り組もうと思います。
街の人は、例えば食堂を経営する、商売を展開すると言うことについては専門家ではあっても、街の組織を作るのはとても苦手のように思います。個人商店だと特にそんな傾向があります。優れた感覚を頼りに成り立つ商売と総合力のバランスやマネージメント力で進めていくしっかりとした組織とは、その仕組みが全く違います。街を維持していくために管理する組織作りをすることが街にはとても重要であると考えています。これらについてもファンド作りと同時に作っていく必要があり、ファンドができなくても、街にはこう行った仕組みだけでも作ろうと考えています。
公的資金の融資も、信頼性の高いエリアマネージメント組織ができれば、50〜100億の融資が可能という話も出ています。
先日のNHK番組の中で出てしまったファンドの話は、まだニーズの形もはっきり分かっていないのに、ファンドの話だけ先行してしまったという感じです。
堀口:
ええっと、質問と意見を言わせてください。
お金を貸してもいいという人はいるんですよ。でも、お金を借りて事業をするには組織が不十分ではないかという気がします。先ほど商店会の年間予算が百数十万円しかないとおっしゃったでしょう? その予算でタウンマネージャーを雇おうと思ったら、大変じゃないですか。今は、お金を集めより、ディベロッパーとしての事業をする組織作りの方が難しいのでは? そのへん、いかがでしょう。
横山:
大がかりなことからはいると途端に破綻してしまうのが現状です。今は足元から確実にやれることをやり直している状況です。確実なものにするための作業を今年一年かけてやろうと思っています。
ファンドよりも運用益はもちろん元金の償還も期待しない基金のようなものが必要なのかもしれません。街の中には、ファンドを基金的なイメージで考えている人も多いです。ただ、どちらの場合も、お店を出したい人に融資したり、建物を作ってテナントを入れて、いずれ建物は売ってしまったりするとして、それは誰が決めて誰が進め、誰が責任を負うのか。そういう話も議論しています。
商店会の議論の中では今年のテーマはテナントリーシングを積極的にやっていこうということで進んでいますが、これについても誰がやるのか、どういう組織で進めるのかと言うことが重要になってきます。
今はリスクも明確にするために作業している状況です。自分たちのお金だけを集めて、それで出来ることを決めていこうと思います。理想論を語るのではなく「誰がどうするか」をしっかり固めるのが今年の取り組みです。
ミナミでは、個性的な商店街の集まりであることから、商店の取り組みも、宗右衛門町、心斎橋、戎橋ではテーマが違います。しかし、ミナミ全体の機運としては、街の望むテナントを呼び込みたいと考えています。宗右衛門町の“食と酒”をテーマにしたテナント誘致を実践しながら、あるルール化をはかりミナミに応用できる仕組みを考えてゆければと思っています。
前田:
50億をどこからかひっぱってきて、あるいは既に出したいというところがあって、それに責任の持てる組織を作るということを目指しているかと思ったのですが。
横山:
もともとは問題が先にあって、それをどうするか、解決にはお金がいるよねという話です。そしたら、そのお金をどうするかという発端のところに帰るべきです。それがファンドという話が出て、ファンドの作り手の議論にどんどん行ってしまったのですが、今はそれでは違うよね、本当にできることをしようとみんな思っているところです。
商店会は毎年理事長が代わる団体です。だから、ファンドを作っても誰が責任持つの?どうやって維持するのといろいろ考えてしまうわけです。
今はファンドと言う時代の流行語を口走っていますが、足元をどうするかをしっかり固めることが今の街には重要で、それを基礎に次のステップを踏んでいくのだと思っているんです。
角野:
ええ店に入って欲しいから、基金的なファンドが家賃補助をするとか、お金を貸すというシンプルな話ですね。
この問題をどうやって解決するかは、いろんな所で関心を持たれているところです。
昔、建設省のあるグループでは小さい工務店がローカル・ディベロッパーになる方法はないかということを研究していたそうです。宗右衛門町のように町にとっては問題だと思えることも、お金を出す人は別の目で見ていて問題だと思ってないことがあります。だから、目的は問題解消だけど、そこに至る道にはいろんな見方があって、建設省のグループも工事が出来る人が町の課題を解消するやり方を組み立てられないかと検討したそうです。
角野さんの質問にもあったように、町としては問題解消が目標なんだけど、関わる人は全然違う見方をする可能性があります。いろんな目で見ると、けっこう面白い形ができるかもしれないと、今日の話を聞きながら思っていました。
今は全国の商店街の多くで空き店舗対策をやっているでしょう。あれはけっこう小規模なパターンで行われていると思います。
先般、旭川に行ってきましたが、旭川では商店街の空き店舗の空き地を会社が借りて、いろんな面白いことを始めていました。空き店舗対策にもいろんなバリエーションがあるので、調べてみてはどうでしょうか。
同じ大阪の船場でも宗右衛門町は建物の規模自体が小さいから、大きいお金を出してくれる所が来てくれないらしいですね。だったら、小口のお金を集めて面白い運用をすれば、けっこう小回りの利く対策が出来るかもしれない。そういう制度があれば、みんな欲しいと思っています。プロを集めてそういうことも考えてみてはどうかと思います。
前田:
今日はファンドという不慣れな話もあり、分かりにくいセミナーだったかと思いますが、最後まで聞いてくださってありがとうございます。
それにしても3年前のセミナーに比べると、ミナミにやる気が満ち溢れていることに驚きました。これも横山さんの努力が大きいのではないでしょうか。ミナミに横山あり、ということなのだと思います。
何にお金が要るのか、という話がありました。いつまでも横山さんのボランティア精神に頼っていないで、ちゃんと横山さんに支払うべし、と一言いっておきたいと思います。
今日はこれで終わります。
まちづくりの担い手について
堀口(アルパック):
川と建物の関係性を活かす地区計画を
金澤(大阪産業大学):
「地区計画の目標を実現するため、土地利用の方針を次のように定める。
(1)宗右衛門町のもつ歴史的風情や情緒を大切にし、美しく格調高いまちをめざして、誰もが魅力を感じる街並みの形成を図る。
(2)魅力と賑わいのある商業環境を形成するため、街の表通りとしての宗右衛門町通りと道頓堀川遊歩道に面する建築物の低層階は、宗右衛門町の持つ歴史的風情や情緒にふさわしい店舗や飲食店を中心とした施設立地を誘導する」。
そして道頓堀川遊歩道へ通じる出入口のある建物の1階と地階には店舗、飲食店を設けなければダメと書かれています。また地域全体でマージャン屋、パチンコ屋、カラオケボックス、倉庫の新設が禁止です。ただ遊歩道側に出入口を設けよとは書かれていません。
(1)宗右衛門町の特性を生かした街づくりを推進するために、原則として1階の用途は物販店や飲食店とする。
(2)宗右衛門町らしい街づくりを推進し地区の環境を守るため、次の用途を禁止する。
ア 風俗無料案内所等、まちの風紀を乱すもの。
イ パチンコ屋等、射幸心をそそるもの。
ウ ペットショップ等、「食のまち」にふさしくないもの。
エ その他騒音・悪臭・振動を発生したり、地域住民や来街者に威圧感を与えたり、危害を及ぼす恐れがあるもの。
とされています。
市民ディベロッパーファンドの可能性について
角野(関西学院大学):
小口のお金を集めて面白い運用を考えよう
鳴海(大阪大学):
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