質疑応答
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私は千葉県の利根川流域で市民参加の川づくりをやろうとしていますが、国交省との連携がうまくとれなくて活動がスムーズにいきません。田村さんにお聞きしたいのは、(1)淀川流域は外部のシンクタンクが事務局だと聞いたのですが、武庫川の場合はどうなっているのですか。(2)叩き台のようなものを事務局が用意する、しないの話があったら教えてください。
田村:
事務局は武庫川も多分淀川の場合と一緒だと思います。事務局といっても委員への連絡、資料配り、会場の設営、記録作成など限られた仕事に限定していたと思います。土木系のコンサルは入っていますが、基本的には委員会主導で進めました。だからこそ1000時間の議論になったわけです。
また叩き台については河川管理者である県が流域委員会にかけたい資料は事務局で用意していましたが、その他の環境やまちづくりなどについての資料は委員の手作りです。それを運営委員会に出して了承してもらって、本委員会で議論するという流れでした。
3点ほど質問があります。
(1)兵庫県は川づくりが先進的な県で、ひとつは夙川パークウエイ構想で河川沿いの松林を道路事業で残したという実績があります。また、芦屋市は芦屋川沿いを風致地区に指定することで、スカイラインが5階で揃い、川と都市が調和した景観を創出しました。都市と河川の関わり方という点では阪神間は先進的な所だと思います。
都市づくりを進めるとき、県の中では川と都市の関係がしっかり議論されて、ノウハウが位置づけられているのでしょうか。
(2)去年、国交省河川局が河川景観ガイドラインを作りました。私もそのガイドライン作りに参加しましたが、河川側も最近は都市側を意識し始めたように感じました。ガイドラインを作るとき、全国の河川を自然河川と都市河川に分ける作業があったのですが、武庫川は自然河川か都市河川か分類するのが難しく、議論になりました。田村さんは武庫川について、どういう河川像を持っておられますか。
(3)今日見せていただいた地図には、河川沿いに洪水おさめの神様である須佐男神社がたくさんあることを興味深く思いました。洪水おさめの神様がたくさんおられ、その神社が鎮守の森になっているのは空間の資源だと思います。私は個人的に石に興味があるのですが、武庫川は昭和初期に武庫川石というブランド石を産出したことで知られています。河川改修の際、たくさん出ているのですが、それを景観づくりにうまく使っていると思います。武庫川石はカルテには入っていなかったので、私が指摘させていただきました。
田村:
しかし、管理する河川部局のお役人の頭がどうしてもカタイ。自分たちが動かしてきた特権が取られてしまうという被害妄想があるんじゃないかと思うこともあります。国交省のトップなんかはだいぶオープンになって、自分たちから新しい発想を積極的に言うようになりましたが、中間の県レベルのお役人は新しいことを言うと上に怒られるのか、どうしても中途半端な感じなんです。何を話しても馬耳東風です。
オープンな議論をするためには、やはり我々だけでなく地域の人たちがいろんな視点から意見を出していって、役人の固い頭を柔らかくすることだと思います。
誤解のないよう言っておくと、役人が無能だということじゃないんです。担当している人はコンサルも含め、徹夜作業も厭わず大変な努力をしています。ただ、その結果が治水に偏り勝ちなんですね。責任感が強すぎるのかもしれません。治水以外にも、もっと目を向けるようになって欲しいと思います。
なお、須佐男神社が流域に多いのは、それだけ武庫川が暴れ川だったということです。暴れ川を無理矢理押さえつけると、いったん大雨に見舞われたらヒドイ被害になるのではという議論もありまして、暴れても被害を減災できるように流域対策を考えるのも大事な視点だと思っています。
宮本:
今回のテーマは「都市と河川の関係」ですが、私たちの河川像はヨーロッパの都市河川像をイメージしたくても、どうしても土手を指向したり、自然河川に近づけてしまうところがあります。都市河川と言うと大阪の道頓堀ぐらいで、なかなか日本独自の都市河川の景観イメージがわきません。
田村:
河合先生がおっしゃっているように、ヨーロッパの川と日本の川は違うんですよ。ヨーロッパの河川はパリのセーヌ川、ロンドンのテムズ川のようにまさに都市河川で、河原がないんです。だから、川のすぐ横は建物だったりする。しかし、日本の川は急流が多いから、どうしても河原があって自然風の景観とならざるを得ない。川の特徴を考えると、武庫川も自然河川に近づけた方がいいように思います。
それを無理矢理都市河川にしようとやってしまうから、変な景観になってしまうのではないでしょうか。その一番ヒドイ例は北九州の紫川で、いろんな施設が流域に出来ていますが、もうちょっとやりようがあったのではないかと思います。
宮本:
そういった議論が出てくるのは、やはり宝塚のあたりですか。
田村:
議論というより、河川景観と街並み景観が一体となるまちづくりをしていくべきだという話をしているんです。ところが、都市側である宝塚市は景観条例をしているわりには「河川景観はコントロールできない」と言うんです。景観の問題では何回か裁判で負けているから、よう手を出せないんですよ。
逆に言うと、マンションが建つのはしょうがないけれど、マンションとマンションの間にスリットを入れて山の景観が川から見えるようにするなど、建物と川の風景が合う条例が必要だと思います。今のように規制が何もないままだと、川べりに川を目隠しする壁がどんどん建つばかりです。
ランドスケープの仕事をしている関係上、私も川と風景にこだわりがあり、この30年間日本のいろんな川の風景を見てきました。今日のお話の感想を言うと、河川は土木工学的な視点からはどうしても治水・利水が主体になるし、まちづくりの視点からは遊水や景観が主体になって、なかなかリンクしにくいと思っています。
また、日本の川は本来田園風景や農村風景の中を流れるものというイメージが定着しています。「兎追いしかの山、小鮒釣りしかの川」という歌に代表されるように、川を歌ったものは農村を背景にしたイメージが強いですね。ですから、都市河川は日本の都市が近代都市に生まれ変わってから出てきたものですから、歴史としてはとても浅い。
こういうことを考えると、日本人にとって川の文化とは長く生活してきた田園の中のイメージのものだろうと思います。都市の中の川も、本来は景観、水、生活との関わりを大切にするところから発想していくべきだろうと考えます。
田村:
おっしゃるとおりだと思います。三田と武庫川の間には今9本の橋が渡っていますが、なぜうまくリンクした景観づくりが出来ないのかと腹立たしい思いです。詩人の三好達治の碑がある橋もあるし、工夫すれば面白い景観になるのにといつも思っています。アイデアは市民にいっぱいあるのですが、残念ながら行政だけが聞く耳を持たない。「お金もないし、じゃまくさいからやりたくない」という姿勢に見えます。お金のあるなしとは関係なく、良いアイデアがあれば一番いいデザインを選ぶことも出来るはずですから、みなさまもどうぞ頑張っていただきたいと思います。
最後のまとめコメントですが、河川は専門ではないのでなかなか難しいところです。
田村さんのお話の中で「ヨーロッパ人は森で遊び、日本人は川で遊ぶ」ということが、言い得て妙だと印象に残りました。
フランスのオギュスタンベルクさんが「郊外風景を見ると泣けてくる。文明が進むほど、郊外が壊れているのが見える」と言ったことがあります。日本でそんな危機感を感じる空間はやはり川でしょう。私も田舎育ちですから川で遊びながら育ってきたのですが、今の日本には都市、田舎を問わず遊べる川がなくなってしまいました。
環境が悪い方向に行っていることは、日本では特に川で感じますね。もちろん、良い川も日本には残っていますが、我々の生活の中の身近な川が悪化しているのです。それにどう取り組んでいくかは、田村さんがおっしゃったように多面的に取り組んでいかねばならないでしょう。河川空間は最近のJUDIセミナーで取り上げてなかったテーマです。自然環境的なことも我々は取り上げていく必要があると感じた次第です。
最後に、ボランティアでここまでのお仕事をされた田村さんの熱意に敬意を表します。今日はどうもありがとうございました。
事務局と委員会について
藤原(千葉県):
都市と川の付き合い方について
宮本(武庫川女子大):(1)兵庫県の河川政策について
兵庫県の河川政策が先進的なのはおっしゃるとおりだと思います。流域委員会が出来たのも、当時の貝原知事の英断のおかげですから。今の知事も理解があるから、こうして物事が進んでいるわけです。(2)武庫川が都市河川か自然河川
中流では当然自然河川です。阪神間を流れる川は大半が都市河川ですが、武庫川では川の中だけでも自然河川のような風景に戻せないかという話は出ています。流れを自然の川にまかせて自然な景観になるようにすべきだという意見がありました。(3)地域資源について。
地域資源を上手に使うことは私も全く同感です。地域の素材をうまく使えば、地域のまちづくりデザインもオリジナルな特色が出てきます。周辺の民家も腰積みでうまく使っているし、新築の家も敷地から出てきた石を使うことで周辺に溶け込みますよね。それが地域色になっていくんです。私も委員会では「河川改修で出てきた石を使わんと損やで」と常々言っています。
都市河川も生活や景観との関わりから始めたい
長谷川:
日本は川で環境の悪化を知る
鳴海(大阪大学):
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