『地球家族』表紙 |
15年前の東京の家の写真では、大量の物であふれています。学生の頃の私は、この大量の物に囲まれた暮らしが特におかしいとは思いませんでした。経済が右肩上がりに成長していく時代でしたので、大量消費型のライフスタイルは日本では普通というイメージでした。
その一方で、ショックを受けたのは当時のブータンの家の写真です。家の中の物を全部出しても、ほんの少ししかありません。目を引く物は仏教関連の祭具ぐらいで、あとは農耕具が少しあるだけです。学生の私は、自給自足とはまさにこのことだとハッと気がついたわけです。
実際にこういうところに行ってみると、日本が失ったものがよく見えてきます。例えば食事風景ひとつとっても、日本なら家族がバラバラに食べているのが今では当たり前の状況かもしれませんが、ブータンでは食事時には家族だけでなく隣近所の人たちが集まってくるんです。必要なものだけを食べ、さらに分け与えるという文化がまだブータンには残っているんです。日本では、個人化、個別化の時代だと盛んにいわれますが、日本が失ってしまったものはやはり多いのではないかとブータンで考えた次第です。
ブータンでは調査項目の中に「あなたは幸せですか」という質問があるのです。それに97%が「とても幸せ(Very happy)」「幸せ(Happy)」と答えています。都市部、田舎とも同じような数値でした。日本ではどうでしょうか。この国ではGNPではなくGNHを目指しているそうで、HとはHapinessのことです。最近ではHapinessではなく、Contentedness(今あることに満足)という用語を使おうとしているそうです。
国の機関であるCBS(Center for Bhutan Studies)がGNHの定量化を目指しています。これは、大量消費の社会のあり方を変えていくには精神的な豊かさを考えていかねばならないという観点から、特に西洋の国々から大変に注目されている取り組みです。
※ブータンについては日本の原風景を探る−ブータンから何を学ぶか参照。セミナー委員会注記。