だんじり祭りを歩く
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人なつかしいお年寄りによる新しいだんじり観光の方向性

アウトドアでまちづくり!有限会社ピューパ 渡邉 隆

 

羨望を集める岸和田だんじりの上品さ

 岸和田市の観光振興計画策定というプロジェクトにおいて、岸和田と関わりの浅い観光関係、景観関係、伝統文化関係などの研究者を外部の有識者として招いて実踏会と座談会を行いました。そのとき有識者の1人、ちんどん屋として全国の祭りや商店街を歩いている(有)東西屋社長の林幸治郎さんが岸和田だんじりのお囃子を録音したテープを聴いて、「他では聞けない雅(みやび)な音、上品な音やね…」と驚かれました。

 岸和田だんじりはその規模はもちろん、全国的にメジャーなお祭りとなりましたが、どちらかというと勇壮さ、荒々しさが形容されてしまい、その質的なレベルに関してあまり語られることはありません。林さんが感じた“雅さ、上品さ”という言葉が実は、岸和田だんじりを読み解く重要なキーワードなのです。

 宵宮の前日に行う試験曳きも含めた3日間で、毎年50万人、60万人という見物客を集める岸和田だんじりは、日本のだんじり業界においても、あらゆる意味でトップランナーであり、観光客のなかには全国のだんじり関係者が大勢含まれています。彼らは自分たちの地域の祭りにおける質的レベルを引き上げ、より安全な運営体制を作り上げるお手本として岸和田だんじりを視察しており、「岸和田のだんじりはいいなぁ…」、「ウチのだんじりもああ(雅に、上品に)なりたい…」と、ため息交じりで見物されています。実際にお話をうかがうと、林さんの感想と全く同じで、相当量の練習をつんで奏でられるお囃子は、他では決して聞けないものということでした。同時に赤、黒が巧みにデザインされ統一感のある法被の色。自治力ともいえる地域住民の統率された動きがだんじり関係者の羨望を集めることはもちろん、毎年微妙に変わる運営体制の細部、だんじりの改良(意外にもハイテク技術が使われていたりする)といったディテールなどが見逃せない要素となっているようです。


上品さがわかりやすい宵宮の灯入れ曵行

 岸和田だんじりの雅さ、上品さを最も感じ取れるのは、なんといっても宵宮の夜に行われる灯入れ曵行で、日中の動的なだんじり曳行と対照的な趣があります。残念ながらこちらはメディア的に取り上げられることが少なく、関西在住者であってもご存知ない方が多いかもしれません。また、昼夜、動静、陰と陽の狭間となる時間は、夕食などをはさんで祭礼関係者と家族、だんじりが一体となったまちが“ひと時の休憩”をとる時間となり、意外な静けさのなかに家族の団欒が聞こえ、おいしそうな食べ物の匂いが漂ってきます。このときの雰囲気が「妙にうらやましく感じられる日本性」が漂うもので、なんともいえない“祭りあるまち”の上品さを感じることができます。

 だんじり観光で訪問されるなら、やっぱりお昼過ぎからこの大切な“ひと時の休憩”を目撃し、灯入れ曵行をご覧になることをお勧めします。さらにこの時間帯で目撃できるものには全国のだんじりマニアが凝視するであろう、だんじりのピットイン(提灯の設置はもちろん、だんじり倉庫での車輪の入れ替えやメンテナンスを行う)もあり、特筆モノなのです。

 一年の全てはだんじりのために消費される…とまで称される岸和田の皆さん。メディアでは破天荒な、勇壮過ぎる捉え方をされてしまいますが、実際にはきわめて優しい、美しい時間も持ち合わせてこのお祭りを続けているわけです。陰陽両方で一体となっただんじり、機会があればお祭りをのぞいていただき、それを実感してほしいところです。


新しいだんじりの観光について

 だんじりをやっていない、お祭りではないときにだんじりのメインストリートである本町通(景観保全区)を歩いて、路上に書き残された独自の「だんじり停止線」や、傷がついて祭りの痕跡を残す家屋をまじまじと観察していると、どこからともなく現れ、だんじりについて、本町の城下町について語りだしてくれるお年寄りに出会うことがあります。そしてこれが、それほど珍しい出会いでないことに気がつきました。現地に赴けば100パーセントに近い頻度で、別人のお年寄りが近づいてくるのです。比較的大勢で歩いた、冒頭の有識者による実踏会の時もそうでした。

 地元の観光ボランティアの方にこの事実を確認すると、ボランティアの方々が解説してまちなかを歩いていても、観光客に近づいて“知ってることを話したいという目”をした地域の方が多い…ということでした。見ず知らずの観光客に対して、積極的に話しかけ、わがまち、わがだんじりについて話したい人が大勢いるというこの現象は、岸和田では常識なのかもしれません。メディアでは伝えきれない岸和田だんじりの事実、雅さ、上品さを知ってもらいたい…祭りの痕跡が残る場所だからわかってほしい…そんな思いを強く持つ、現役を退いただんじりの老兵たち。

 アウトドアの観光、エコツアーでは全体的なプログラム進行を担当するガイドとは異なり、地域の自然特性を中心に解説する住民や研究者をローカルガイドと呼び、プログラムの専門性を高めるうえで重要な役割があります。だんじりについて語ってくれる人なつかしいお年寄りは、自然発生として歴然と存在するローカルガイドということができるでしょう。

 一年のうちの3日間に、何十万人もの観光客が集まるお祭りという構図は、あらゆるストレスがその期間に集中し、各種の問題が噴出してしまいます。その集中を緩和する意味でも、別のベクトルとしての岸和田だんじり観光が必要であり、人なつかしいお年寄りによるローカルガイドはだんじりを持つ岸和田の雅さ、上品さを伝えていくうえで、極めて重要な役割を発揮するのではないでしょうか?。

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