都市デザインと都市の魅力アップ
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都市の魅力アップ

 

●行政まちづくりの限界

提案が実際のまちづくりに活かされない
 ここから具体的な話に入りますが、提案が実際のまちづくりに活かされない、提案だけではなく、いろんな人の考えが活かされないのです。

 魅力のある都市のありようについて、これまでも様々に論じられてきました。例えば、JUDIでもいろいろと頑張っていただいた亡くなった材野さんが、『かいわい−日本の都心空間−』というなかなかいい本を書いています。

 それから、望月さんが『マチノロジー:街の文化学』という本で、屋台などについて書いています。私自身も『都市の自由空間』や『都市デザインの手法』という本を書きました。しかし、残念ながら、こうした提案がまちづくり施策において具体的に取り上げられることはなかったように思います。

 材野さんの『かいわい』という本を読んで、界隈というのはこんなに面白いんだと学生時代に勉強した行政マンもいると思います。望月さんの屋台とかも面白いといって勉強するのですが、仕事につくと、勉強したことを主張して実現しようというふうには、なかなかならないのです。

行政まちづくりの限界
 それはとても変だと思っていました。

 魅力のある都市づくりは多くの自治体の目標だったはずです。しかし、自治体の計画は総花的で、多くの場合は、集客施設整備が重視されています。

 理由は様々ですが、自治体の事業はプロジェクト優先型で、国が枠組みを決めている事業をやって、補助金もらうことが優先されるからです。この場所を面白くしようという発想がないのではないかと、これまでいろいろなお役所とお付き合いした中で強く感じるようになりました。

 もう一つの理由は、魅力のある都市、面白い都市、そのような都市を形成する方法が解からないからだと思います。とりわけお役所がということですが。

 一方で、我々の仲間も都市がこうなったら面白いということを、ヨーロッパやアメリカの事例から勉強して、ボキャブラリーや考え方をいっぱい持っているのですが、それは本棚にあるだけなんです。実際のまちづくりの現場に出てきていない、と感じるようになりました。

街と共に楽しむ暮らしが魅力を生み出す
 魅力のある環境は、大掛かりなプロジェクトによってのみできるのではないのです。また、行政主導の「公共的なプロジェクト」によってのみできるのではなくて、魅力は既にある環境の中から、それを育むことによって生まれるのだということを認識すべきです。

 だから、「事業」とか「プロジェクト」とは別の言葉が必要です。私たちが普通に、「街と共に楽しみたい」時にどうするのか、というのが出発点にならないと、街はいつまでも面白くならないのではないかと、この10年来考えるようになりました。そこで1998年に都市大阪創生研究会の設立を提案したわけです。


●都市大阪創生研究会の発足

都市大阪創生研究会 設立趣意書
     
     「21世紀に向かってさらなる飛躍を現実のものとしていくためには、的確な将来目標の設定と、これに向かった着実な社会基盤の整備をおこなうことが不可欠になっています。
     このような時代にあって、今、改めて都市における居住と文化、産業のあり方を再構築する方向を見つけ出す必要があります。特に、阪神・淡路大震災は、最も厳しい形でこの問題を突きつける結果になりました。
     新しい時代に向けての都市のリノベーションは、市民的な支持を得ながら、行政・民間のパートナーシップによって実現されるべきものと考えます。
     このような認識に立って、大阪の未来とそこに至るべき道を考える場の設置を呼びかけます。ここでの、下記のような相互の情報交換ならびに共同研究は、必ずや大阪の未来に貢献する成果をもたらすものと確信します」。
    1998年1月 呼びかけ人 大阪大学教授 鳴海邦碩。
 
 これはお正月に考えたことで、いろんな方々に提案してこういう会をつくることになりました。このとき何を考えていたかを少々説明します。

 例えば大阪市のどこかでまちづくりが進められる場合、その内容が公開されるのは計画が具体化して、もう着手寸前の段階になってからというのが通例です。最初のプロセス、何を誰が考えてこうなったかは誰も知らないまま、計画だけが出されるということがあまりにも一般化してしまった時代が長く続きました。我われのように比較的役所とつきあいのある専門家でさえ、そのプロセスが把握できないという、とても特異な状況だったと思います。

 今でこそ、民間からいろんな都市計画提案を提案できるという制度改革がありましたが、まちづくりについて主体的に提案して検討する民間グループを、もっと作らなければならないという思いがありました。

 そうした背景があってこの都市大阪創生研究会を作ったわけであります。

都市大阪創生研究会WGの活動
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都市大阪創生研究会WGの活動
 
 この研究会は企業を会員としています。年会費が1企業50万円で、10社集まると年間500万円というけっこうな額の活動費になります。

 研究会の実質的な内容は企業の部長クラスの勉強会です。どういうテーマでどんな人を講師に呼ぶかなど、いろんな段取りをとりながら定期的に行なっています。一方で、この会のミソは各企業の若手社員(入って2、3年ぐらいから30代ぐらいまで)と技術アドバイザーで構成されたワーキンググループで、いろんな活動をやってもらうことです。そして、大阪をどう考えたらいいかなどいろんな調査をいたしました。

 図にあるように、最初の年(平成11年度)は「都市大阪のリノベーション戦略に関する調査」と題し、市街地特性の観点から見た市域の分析、戦略的開発が可能な候補地区の抽出を行いました。そして北ヤード、新大阪、船場、都島地区など17地区を抽出して整備イメージの検討を行いました。

 大阪のまちについては、どんな調査をやっても、ある特定の場しかみなさんが思い浮かべていないという結果があります。つまり、大阪市域にはイメージが空洞になっている場所がとても多い。そのため、大阪は分かりにくいとか、魅力がないとかという言い方をされることになってしまいます。本当は魅力的な場所がいっぱいあるんです。それをまず掘り起こそうと、17地点を抽出して、どんな特徴がある所なのかを検討したというのが最初の作業です。

 最初は8、9社でスタートした会ですが、大きな企業が多いですから、大阪へ転勤でやってくる人が多いんです。そうすると大阪の会社でありながら、大阪については何も知らないという人が多くおられます。それは変なことですよね。でも、そういう事情は役所も同じかもしれません。「誰が大阪のことを知っているか」については、本当は誰も知らないという大変な状況かもしれないと考えてしまいました。

 ですから、具体的な作業としては、最初はみんなで大阪中を歩くということをしました。単身赴任してきた新しい課長さんだとか部長さんだとかを連れて歩くことで、「大阪もなかなか面白いところなんだ」と気づいてもらうことにしました。一度大阪の魅力に気が付けば、次に来る人にもそれを言い伝えてくれるでしょう。できるだけ現場体験をして作業を進めることを基本としました。


●都市大阪研究会の研究と提案

これまでの提案等から得られた魅力アップの素材
 翌年からは、最初に挙げたいくつかの地区をもっと詳しく掘り下げることにしました。平成12年度は船場地区、都島地区、平成13年度は堺筋地区、中之島地区というふうに作業を進めてきました。その一端は
行ってみたい大阪・船場と題し都市環境デザインセミナーで報告させて頂いています。

 2003年度ワーキング活動報告では、「これまでの提案等から得られた魅力アップの素材」をまとめています。

 これは、これまで一緒にやってきた若い人びとから「こういう発表したり提案したりの活動は何の役に立つのか」と疑問が出てきたことから、一度立ち止まって考えてみようということでまとめたものです。

 これまでの船場、都島、中之島の3つのワーキングから、私たちが何を問題として何を提案してきたかを分析してみました。

 その結果、おぼろげながら我われの関心は3つぐらいのグループに分類できそうだということが見えてきました。「公共空間の新しい活用方策」「既存ストックを活用した活性化策」「地域から起こる新たな文化的活動」がその基本ユニットです。この3つは、どの地区を検証しても必ず出てくる共通点なんですね。

 そして何かを実現するとしたら、どこを攻撃すると良さそうだということも見えてきました。

魅力アップ方策の基本ユニット
 この基本ユニットをもうちょっと細かく整理すると次の通りです。

     
  • 魅力ある水辺空間づくり
  • 歴史的ストックの魅力的な再生
  • 仮設利用で魅力ある場づくり
  • 魅力ある居住環境づくり
  • 魅力ある教育環境
  • 快適な交通システムづくり
  • まちかど情報化
  • 魅力あるブランド・ステータスの創生
  • にぎわいシンボルづくり
  • まちづくりの方法等
 
 いろんな地区の魅力アップの方向を検討するワーキングを繰り返していくうちに、その対策はいくつかのカテゴリーに整理できるということが分かってきました。


●自前「社会実験」への挑戦

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自前「社会実験」への挑戦
 
 我われの関心のあり方や発見した問題の構造は、こういう作業を繰り返していると見えてきます。そこで我われは提案を実現できるものからやってみようと、実際に社会実験として動き出すことにしました。ですから平成15年のワーキングは、「自前社会実験」への挑戦にしました。これはお役所でやる社会実験とは違うミニ社会実験です。「水辺」「古い建物」「仮設」「ブランド化」という4つのテーマで、それぞれのグループが取り組むことになりました。

モダン大阪スタンプラリー
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モダン大阪スタンプラリー
 
 ある地区の構想や計画を作るのとは違って、今までやってきた内容を整理していくと、どこがテーマに合う対象かが見えてくるんです。

 古い建物でまちづくりできないかと話し合ってきたグループは「モダン大阪スタンプラリー」というミニ社会実験を考えました。船場地区にある古い建物で巡る催しで、情報誌Meetsの協力も得てプログラムを仕立て上げました。

 私も大学の2回生、3回生への講義で「このなかから数箇所選んで行ってきてレポートを出すように」としたところ、かなりの数の学生が「こんな古い建物は初めて見た、見てよかった」と答えていました。こういう課題を出さなければ、ひょっとすると彼等は一度も歴史的な建物を見ることなく大阪を去ったかもしれません。近頃の学生さんはなんでもインターネットで探して、現場体験を軽視する傾向がありますから、現場に出向くこの催しは喜ばれたようです。

せんばGENKIまつり
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せんばGENKIまつり
 
 これは大阪のブランド化を探る実験です。このイベントの少し前に、船場げんき提案というコンペがありました。創生研のメンバーも応募し受賞しました。この船場げんき提案のコンペからいろんなグループが誕生して、まちづくりのプラットフォームが出来上がってきたという感じがします。そういう中から、せんばGENKIまつりというお祭りも出てきたんです。

スプレムータon御堂筋
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スプレムータon御堂筋
 
 これは「仮設」をテーマにしたグループの実験です。セットバックしたビルの前の空間で、ジュースバーと花屋さんを展開しました。実験じゃなくて毎日こういうものが御堂筋にあるといいなあと思った実験です。ところが、実際には御堂筋のセットバック空間には何もない。何か出したらいけないような雰囲気になっている空間なんです。

 このイベントが展開している期間中、御堂筋で働く多くの女性の方々が喜んで花を買っていってくれました。とても喜ばれた実験だったわけですが、恒久化できないわけです。どうもこうした空間を人に喜ばれるようにするにはまだまだ壁が多い。それはまちとして変なのではないかという問題意識も出てきました。

リバーカフェ
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リバーカフェ
 
 これは「水辺」をテーマにしたグループの実験です。水辺の活性化をテーマに取り組んだグループの実験で、ミニ社会実験:リバーカフェとして一度JUDIセミナーでも報告しれもらいました。これもやってみてなかなか面白い実験でしたが、同時に大変なイベントでもありました。

 夕日の頃、電車がコトコトと走っていくのを眺めながら、お茶を飲むのはなかなか気持ちのいいものです。ここに来た人は、みんなそういう体験をすることができました。


●一人からでも始められるまちづくり

リバーカフェ成立の仕組み
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リバーカフェ成立の仕組み
 
 成立の仕組みは、リバーカフェに限らず全ての実験に共通するものです。

 リバーカフェは公共的なオープンスペースで展開された実験です。まず最初の関門として、河川管理者から「カフェはお金儲けになるからダメ」と言われてしまうんです。御堂筋でやった花屋もまず「公開空地で商売はダメ」と言われました。最初に分かったのは、お役所は公共空間での商売が嫌いだということです。

 そこから我われはどうしたら商売ができるかを考え、「地元の役に立つ」という論理を組み立てたらいいらしいということが分かってきました。例えば「○○地区まちづくり協議会の活動の一環として必要な行動である」という論理です。そういうものを作らないと、「この空間で何かできれば面白いから」という理由だけではお役所は許可してくれないということがわかりました。役所に納得させるだけの論理を私たちがもっと勉強して組み立てていかないといけないのだということが、この一連の実験を通じてみんなが痛感したことです。

 もともと何かを実現するということはそういうものだと思いますが、アーバンデザインの本を読んでいてもそういうことは誰も書いてないんです。本を書く方であった我われも、そこまで思いが至らなくて、デザインのことだけしか書いていませんでした。だから、行政は我われのアイデアを相手にしてくれなかったのかなと反省もし、修行にもなったと思います。

鴨川の納涼床と納涼床が成立する背景
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鴨川の納涼床
 
 鴨川の納涼床も以前JUDIで魅力ある都市の特質とその魅力アップとして報告したことがありますが、僕はこれは都市デザインの宝物だと思っています。ただ謹厳実直な人には、商業的な利用が禁じられている河川上の空間で、遊んでお金儲けしている最悪な空間に見えるらしいですね。納涼床が成立している背景は次の通りです。

     
     「河川法によって河川上の商業的な利用は禁じられている。この条件下で納涼床が認められ実現しているのは、以下のような理由からである。
    (1)昔から続く伝統的な行いであること
    (2)地元の人びとが地元のために組織化して取り組んでいること
    (3)自らルールを定めそれに従って行っていること
    (4)それが公共的な利益にかなうものであると行政が認めたこと」。
    鳴海邦碩
 
 多分4番目の理由である「公共的な利益にかなう」かどうかが重要なポイントだろうと思われます。要するにいろんなケーススタディをやる過程で、納涼床成立のような条件が必要になってくることが見えてきたということです。

「手押し車まちづくり」に学ぶ
 我々がミニ社会実験で得たことは、アメリカのまちづくりの発端にも共通しているようです。「手押し車まちづくり」に学ぶというのは、1976年に町なかで一台の手押し車で、花や農産物を売り始めたことが、ニューヨークの町なかを変えるきっかけになったというエピソードによるものです。

     
     「郊外でのショッピングの成長が、直にユニオンスクエア周辺の小売の衰退を招いた。そして、ユニオンスクエアは、ドラッグの売人や売春婦、ホームレスに引き継がれた。
     1976年に、グリーンマーケットが公園の北端に開かれた。リーダーは、農場で育ち、M. I. T.で建築の学位をとった都市計画家。
     古い商工業用ビルが新しいテナントで埋められ、若い人々が住み始めた。やがて、ナイトライフが活発になるにつれて近隣もあか抜けたものになってきた」。
    鳴海邦碩
 
 ニューヨークのユニオンスクエアは高い志で作られた立派な公園だったのですが、1970年代には大変な状況になっていました。1人の都市計画家が公園の片隅で始めたグリーンマーケットが成功して、まちを変えていったんです。アメリカの造園界の重鎮であるウイリアム・ホワイトは次のように述べています。彼の視点もなかなかいいなあと私は思います。

     
     「この特別な商業形態(つまり最初に始めた青空市のことです)は、街が長年かけて失ってきた、根本的な、個人的なやりとりというものを修繕しているのである」。
    ウイリアム・ホワイト。
 
     
     手押し車まちづくり:pushcart urbanism。
    「トラックを停める場所があればいいんだ」。
    「ただトラックの後ろを開けて、そこから直接売るんですよ」。
 
貴方まかせのまちづくりからの脱却
 そろそろ一連のことを整理しますが、一言で言うと「貴方まかせのまちづくりからの脱却」ということにつきます。

     
     「提案するだけでは実現しない。役所にも期待したいが、前例のない挑戦的なことにはなかなか取り組んでもらえない。アイディアはあっても、実行するには様々な壁が立ちふさがっている。制度の問題、資金の問題、人材の問題、とりわけ制度の壁は意気阻喪するほど立ちふさがっている。
     まちづくりは楽しくなければならない。取り組む、あるいは参加する人々が楽しいからこそ、活き活きとした都市が生まれる。貴方まかせのまちづくりは、楽しい魅力のある都市を生み出すことはできない」。
    鳴海邦碩
 
 これは最初に言ったことの繰り返しでもありますが、結論はこういうことです。

まちづくり縁
 また新アテネ憲章の中で、もうひとつの重要な問題が指摘されています。

     
     「都市の中心部における人口の集中が進むと、社会的な腐蝕がはじまる。孤独、受動性や共同の目的や社会的な発案に対する無関心が一般的なものになっている一方で、住民の生活はさらに画一的なものになりつつある」。
    新アテネ憲章
 
 いわゆる都市化が進むとどのまちも、こうなっていくらしいです。19世紀の終わり頃からこうした問題は指摘されてきているんですが、これはコミュニティ崩壊の問題です。古い農村的コミュニティあるいは下町的コミュニティが、都市化の過程でどんどんなくなってしまう。都市化して人がいっぱいになってくるんですが、その中で人びとはみんな孤独になってしまって社会的無関心に陥ってしまうことを言っています。日本でも同じような状況にあると思います。こういう状況に対して、私は次のように提案したいと思います。

 「「友縁」あるいは「人縁」、つまり「人とのえにし」がどのように結ばれていくのかが、今後の社会にとって、重要な側面となりつつある。そこで大きな可能性があるのが「まちづくり縁」「街を楽しくしたい縁」ではないかと考える」。

 こういう「縁」がないと、まちは絶対面白くならないと思います。なぜなら、縁がないところでは、「まちの面白さ」は供給されるだけだからです。供給されるものは、繰り返し申しあげていますが、ゲームセンター的面白さはあっても、心まで届く面白さでは絶対ないんです。性質の違うものが共存して一種のバランスを保っているが故に感じることのできるまちの面白さ、楽しさがあってこそ、行ってみたい町が生まれるのだと思います。ゲームセンター的に整えられたまちにはあまり行きたくないですね。と言うか、一回行けばそれで十分だと思います。

『都市の魅力アップ』
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『都市の魅力アップ』
 
 このほど、ミニ社会実験につきあって頂いた都市大阪創生研究会の中心メンバーたちと本を出版致しました。ここに名前が挙がっているメンバー以外にも、たくさんの人びとが研究会に関わってくれました。

『まちづくり天気図』
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『まちづくり天気図』
 
 2006〜2008年までの活動を著した『まちづくり天気図』も3巻できました。

 これはまず、学生が自分が関心のあるまちづくりについてピックアップするんです。それを報告してもらって、なぜそれが面白いかを説得できないとそれは調査の候補からはずされる。その繰り返しで選抜していって残ったまちづくり例を、実際に現地に行って調べてくるというやり方です。

 我われ教員は学生に「その町のことなら○○さんに聞くといい」なんてヒントは一切与えず「あんたが面白いと思うんだから、まちづくりの中核になっている人を自分で捜してインタビューしてきなさい」と言うんです。これは学生にとってはなかなか大変な作業で、半年ぐらい人捜しをすることもあるんですが、私はこの方法は教育上も面白いと思っています。もちろん現地調査は、そんなに長い時間をかけられなくて、2、3日ぐらいで、あとはネットで調べたり本を読んだりして報告を作ってきます。

 最近、大学でも現場主義を、教育上、取り組むようになってきています。その教育方法の開発でもあるんですが、この方法はけっこう可能性があって面白いと思います。

 また、学生が10人ぐらいいるとすると、まちづくりの事例が100例ぐらい集まってきます。そうすると、調べてきた成果を毎回全員が聞きますから、みんな耳学問ができるという効果もあります。「あんな田舎でこういうことをやっていたのか」とか、「大きい町で有名だけど、そんなことは知らなかった」とか。そういう情報が、学生が調べてきたことから分かることもあるのです。

 この作業は大学院の1回生の調査です。2回生は自分が経験したことだから、1回生になかなか厳しい質問をしたりします。なかなかハードワークですが、これは学生同士の刺激にもなって、実際のまちづくりの仕組みが他の人の体験からも分かる仕組みになっています。

 日本の各地でいろんなまちづくりが行なわれていますが、彼らの報告で地域によってまちづくりの性質の違いなどが見えてきます。田舎の面白さ、都会の面白さはそれぞれ方法も違うし、取り組む人の問題意識も違います。そんなこともこういう調査を経て分かってきたことで、いずれはこの成果も世に出したいと思っています。


●まとめ

 私は最初はオープンスペースの都市デザインから出発して、景観問題などもいろいろ考えてきました。その中で自分の都市に対する考え方もだんだん深まってきたし、確かな視点も見えてきました。だから、本を書いて世の中に訴えればいいと思っていたんです。「紙つぶて」というのはそのことです。

 しかし、我われ専門家が頑張っていろんな本を書いても、まちづくりはなかなか実現しないという現実があります。なぜかを考えると、やはり実現を阻む壁の存在に思い当たるんです。今までは、その壁について本の中に書かれていませんでした。制度の壁、資金の壁、人材の壁について一応触れてはいるものの、重点がそこに置かれていない本の方が多かったわけです。ですから、実際に都市デザインを実現していくためには、今までとは違うスタンス、違う情報がこれに加わっていかないといけないのではないかと思うにいたりました。特にここ10年はそういう思いで活動をしてきています。

 まあそれはそれとして、誰かがまちづくりをやってくれるだろうから、そんな町ができたらそこに遊びに行けばいいという考え方も成立します。しかし、我われはプロとしてやっていくわけですから、「街と共に楽しむ暮らし」をもっと考えたい。仕事を楽しむことで街がもっと良くなる、そんな方法を考えることが問題の突破口ではないかと思うようになりました。

 特に若い人たちの社会実験を通してまちづくりの構造が見えてきましたが、街と共に楽しく仕事ができれば、面白い街が生まれるヒントがそこにあるのではないかと考えます。ですから私たちは「貴方まかせのまちづくり」では何も生まれないことを自覚し、大変な時代だからこそ楽しむまちづくりにチャレンジして、今までできなかったことの突破口を見つけていきたい。そんなふうに最近思っています。

 私は3月に退職しましたので、だいぶ暇になりました。ですから今後は、この考えの延長線上でまた新しい視点を見つけたり、いろんな活動に取り組みたいと思っています。どうぞみなさま、これからもよろしくお願い致します。今日はどうもありがとうございました。

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