質疑応答
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大変興味深いお話でした。私の感じたイメージを述べさせていただくと、美しい京都の生き方とは着物を着た女性がシンプルな生活をしている、しかし生活の中で使うものは選び抜いた物でシンプルだけど心豊かに暮らしているという感じでしょうか。最初は贅沢なものも知っていたんだけど、段々と生活の中でよけいなものをそぎ落としながら、本当の豊かさを見つけていくイメージがします。
私が住む倉敷でも最近では古民家再生が盛んになりました。昔は古民家なんて見向きもされなかったのですが、倉敷の人の意識も変わってきまして自分の古い家を直して住みたいという人が大分増えているようです。私は伝建地区に建つ建物の保存審議会の委員をしておりますが、住まいの案件が多くなっています。昔は、伝建地区の住まいとはお役所の人が面倒くさいことばかり言ってきて不便だというイメージで、早くどこかへ引っ越したいという人が多かったんですよ。この頃では、そういう古い家を素敵に再生して生活を楽しみたいという人が多いです。私が子どもの頃とは随分様子が違ってきたなあと感じるところです。
今日は、ヒントになりそうな素敵な事例をたくさん見せて頂いて、ありがとうございました。中国ブロックでも、ぜひ講演していただきたいです。
山本:
私、ちょうど2週間ほど前に倉敷に行ったところです。アイビースクエアで食べた海老フライがうまかったな。
僕はちょくちょく倉敷に行くんですよ。あそこは川の両側に道が合って、その幅がちょうど大声で声をかけられる距離なんですね。川岸に並ぶ柳並木の中に、僕の大好きな喫茶店があります。そこに行くのも倉敷を訪れる楽しみです。
初めて倉敷を訪れたのは、浦部鎮太郎さんがアイビースクエアを再生されるというタイミングでした。それ以来、倉敷を訪れるようになりました。写真も京都に匹敵するぐらい撮っています。
いつも最終電車にぎりぎりの時間までいるのですが、倉敷という町は独特のにおいを感じさせる町ですね。京都にも清水、西陣、上賀茂とそれぞれの町が独自のにおいを感じさせるようになればいいな、そうなれば京都はとてもマルチな町になると考えています。その地域、その町の特徴をしっかり捉えて、まちづくりをそれぞれの各論でやっていかねばならないんじゃないかなと思うところです。
今日は、設計の時の山本さんの思い入れが聞けて大変よかったと思います、ありがとうございました。
ところで、今の京都の景観政策の中で重要視されているのは、都心部の真ん中(いわゆるアンコ部分)がこれ以上高層マンションが建たないように規制したことですよね。規制によってこれからは建てても5階ぐらいまでとなりました。そのことについて山本さんのご意見を伺いたいと思います。
この規制で一番問題なのは、5階建てだともう京町家ではなくなってしまうことです。素材もコンクリートということになってしまうでしょう。ですから、今後の表通りは昔ながらの京町家と5階建てが混在する通りになるわけですが、それはどういう風景になるとお考えですか。特に5階建てのマンションにどういう風に京町家の遺伝子が組み込めるか、その辺がクリアできれば次の時代の京都の町がイメージできそうなんですが。
山本:
それこそが、一番京都が悩むところですよね。
規制によって高さ規制が30メートルから15メートルになりました。土地の所有者にとっては資産価値が半分に減ったわけです。しかし、まだ資産価値が高かった頃の値段が所有者の頭の中にあり、安い値段なら土地は売らないだろうと僕は思うんです。そうすると、ディベロップする方がもう金銭的に合わなくなってしまうんですね。
今までは、狭い土地に9階建てぐらいのワンルームマンションをパカパカ建てられました。僕の住んでいた新町通りはもうめちゃくちゃ多いんです。京都に住みたいという人がいても、そういう人たちを満足させられるような賃貸マンションがなかったというのが現状です。
しかし、もう高層が建てられないということになってくると、今度はマンションの有りようが変わってくるような気がしますね。今までは高層を建てて売り逃げというディベロッパーが多かったのですが、これからは所有者が土地を売らずに自分ところで定住型の賃貸マンションを建てるようになるんじゃないでしょうか。自分ところの財産として建てますから、安っぽいものではなく子どもに資産として渡せるような質の高いものを作るような気がします。
そうすると、5階建てはひとつひとつにオーナーの趣味が反映されるようになるでしょう。定住型のマンションとなれば、ベランダがものすごく重要な要素になってくるでしょうね。多分、貸す値段帯も今までのワンルームとは違ってくると思います。ワンルームの時のデザインと違って、屋根や庇があったり格子を付けるようなデザインを立体構成で作る時代がもう来るんじゃないかと思うんですよ。斜線制限をうまく使って、いろんな特徴のある建物ができてきたら、その方が面白いように思います。
こういうことは、大手のディベロッパーももう分かりかけてますね。もう京都では事業採算にのらない、土地の値段と事業が折り合わなくなっているという話を聞きますね。逆に言うと、土地が住民の手に戻ってきていることじゃないでしょうか。
ただ気を付けたいのは、相続問題のときです。その税制を緩和していかないと、やはり将来の町並みに不安が残ります。
今後の参考になるかどうか分かりませんが、僕は今、高台寺の近くでホテルの設計をしかけています。できるかどうかはまだ分かりませんが。それも5階建てで、それだけだと事業採算は合わないので、部屋を60平米ぐらいにして従来のホテルにないゆったり感を感じさせるデザインにしています。建物全体を格子にして外壁は先ほどの軽井沢のウエディング施設のように明かりが中から漏れるようにして。オーナーはそのアイデアに乗り気です。
だから、5階建ての町並みも面白い町になっていくんじゃないでしょうか。ただ、オーナーさんは苦労しそうですけど。
井口:
5階建てを敷地いっぱいにびっちり建てると箱のようなビルになってしまいますが、今のお話だとやはりオーナーさんの家でもあるのだから居住環境を考えて分節化したような形態になっていくということでしょうか。かなり、変化のある町並みを期待できるということですね。
司会(中村):
京都市のデザイン規制はある意味必要だろうけど、先生のような方が築き上げてきた建築思想にも対応できる度量も大事かなと、今日のお話を伺って考えました。まっとうな議論が起きたときに、柔軟に対応することができれば京都の町は面白くなるな、そういう感想を持ちました。
これから懇親会ですが、続きの議論はそこで再開して頂ければと思います。今日はこれでセミナーを終わります。山本先生、どうもありがとうございました。
●倉敷と京都
長沼(JUDI中国):
●5階建ての街並みの京都とは
井口(京都造形大):
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