まず、近代型観光は、産業革命以降に発達しました。つまり交通手段の発達が、観光を促進したんです。1841年にイギリスのクックが作ったシステムが今も踏襲されています。この時点で今の観光の仕組みはすでに整えられています。ただ、その頃もウィリアム・モリスに代表されるように、芸術家が産業革命や都市化、工業化の大量生産・大量廃棄の精神に反発し、それとは違った仕組みで人間性を追求する動きがありました。しかし、交通手段がどんどん発達していきますから、観光分野では立ち止って考えることができなかったのです。スピードの魅力があまりにも大きかったのです。
たくさんの人を一つの地域に大量輸送できるようになったため、狭い所にどっと押し寄せて、地域の人たちの生活環境に悪影響を与えるようになりました。犯罪や女性に対する侮辱などもそうです。観光客は満足して帰りますが、観光業以外の地域の人は冷たい顔をしている。地域の人にとっては「観光なんてもういやだ」となってしまったわけです。
なぜマスツーリズムが150年間も続いてきたのかというと、観光業が儲かるというだけじゃなくて、地域の経済を潤し、雇用をつくり、貧困を解決しという地域へのプラス面への期待もあったこともあります。だから開発援助のなかでも、観光振興が進められた。しかし、それがどうも怪しいとなってしまったのです。
また自然環境の破壊があちこちで見られるようになりました。60年代の公害問題を皮切りに、環境破壊への反発、保全意識が世界的に高まり、そのなかで観光も問題視されるようになったのです。
変化を促す出来事がもうひとつあります。1980年がその分岐点と言われますが、観光客自身が変化してきたのです。統計的には1978年にすでにその傾向が見られます。豊かな時代になって、通り一遍の観光ではなく、もっと文化レベルの高い内容を求めるようになってきたのです。マーケット自体が変化してきたわけです。
道路整備や地域の環境についてのハードな整備も、観光客だけでなく実際に地域の人が求めるものでないとダメだということになったんです。
そういう風になってきたのが1980年頃で、それまでにないもう一つの観光、学問的にはオルタナティブツーリズムなどと言いますが、そういう新しいスタイルの観光が求められるようになってきました。そのひとつの答が着地型観光です。
第二に、地域の自然環境を破壊しないこと。それまでの観光スタイルなら、素晴らしい自然環境を破壊して、自分の会社だけが利益を上げるというルール違反のやり方が通っていました。そうではなく、自然環境を改善していくのが観光の役割だと打ち出したのがもう一つの観光の視点です。とても哲学的(理念的)な主張だと思います。
そうした背景からエコツーリズムやグリーンツーリズムなどが出てきましたが、これは事業的な採算が簡単には取れないものでした。それでも、そういうものでないと長続きしないと思われるようになってきたのです。そうした流れの延長線上に着地型観光も出てくるのです。
ただ、着地型観光なら採算が合うのかと言えば、今はまだそれが始まったばかりという状況です。今は近代観光を脱却して、もうひとつの新たな観光現象、持続的観光の時代に入っています。まだその全貌は見えていませんが、まもなく見えてくる頃だと思います。
いずれにしても、1980年までの観光と、それ以降では観光の視点が違うわけです。
1980年を境に、それまでの観光スタイルではない、もっと良いものや良質なものを求めるもう一つの観光の時代になりました。これは現実の産業が大きく変わったというよりも、哲学的な思索なのかもしれませんが、なにかいい道があるのではないかと試行錯誤しながら走っているという時期にあると言えるでしょう。
ですから観光業や観光産業の視点ではなく、観光的手法は町おこしとか地域の産業興し、自然再生の手段として今までも使われてきたと思います。これからは一層まちづくりに役に立つ時代ではないかと思います。応用範囲の広い手法だというのが私の意見です。
1 観光の変化と着地型観光の位置
●近代観光はスピードの賜物
ひとつの見方なんですが、観光というのは事業ですから、そうした視点で見ていきたいと思います。
●スピードがもたらした弊害
しかし150年ほどたった1980年頃にそのスタイルに変化が見られるようになりました。昔は馬車で走る時速16キロと帆船のスピードが観光のスピードでした。それが今や時速千キロというジャンボジェット機の時代です。そこで困った問題が起きるようになってきたからです。
●観光の変化の兆し・もう一つの観光
この状況の変化で、観光スタイルがどのように変わったかと言うと、もう観光会社と旅行者だけが満足すれば良い時代は終わった、地域の方にも認めてもらって客・会社・地域の三者が満足しなければ観光が成り立たなくなると認識されるようになってきたのです。
●もう一つの観光としての着地型観光の特徴
着地型観光の第一の特徴は、先ほども言いましたように地域の人・観光業界・旅行者の三者が満足できる内容であることです。
●現在は転換の真っ最中
日本においては、1985年のプラザ合意がひとつの契機となりました。これは、日本だけが儲かりすぎじゃないかと、もっと国内消費(内需)を拡大しろとアメリカやヨーロッパに言われて、結んだ合意です。その後、日本はバブル時代に入ることになったのですが、観光の面においてもバブルとその崩壊が変化を促す大きなきっかけになりました。
●まちづくりと着地型観光の類似と相違
観光で大事なのは人が移動してその目的を達成して満足とか幸せを得ることですから、そういう意味ではまちづくりの手法と一緒なんです。ただ違う点は、観光は外部の人がまちにやってきて観光地を楽しむことです。まちづくりの手法にはそうした外部からの要素がない場合もあります。ですから、着地型観光にはより広い観点が必要になってくるわけで、外部の方も加わり地域風土との結合がある点が普通のまちづくりと違う点かなと考えています。
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