集客都市・大阪の展望
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質疑応答

 

 

●阪神高速を地下化して横堀川の再生を

角ひでお(東横堀川水辺再生協議会)

 私からの質問は、東横堀川の上を覆っております阪神高速を地下化できないかということです。もちろん今は財政難の時代ですからそう簡単にできることではないことは分かっておりますが。

 韓国の清渓川(チョンゲジョン)復元事業では高速を取り払って、清流が流れる河辺を再生しましたよね。今では観光のシンボル的な場所になっているようです。

 ひるがえって、我が大阪を見た場合、私は歌舞伎が好きで役者さんの船乗り込みもずっと見ていますが、ずっと汚い川でされていて、何とかならないかと思うんです。水都大阪を打ち出すわりには、残念な事態です。今の財政では無理でも、財政が健全化された時には次のビジョンとして次世代に語り継げる大阪の姿にしていただきたい。水都大阪と言われるなら、昔の姿に戻していただきたいと思います。

 それと、もう一つ。橋爪先生自身が大阪市長選に無党派層から出ていただきたい。今の市長さんよりは夢とビジョンがおありですから、ぜひとも再度ご出馬いただきたいとエールを送ります。

橋爪

 次の大阪市長選のお話はともかく、東横堀についてコメントいたします。私は東横堀のすぐ側で生まれたので、まさしく故郷のシンボルとも言えるところです。家から歩いて30秒のところにあり、水都再生が大事だと思うようになったのも、この汚い川を何とかしたいと思ったからでもあり、私の原点でもあるんです。

 ただ高速道路は戦後復興で出来た大事業であり、数十年かかって出来た高速道路です。これをなくすには、やはり数十年かかるだろうと思うんです。しかしながら、あきらめずに市民が「川を返せ」と言い続けることが大事だろうと思います。

 韓国の場合は幹線道路ではなかったからできた事業だと思うのですが、東横堀のところの阪神高速は幹線ですから、なくそうと思うと中央大通りの上、千日前とか上でつないでいるところは全部やり変える必要が出てきます。ですから、東横堀を再生しようと思ったら、大阪中の高速道を全部造りかえる膨大な事業になるのです。

 角さんのおっしゃるとおり、私も綺麗な東横堀を見てみたい。しかし、私の生きている間は無理かもしれない。それでも、孫の時代にはきっと事情は変わるはずです。どうせ、高速もいずれは再工事が必要な時代が来ますからね。だから、それまではずっと川を綺麗にと言い続けたい。戦後に作られた道路がその役割を終えた時に、次のプロジェクトをよりよくするためにはできるだけ多くの人たちが言い続けることだろうと思います。50年かそれ以上かかるかもしれませんが、そういう話から始めましょう。


●なぜ別々の事業になるのか

前田(学芸出版社)

 大阪ミュージアム構想とコミュニティ・ツーリズムの主体が違うということは分かるのですが、なぜ分かれてるのかなと思います。内容はほとんど一緒ですし、できれば一緒にやったほうが効果が発揮できるのではないかと思うのですが、いかがでしょう。

橋爪

 誰もが一緒にやれればいいと思うのですが、できない理由がある。一つお答えすると、政令指定都市と都道府県行政の壁がこういう事業にもあるということにつきるのですね。コミュニティ・ツーリズムは大阪市の方で話をしますし、大阪府のミュージアム構想は政令指定都市以外の市町村で町並み再生をして地域づくりをしましょうという話になります。交付金を政令市に渡すこともできない。大阪市内ではHOPE事業があります。ようはそれぞれ近い発想ながら、その間に橋を架けることはなかなか大変で、おそらくトップダウンでやらなければいけないことだという認識です。


●コミュニティ・ツーリズムのお客さんは地元では?

前田(学芸出版社)

 コミュニティ・ツーリズムは日本全国から人が来るよりも、地元やせいぜい近場の方が参加されることが多いと思うのですが、その点はいかがでしょうか。

橋爪

 まち歩きはもちろん地域の人たちの認識を高めてもらうことになりますから、対象はまずは地元が中心と考えています。大阪市での実践でも、まず地元が主体ですね。

 府の大阪ミュージアムの例でも、富田林などは「観光客にはあまり来て欲しくない」という方も地元におられると聞いています。歴史と文化を活かして地域づくりをしようとする活動のなかでは外部からの人間を受け入れることが必ずしも前提にならないのですね。我われはそこに風穴を開けることを考えなければいけないだろうと思っています。たとえていえば、まずは、北摂の人たちが河内ワインを我が郷土の酒として飲むかどうか、大阪名物として認識しているかどうかということから始めたいと思っています。


●エコから見たまちづくりについて

高原(HTAデザイン事務所)

 私は建築デザインの仕事に携わっておりますが、今は環境と言いますかエコというキーワードは、はずせない時代だと感じております。今日は先生のお話のなかで、その点については触れられていないようだと思いましたので、環境という切り口から大阪のまちづくりについてポジティヴなアイデアがあればお聞かせいただきたいと存じます。

橋爪

 アメリカのグリーン・ニューディールのように巨大な雇用を生み出す発想が、大阪の環境施策にあるかどうかを行政の人たちと議論したことはあります。

 今は世界中のまちづくりがエコロジカルな方向を向いていますが、そのなかで大阪は何を個性として出せるのかが問われてくると思います。今は、それがちょうど始まったところです。多分、外から見たら、日本は「省エネの国」というイメージなんでしょう。これまでそれで成功してきましたし、中国を始めとするアジアの国々からも環境の面で注目しているのはその点だろうと思います。省エネに関するありとあらゆる産業政策や地域づくりについて、日本独自のパッケージや先行しているがゆえのアドバンテージがあると私は思っているのですが。

 だからCO2など地球全体のグローバルな話よりは、ライフスタイルそのものの省エネについては「日本型」と言えるモデルが出せるのではないでしょうか。それを中からどう打ち出すかについては、これから考えていかなければいけないところでしょう。

 それに関連して、これからの大阪イメージについてちょっと話をいたします。

 今、悩んでいるのが上海万博に出展する大阪府・大阪市の「水の環境先進都市」というテーマです。

 たとえば私たちが「これは進んでいる事例だ」と思っていても、すでに知られていることが多いんです。私が2008年スペインのサラゴサ万博で日本館のアドバイザーとして関わった時も、我われが日本で「これはすごいぞ」と考えているものが、各国ではすでに同水準の環境施策をかたちにしていて展示に反映させている事例がいくつもありました。ですから、環境に関することでも当然やるべきことと、これからやるべきことという面があって、大阪独自のエコロジカルな地域づくりは絶えず考えていかないといけないことですし、実践していくべきなんですね。

 上海万博で訴求したい目玉の一つは、水際の桜です。大阪独自の個性として川沿いの桜並木を作ります。造幣局の桜並木のように一箇所に百数十種類の桜を集めてミュージアムのように見せるというのは、多分世界でも例がないことですので、それをアピールしたいと思っています。中国の人も桜は日本のシンボルとして好印象を持っているということなので、大阪の水際が日本の桜の名所であることを印象づけたいと思っています。

 我われは水際の桜が当たり前の光景だと思っていますから、これまであまりにもアピールをしなさすぎでした。それを、地下の幹線下水管を再現する桜のトンネルを作り、そのあと水に関する先端技術などを見せていきます。

 この上海万博は「未来の都市はこうあるべきだ」ということを各国の各都市が展示することですから、各国が環境に対してどんな配慮をしているのかが一堂で見られます。環境をテーマに未来を語る一連の流れです。20世紀最後の博覧会がドイツで開かれた時も環境がテーマでしたし、去年スペインで行われた万博は水をテーマにしたもので、今回の上海は都市そのものをテーマにしています。ですから、各国が考えなければいけないのは環境と都市の関わりで、我われも各都市の考え方を十分理解したうえで、大阪はどこに特化していくかを考えなければいけないのです。

 現在我われは水資源を大量に使って生活していますが、地球規模で見ると水資源が使える国、使えない国との格差は年々広がっているのです。国連のミレニアムの目標の一つに、綺麗な水に接することのできない多くの国の人びとが、いかに水に接するようにできるかが大テーマに挙げられています。HABITATは今そこに力を入れているのですが、そうしたことすら我われ日本人はあまり理解していない。まだ「我が町」のことだけに終始している感が見受けられます。そのことも頭に入れていただいて、上海万博では各国の取り組みと大阪を比較していただければと思います。

司会

 まだまだご質問はあると思いますが、そろそろ時間になりましたので、後は懇親会で直接お話いただければと思います。では最後に鳴海先生から締めのコメントをいただいて、今日のセミナーを終わりたいと思います。


●夢を仕事のなかで少しずつ実現

鳴海

 今日のお話から、私が橋爪さんと一緒に阪大で勉強していた頃からの橋爪さんの夢でもあった「大阪の情報を全国だけでなく世界に向けて発信したい」ということを、今、実践されていることがよく分かりました。これからの活動の展開に大いに期待したいところです。

 お話のなかでも少し出ていましたが、環境デザインの仕事は縦割りの仕事を横につないでいくことでもあります。我われも魅力的な街を作っていくための提案や実験を考えながら、仕事しているわけですが、それがなかなか難しいことであることを痛感しております。そうした壁のいくつかは、橋爪さんのプロジェクトのなかで乗り越えられるのではないかと思います。我われ都市環境デザインの仕事も、同じような方向で取り組んでいく必要があると思っております。

 今日はメディアからでは断片的にしか知ることのできない内容を、コンパクトに、相互に関連づけてお話しいただきました。どうもありがとうございました。最後は拍手で終わりたいと思います。

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