大津の町家・まちなか〜市民によるまちづくり活動
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はじめに

 

森川

 最後は長坂泰之さん、独立行政法人中小企業基盤整備機構近畿支部事業支援課長さんです。全国の中心市街地の活性化に色んなアドバイザーとしても関わってらっしゃって、全国各地の事例をご存じだと思います。今日は何かアドバイス頂けるかと思ってお越し頂きました。


■地域の遺伝子を残す

長坂

 中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」という)の長坂と申します。今日はよろしくお願いします。

 今日は前田さんのご縁でこういうお話をさせて頂けるということになりました。ただ皆さんは色んな分野の方なので、皆さん全員のご興味のストライクゾーンには入るとは限りません。私もそういうふうに割り切って気楽に話しますので、皆さんも気楽に聞いて頂ければと思います。

 私は中小企業を支援するとか商業の活性化を支援するという立場でずっと仕事をしていました。今日は都市計画や都市デザインがご専門と聞いておりますが、私共はハードを作った後の経営や運営を中心として支援する立場ということでございます。

 私達は商業の活性化の仕事を長年してきましたが、最近は中心市街地の活性化の仕事もさせてもらっています。去年まで東京の本部にいたものですから、この2、3年で100ヶ所に迫るほどの町にお邪魔して、色んな話をしたり、そのうちの十数の町については町の診断とか町の助言とか、そういった事でおつきあいさせて頂いています。

 皆さんのお仕事に近い関係でいきますと高松の丸亀町の再開発事業が、経営と所有の分離ということで有名になっていますが、実は私はまだ中小企業診断士として駆け出しの頃にこの案件で高松に行ったことがあります。中小機構が県と共同で無利子で融資する高度化事業という制度がありまして、その融資の診断の担当をしておりました。当時の高松は再開発はするんだけれどもほとんどの地権者はもう俺はあの場所から出て行くと言って、確か8割くらいの方が出て行ってしまう可能性もあって、最初のうちは保留床だらけだったんです。そうすると地元の遺伝子が無くなってしまいますよねという話で、結局商業の活性化とか再開発ビルをつくるのは良いんだけども、誰のためにやるんだろうという事で悩んでいる時期でした。

 で、そこから悩んで悩んで考えて、地元の遺伝子を残すということで今のような土地の所有と建物の使用の分離という形になったということです。当時の中小機構の先輩がこういうことを実際に診断して、診断意見に従わないと中小機構は金を貸さないよと言ったわけです。当時よくぞ誰のためのまちづくりかという意見を私達の先輩が言えたなと。町に対する思いを中小機構の先輩はしっかりと持っていたというふうに思っています。


■風の人の役割、まちづくりの母と父

 森川さんが土の人と風の人の役割の可能性という話をされていて、その要としてよそ者のアドバイザーがどういう形で入っていくかという話がありました。これは父親とか母親とか支えてくれる立場の人がきちんといるかという事だと思います。中心市街地の活性化でも、例えば青森とか長野とか、おそらく高松もそうだろうと思います。結局コンサルが自分のマスターベーションでやってても駄目なんです。

 長野の服部年明さんがタウンマネージャーとして入ってらっしゃいましたけれども、市長と商工会議所の会頭からの信任を受けて入っているんです。だから何かあったときに相談できて、守ってくれる人がいるから服部さんも精一杯活動できるんで、一生懸命やったけれども、いざ困った時に相談する人がいない、守ってくれる人がいないと、そこでもう壁にぶち当たってしまうと思うんです。

 ですから、やはりそういう人の繋がりとか仕組みとか、そういうもの無しで計画をつくってしまったりコンサルが入っていってしまうと、最初に森川さんが言っていたようにせっかく作っても実効性のない紙くずのような計画になってしまう可能性が高くなるのではないかと思います。

 素晴らしい計画、仕組みをつくれば、どんな人間関係があっても通るという可能性もあるんですけれども、そんなことはまずなくて、やはり人との繋がりは一番大事です。


■身の丈にあった活動

 あともう一つは身の丈にあった活動とか、責任ある事業主体です。これはもう釈迦に説法なんですが、やりたい事と出来る事は違いますよという話は必ずさせてもらいます。あるまちで商業を活性化するというので行きますと、「私は一生に一回しか出来ないから、御殿みたいなショッピングセンターをつくりたいんだ」と、泣きながら言う女性がいたんです。でもショッピングセンターって御殿じゃなくて、いかに商売を成立させるかということなので、御殿じゃなくてもいいんです。もし御殿をつくっちゃうとなるとすごいお金もかかるわけで、その借金を返すのに大変な努力をする事になるし、あるいは最初からとても借金が返せないという事になってしまうわけです。そういうことがあるわけです。ですから一つはまさに身の丈にあった、自分が出来ることは何処までなのかということを冷静に考えて、ソロバンをはじく事が大事です。


■組織と人

 もう一つ大事なのは、やはり組織とか人とかいうことになるんですけれども、国の方がPDCAのマネージメントサイクルでまちづくりを回しなさいということを、今回の改正まちづくり3法で言っています。

 P(プラン、計画)は市役所が基本計画をつくったり、あるいはコンサルさんに手伝ってもらったりということで出来るんですけれども、後のD(Do)、C(Check)、A(Action)は必ず人が介在します。当たり前ですけれども、もしかしたらそういう事をよく考えられないで計画だけ作ってしまうという事が我々の身近でもあると思います。絵に描いた餅というやつです。

 やはりどんなに素晴らしい計画をつくっても、やる人がいないと駄目です。例えば長野であれば服部さんという方がいたから成功したのです。もちろん長野のまちづくりは100%だとは思っていませんけれども、服部さんがいたからあそこまでは出来た。まちづくりには必ずやる人、演ずる人がいないとできないということです。ここが大事な事かなと思います。

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