景観まちづくりの今
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折り合い方をデザインする

 

 では、なぜこういう折り合い方のデザインが大事なのかという話に移ります。

 都市部の開発を担う事業者は地域についてほとんど何も知らないし、知ろうともしないということが多い。居住者が入れ替わることによって、地域の中での暮らし方や建て方の作法などの継承がすごく難しくなっています。

 私が暮らす芦屋でも、震災後10年で半分の人口が入れ替わりました。町の中に残された景観資源も、「これに何の意味があるの?」とわからなくなった人がいっぱいいます。例えば、私が住んでいるマンションは、昔お屋敷だったところをつぶして建てられたものですが、玄関回りだけは御影石を積んで植栽を入れて芦屋らしい風情が残されています。でも、理事会から「高齢化が進み、玄関に車寄せをつくるためこのエントランスの石積みと植栽を壊したい」という提案がだされました。しかし、ここに住むということはそういった芦屋のデザインを継承することに意味があると私は考えてますので、そんなことはしてはいけないと言いました。そういうことを言わなかったら、あっさりつぶされてしまうんです。

 便利性や快適さは誰にでもわかりやすいものですから意見が通りやすいですが、少しの我慢も地域に「住む」という意味では必要です。

 事業者も芦屋のことはイメージで知っているだけで、開発事業となると、敷地の中で最大限の利益が出せるような設計がされてしまうわけです。その街がどんな場所なのかとか、何かを建てるとき大事にしなければならないものは何かを伝える力が弱いと、地域らしさは簡単に消えます。

 多くの人、特に事業者の人は、地域の景観基準を「規制」だと考えています。しかし、地域環境の基本的理解が共有・継承されなくなっている現状では、基準は規制という概念でとらえるのではなく、その地域がどんな町並みや環境をつくっていきたいのかを発信するルールだと思うのです。

 このとき、条例による景観協議には限界があります。定性基準による景観協議という方法で変化と折り合いをつけていく仕組みには、どんな工夫の可能性があるかと考えるのです。つまり、今の景観づくりは、結局はひとつひとつの変化をうまく街につないでいくところにあると思うのですが、それはどうやったらできるのかということです。

 最初は景観とは何を計画することなのかと悩み、街や道、関係性をどういうまとまりでとらえて計画できるのかを考えてきました。その中で、空間のかたちとそれを構成している要素の関係性が手がかりになるのではないかと思い、現在ある制度の中でそれを活かしていくには、どうすればよいかと思ったわけです。そこで、定性基準と景観協議の組合せの中で、関係性の協議ができる可能性はあるのかということを思ったわけです。

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 図は、この7月からスタートする芦屋市の景観地区の景観手続きを描いたものです。景観地区には認定制度がありまして、今までやってきた「大規模建築物」の届出制をそのまま移行しています。それに加えて、大規模以外の戸建住宅、小規模店舗については色彩についてのチェックを入れることになりました。景観地区内の建築物にはすべて認定申請を出してもらうことになったわけです。

 大規模建築物については、これまでの景観協議をうまく活かしながら、もう少し実効性のある仕組みにならないかということを考えました。この図に書いています「景観アドバイザー会議」というのは現在でもやっていますが、これを今の自由な意見のやりとりができる状態を維持しながら、認定の判断において参照される位置づけにすることがポイントでした。

 景観アドバイザー会議は自主条例に基づく手続きにして、景観への配慮方針についての協議ということにしました。例えば、敷地が位置する場所の条件、周辺環境はこんなものですから、こういう規模の建物を造るときはこういうことを考えてくださいということを協議し、地域環境の理解の共有化と計画の考え方を議論します。これは強制力は持っていません。ただし、そこで議論した内容(特定の建築計画についての議論ではなくて、その建築計画が想定されている敷地のある場所の読み方)を公表できるということになっています。公表された内容が、認定の時の参考資料になるという形です。

 やってみないとわからないのですが、場所の読み方について議論したことを公表することに大きな意味があると思うのです。今までそういう議論が公開していませんし、事業者だけでなく地域の人々にも地域環境の理解について共有・継承していくことに大きな意味があると考えています。それが積み重なっていくことによって、地域の景観ガイドラインになっていくのではないかと期待しています。

 「その場所はどんな場所なのか」「何を大事にすべきか」「これは変だ」というやりとりができることが景観調整には重要だと思っています。強制力があるとどうしても、お互いにできる・できないの話になりがちです。今は「こうあるべきだ」「こうしたい」と思っても事業性からできないことが多いですが、単に基準を審査するのではなくて、その場所でデザインすることの意味を考えていく場を作るのは大事なことだと考えています。

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