どんな状態であっても、何かが新しく建つというのは、やはりその場所にインパクトを与えることになります。その周辺が自然環境であれ、里山・田園、海辺であれ、市街地環境であれ、環境へのインパクトがあると、そこで調整が必要になってくると思います。 私たちは視覚的な地域環境の変化を「景観」変化ととらえて対応しているわけです。しかしそこには背景として場所の記憶やイメージ、時間の変化がありますから、それを考えながら調整を考えていく必要があるのかもしれないと思っています。
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これまでの景観への関心は、その時々の経済・社会状況の変化とあわせて、変化してきました。
高度成長期の開発と環境破壊(1950〜1960年代) 自然風景・歴史的町並みの喪失に対する保存運動 →保存制度 都市美観の問題 京都タワー問題(1964) 東京海上ビルの高層化と丸の内美観問題(1965) →歴史性と都市美:高さ問題 市街地景観とアーバンデザイン(1970〜1980年代) 都市性と地域性 景観まちづくりへ (1990年代から) 身近な生活風景とまちづくり 景観条例とまちづくり条例 |
こうした景観課題に対し、これまでは条例を作っていくということで自治体ごとに対応してきました。60〜70年代の初期の頃は歴史的町並み保存という「守る」条例がほとんどでした。「京都市市街地景観条例」が1972年、1978年に制定された「神戸市都市景観条例」は、その後の各市の景観条例のプロトタイプになっている。横浜は条例ではなく公共施設整備におけるアーバンデザイン施策によって、都市景観形成を図りました。90年以降、自治体の景観条例の数が増えているのが、図を見ると良くわかります。
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こうした各地の取り組みが、2003年に景観法が制定される背景にあります。景観という目に見える変化を手がかりとして、まちづくりや都市整備の中で、変化を地域の中で折り合わせていくことが各地域で取り組まれてきたのだと思います。
今は、都市あるいは町は、変化することが前提と考えられています。景観を守ることも、つくることも、変化をどうデザインするかということだと思います。現在はつくる技術や材料、設備は平準化されていて、どこでも同じものが作れるようになっています。その反面、地域の社会・経済状況は大きく変化し、地域独自の文化や暮らしの継承力はすごく落ちてきています。
その中で、地域に何かのインパクトがあったとき、どうやってその変化を地域に織り込むのか。その時、住まい・緑・イメージ力・時間をつくる・土地の記憶といった本にも示した視点が手がかりになるのではないかと考えたのです。
では、どうやってその手がかりを表現するか、何をデザインするかについては、先ほど述べたイギリスの取り組みが参考になると思われます。イギリスは持続可能な開発においてデザインの重要性を政策方針で明示していますが、何を目標にデザインするのかをまとめたのが図の表です。 この表から見えてくることは、目標の一つは「地域性をつくる」ことだということです。「連続性と領域性」の項目では「通りに面する建物の連続性と公私の領域を明確にすることにより空間の領域を高める」と書かれていますし、「公共領域の質」「移動のしやすさ」「わかりやすさ」「適応性」(いろんな変化に対応できる開発とする)、「多様性」が目標にあげられています。これらから、デザインは見た目の美しさの前に社会性や公共性が求められるということです。 実は、そういう意味では日本の景観法もそう捨てたものではなくて、景観法2条には「良い景観」について、公共性、地域性の重要性が述べられています。
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●景観法第2条 景観法にみる「良い景観」 |
景観法施行後、一年半程度運用している44自治体にアンケートを送り、「何のために景観計画を策定したのか」と尋ねたことがあります(図)。39自治体から回答があったのですが、一番多かった答は「大規模開発の制御」でした。環境の激変に対する調整ということです。2番目に多かったのは、身近な環境である「生活環境の保全」、次に「自然保全」があげられていて、歴史や美観など特定の価値のある景観ではなく、地域が大事にしている環境を守っていきたいとする意識が見えました。 景観法は都市計画区域内外を問わず指定できますので、自然環境など都市計画区域外でも開発抑制や開発許可に近い内容での運用をしている自治体もあって、土地利用計画として景観計画を活用していると思いました。そういう使い方で「自然保全」を図る自治体がけっこう出てきているようです。 もちろん、基準(高さ、壁面、敷地規模、形態意匠)を決めたから景観が良くなるものではありません。方針は景観計画の使い方に応じてかなり自由に書けますが、基準として建ぺい率や容積は決められないということもありますし、なかなか景観法だけでは景観が良くなるとはいえません。
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関東はとてもオーソドックスに、全域を計画区域として基準ではマンセルを決めるところが多い。それに対し、それ以外の地域では、自由に使っているという印象です。東京から遠くなるほど、目的に応じて自由に使っているという気がします。景観計画を高度地区の代わりに使う所もありますし、土地利用規制に使っている所もあります。また定性基準と協議の手続きやガイドラインを組み合わせる協議型の誘導をしている所もあり、なかなか工夫して使われているという印象です。
もちろん基準だけ決めてもなかなかスムーズにいかないことは、みなさん経験的によくご存知でしょうから、アンケートには「事前協議の仕組みはありますか」という質問を入れました。39回答のうち「仕組みあり」と答えたのは25自治体です。協議の手続きを条例で決めている所が11と一番多く、要綱5、ガイドライン3、その他6と続きます。その他の答で「景観計画」と答えている自治体は「方針」で協議しているタイプです。
私たちはどのような景観をめざしているのか、どんなものを作って欲しいのか、どんな町にしていきたいのかということを基準で伝えることがとても難しい日本の現実の中で、みなさん工夫しておられると思います。
こうした協議の手続きを景観条例で位置づけることは実は難しいのです。景観法という法律があるので、景観条例で景観計画で書いていることを協議すると書くと、景観法に基づく届出・勧告における基準の審査の手続きとの二重審査と考えられます。そのため、まちづくり条例や開発に関する条例などの協議と手続きを組み合わせながら、実質的に景観の事前協議をするという工夫を多くの自治体が行っています。
確かに景観法はいろんな可能性を開いたのは事実なのですが、市民の景観まちづくり活動や自主的な協定など活動支援や協議調整の分野については弱い。
先のアンケートで、事前協議を「目的」と「効果」について自由回答を寄せてもらうと、けっこうみなさんいろいろ書いてくださいました。その内容を分類すると、以下の3つになりました。
●事前協議の目的と効果 (1)協議内容の反映や意見交換による基準への適合の指導など、計画内容の修正・変更が可能となること、 (2)届出後の手続きの円滑化・迅速化 (3)基準や景観計画についての理解の共有化 |