環境プロダクトデザインの力
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パネルディスカッション

 

 

■理想の仕事の進め方

司会(長町)

 今日は、みなさんから緻密なデザイン開発の例や公共事業との関わり方、多様な景観プロダクトの例をお話しいただいて、それぞれ立場の違う形で紹介していただきました。ここで、みなさまに質問させて頂きたいのですが、その前に会員の藤本さんから「行政の仕事では、コンサルタントとしてきちんと仕事を受けられたり、中でデザインが出来たりという事例は本当に少ないのではないか。デザインを分からないコンサルさんが仕事を受けて、メーカーさんに下請けに出すということも多いと思う。そこで、みなさんが理想とされる仕事のやり方、進め方はどのような形をお聞きしたい」との質問が来ております。お答えいただけますでしょうか。

梶川

 今日お見せしたのは、GK京都単独で受けた仕事もありますが、他のコンサルさんやメーカーさんとコラボレーションした仕事も多くあります。理想とする仕事の進め方というのは難しいですよね。

 まちづくりにはいろんな専門性が要求されてくる仕事だと思います。デザインを含め造形的な話もあれば、素材に関するメカニズムの話(これはメーカーさんが強いところです)が必要とされてくることがあります。例えば照明ではよくパナソニックさんにお世話になっています。そういういろんな専門性が組み合わさらないと大きなプロジェクトは完成しないのですが、うまく進めていくためには、やはりデザインへの共感性が大きな部分を占めてくると思います。ですから、プロジェクト内では頻繁に話し合いをしたり、コミュニケーションツールを作ってみたり、モデルを作ってみたりして工夫する必要があると思います。

 ひとつのコンセプトに向かってクライアントを含めて一丸となれるような巻き込みの仕組み=コミュニケーションが大切だと思います。

佐藤

 私たちの仕事は、いろんな所とコラボレーションさせていただく立場が多いです。GKさんの仕事を見ていて素晴らしいのは、クライアントも良い物を作りたいという立場で仕事をしているのだろうなと思われることです。

 我われの仕事は往々にしてクライアントさんに熱意がなかったり、とりあえず予算があるからやろうという仕事が多いのですね。理想的な形を言えば、クライアントさんも税金を使っての仕事になるわけですから、本当に良い物を作りたいという姿勢を見せて欲しいですね。そうしたら、我われもその熱意に応えたいと思います。私の理想的な仕事の進め方としてはそういう形ですね。

小園

 理想の進め方というより私たちの目標ということになるかもしれませんが、私たちが作った照明器具の影響する範囲内に住んでいる方々が喜んでくれたり、楽しんでいただける空間になっていることです。件名が特定された特注品ではないので、特定の空間をイメージ出来ない中で、様々な想定をしながら商品開発をしていっているのですが、実際に照明が取り付けられた所ではたとえそれが標準品であっても、シーンの素晴らしさを感じてもらえるような空間ができればいいなという思いがあります。


■一番苦労すること、そしてその打開策は?

司会

 引き続き、今日ご紹介いただいた事例に関わる内容から非常に苦労した点、その中でデザイナーとしてこういう力を発揮してこんなことが実現したということを紹介していただきたいと思います。

梶川

 今日はかなりたくさんのプロジェクトを紹介しましたが、どの仕事の背景にも苦労はあります。個人的に一番苦労したと思えるのは、私が最初に担当した1990年の花博のサイン計画です。私が最初にやった仕事ということもあるのですが、半年間のイベントの空間の中にひとつの街ができていく様を初めて見て、その中でいろんなしがらみの調整という仕事の洗礼を初めて受けることになりました。ひとつ何かを作るにしても、地下の埋管をどうするかという問題が発生します。プロダクトデザインだけしていたら、そんなことは無縁の世界だったのですが、いろんな要素が組み合わさってひとつのができることを体験し、苦労はしたけど勉強をさせてもらったということが言えますね。

 その後もいろんな仕事での苦労はありますが、一番と言われると、私はこのプロジェクトをあげます。

佐藤

 私は苦労した記憶はあまりないのですが、本体のデザインよりは実際の表示を詰めていく中で、岸和田は旧町名がありますからグラフィックでどういうふうに表現するかでいろいろディスカッションしたことがありました。その中で、標準的な書体以外に旧町名を表現する方法はないかということでアイデアを出させていただいたのですが、情報量がとても多い地図の中にどうやって入れていくかは苦労しました。情報を詰め込んでいくと、どうしても文字は小さくなっていくのですが、サインという性格上、ある程度の大きさがないと読めないからです。結果的には、旧町名に多少イタリックをかけて表現することで解決しました。

小園

 実際の開発過程では、苦労しない事例なんてほとんどないと言えるのですが、ひとつだけあげるならば、コストパフォーマンスとの闘いが大部分なんですよ。デザインしていくにあたって、想定した空間などターゲットを選定していくわけですが、それに対して様々なこだわりをもって開発していくのですが、そのこだわりが生活者に対して価値があるのかどうかをまず社内的にアピールしていかないといけない。その価値観の設定部分に関しては、かなりウエイトを置いています。

 今回紹介した事例は、比較的スムーズに進んだ例です。本当は1本アームで支えて強度が下がるような商品はなかなかトライ出来ないことなんですが、初期段階でこういうものを作りたいという共通認識が持てましたので、この商品にも積極的にトライできたという面があります。


■環境やエコとの関わり

司会

 建築をされている会員から「これからのプロダクトデザインは、エコとか環境に関する思想ははずせないが、太陽光発電や風力発電の格好良い照明器具がない」と意見が出ています。

 環境、エコに関して、展望や何かエピソードがあれば教えて頂きたいと思います。

小園

 その点は、我われも反省しないといけないと考えています。弊社の状況で言うと、ほとんど新デザインの新商品を出せていないことが課題になっています。

 また、今後はLEDが光源になっていくことによって、環境に負荷を与えることが少ないコンパクトな器具が生み出されていくだろうと思っています。

 余談ですが現時点では、特に企業内の敷地に太陽光発電の照明器具を取り付ける場合などは、企業の環境に対する姿勢のアピールを狙っていることが多いです。

 我われは基本的には、様々な用途空間を対象にしておりますので、なるべくどんな空間にも納まりのいい、環境負荷の少ない、ノイズの少ないデザインの開発を目指していきたいと考えています。

梶川

 今日はイベントとか博覧会など短期間使われるプロダクトを多く紹介しましたが、そういう中で気を付けているのは、とにかくゴミが出ないよう工夫することです。あるいはリサイクルできるように、ということは心がけています。

 ただ、常設的なプロダクトの場合は素材の選び方に心を配りますが、基本的にデザイナーはメーカーさんが開発した機具を使わないといけないので、エコ、環境の面から言うとそうした製品を待っているというところがあります。環境にいいいろんな製品は出てきていますが、それがスタンダードになっていくのはまだ時間がかかると思っています。今後、定番的なものが出れば、それをうまく使っていきたいと思います。

 いずれにせよ、環境に関しては、デザイナーだけでは限界を感じることがあります。

司会

 新しいものを採用する可能性はないのですか。

梶川

 新しいものを使うのは勇気が要ります。博覧会は実験の場でもありますから、かなり大胆にできるのですが、常設あるいは長い間残るものに関しては、新しいものを使う経験はそんなにはありません。

佐藤

 弊社は20数年、レッドウッドという北米原産の木材を主要材料として使ってきました。十数年前は弊社はオルドグロスという非常に古くて材質もいい材料を輸入していたのですが、近年は植林されたレッドウッドを輸入していました。

 しかし、最近の傾向の中で、輸入に対するいろんな抵抗感もあり、反面「地産地消」のムーブメントも出てきましたので、弊社は輸入木材をいっさい止めまして、今は、【何の?】認証を受けている国内の森林から伐採した桧を使うように全面変更しました。これについては営業からの大反対があったのですが、逆にこういうことを活かした営業を展開できるようにしたいと考えているところです。


■「コンクリートから人へ」の時代とは?

司会

 環境などの視点からこれから新たに起きることがそれぞれの分野であると思うのですが、ここで会場からそのあたりのことについて何かご質問はありますか。

前田(学芸出版社)

 先ほど梶川さんのご報告で、元気再生事業が政権交代でなくなったという話がありました。政権交代のキャッチフレーズだったのが「コンクリートから人へ」というもので、それが広く支持されたと思います。

 問題はみなさんの仕事が「コンクリート」なのか「人」なのかというところだと思うのです。

 かつて、デザインはコンクリートに付随するものでしかないと見られていたと思うのですが、私の考えでは社会資本の値打ちを上げるために本来はソフトこそ大事にしていかなくてはならない、それが「コンクリートから人へ」の都市環境デザインにおけるあり方だと思うのですが、そのあたりでみなさんが考えておられることはないでしょうか。

梶川

 元気再生事業はなくなってしまうといううわさを聞いていますが、今度の政権は観光に力を入れたいと言っていますので、観光政策でのソフト事業が今後増えていくのではないかと期待しています。

 それと、まちづくりにおいて私たちが常々心がけているのが、やはり行政やコンサルだけの押しつけになるのではなく、住民の理解、参加、コンセンサスづくりをいかに組み込んでいけるかということです。これについては、常に工夫しながらやっているつもりです。ですから、行政と市民をつなぐブリッジワーク的なところ、それはチラシ1枚を作ることかもしれませんが、そうしたコミュニケーションツールにいたるまで大切に考えたいと思っています。ハードオンリーではなく、関係者を繋いでいく仕組みも大切にしていきたいと思っています。

佐藤

 公共事業が今いろいろとやり玉に挙がっているのは、単に地元にお金を落とすだけが目的で、明らかに無駄遣いだったからだろうと思っています。先ほど理想的な仕事の形という話が出ましたが、やはり地元の人も納得し、実際に出来上がったものを使ってもらえるようなものが公共事業の本来のあり方だろうと思うのです。公共事業がそういうものになれば、仕事はなくなってはいかないだろうと思っています。

小園

 ハードかソフトかに絞って話をしますと、照明は器具として見ればハードになりますが、あかりという見方をすればソフト面が強いと思います。その両面を持ったアイテムだという見方をしています。

 ソフト面では、いろいろあかりの演出をすると消費電力が上がってエコロジーに反するという見方をされるのですが、それを違う視点からエコにつながる方法も見つけることが出来ると思います。今後はそういったエコロジーに配慮しながら、あかりによる豊かな生活シーンの演出といったことにもトライしていけるよう、いろいろ考えていければと思います。


■コンクリートから人へ、さらにデザインへ

金澤

 前田さんから「コンクリート、箱ものから人へ」という発言がございましたが、実はその先に、「コンクリート・箱ものから人へ、それからさらにデザインへ」という時代になっていかなくてはいけないのではないかと感じました。

 日本は人口が減ってどんどん高齢化していく中で、成熟した豊かな社会を作っていこうとしています。豊かさの中では、デザインという存在が大きくなると思います。今みたいに経済状態がじり貧状態の中で【意訳していています→】減って行くコンクリートにしがみつくという思想ではなくて、新たにデザインの重要性を強く打ち出すことを、我われJUDIとしても大きな声で言わなくてはいけないなと、今日感じたところです。

 昨年、JUDIの何人かでソウルに行ったとき、ソウルオリンピックが開かれた国立競技場では「デザインオリンピアード」という催しが開かれていました。ソウル市の主催でしたが、イコール韓国主催とも言えるわけです。膨大なお金をかけたイベントで、韓国は「21世紀はデザインで生きていく」と宣言しているように感じました。

 日本もファッション都市とかデザインを一生懸命言っていますが、どうもお題目だけで実際には大きな力にはなってないように思うのですね。ですから、デザインが社会的に大きな力になるような動きを作っていかないと、今みたいに予算縮減の状態が続くとデザイン関係が一番最初に切られるかもしれません。逆に、デザインこそが我われの生活の豊かさを生み出すのだという論理を作っていかないといけないと思うのですよ。そういうことを感じた次第です。

 JUDIは実践型セミナーとして今年度から、セミナーの中にデザイナー系とプランナー系のテーマを入れることにしています。今日はそれぞれ第一線で活躍されているお三方に来ていただいて、ノウハウや苦労話などをしていただきました。我われにとっても刺激的なお話しだったし、参考になりました。こういう実践型のセミナーはなかなかいいと思いますので、来年以降も継続してやっていきたいと思います。お三方には感謝いたしますと共に、ぜひJUDIにも参加していただけるようお願い申し上げます。今日はどうもありがとうございました。

山室

 今日は不慣れな司会でしたが、無事にセミナーを終えることができ、みなさまに感謝いたします。お話しいただいたみなさん、どうもありがとうございました。これで、今日のセミナーを終わります。

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