都市の自由空間
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自由空間の概念

 

■アマゾン、シャパンテ族の集落

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アマゾン、シャパンテ族の集落(出典:D. Fraser.,"Village Planning in the Primitive World", Studio Vista London)
 
 ちょうどドクター論文を書いているときに、この写真をダグラス・フレーザーという人の世界の集落形態を集めた本の中から見つけました。しかし、写真の説明がありませんでした。こういう円形集落は、ブラジルのマトグロッソに見られ、カマユラ族などもそうした集落を造ります。クロード・レヴィ=ストロースの著書『悲しき熱帯』でも紹介されています。いくつかの文献を読み、その記述を参考にしながら、この写真に示された空間構造を読みとるという作業をしました。

 写真で白く見えるところが、オープンスペース、人が歩く空間で、私に言わせれば「自由空間」です。家の回りが白っぽいところは、庭だったり作業場だったりするわけです。そして、それぞれの家をつないでいる帯状の空間は子どもたちが遊び回る空間かもしれないし、ご近所づきあいのための空間かもしれません。

 中央部分にはひときわ大きな広場があり、右手の部分が柵で囲われています。このような場所は、集落の偉い先祖のお墓だそうです。ここはいろんなお祈りやお祭りをする場所で、男しか来られない場所だと書いてありました。集落の聖なる空間です。

 そこから離れた右側に、もう一つ小さめの広場があります。ここは聖なる空間に入ることのできない女性たちのための広場で、ここでおしゃべりして過ごすための広場です。

 右上の小屋のある広場は、集落共通の倉庫みたいなところで、想像するにここでみんなが作業する場所ではないかと思います。

 こんなふうに広場が使い分けられていることが読みとれました。

 広場や家々をつなぐ細い白い線は道です。狩りに行くためだったり、隣の集落に行くためだったり、さまざまな道が集落から広がっています。

 この住居は、最大で20人ぐらい住めるようです。ですから、4〜5百人が暮らす集落ということになります。このように人が集まって住むためには、住居だけでなく、白い部分の広場や通行する空間があって初めて成り立つのだということが、この写真を見ていて分かりました。人が集まって住むということは、住宅だけでなくオープンスペースも必要だと理解したわけです。

 その後、インドネシアなどの調査に行っても、やはりこういう空間の多様さがあることが分かりました。日本の伝統的な集落にも、こういう豊かなオープンスペースがあるのです。

 ところが、私たちが現代社会において作り上げてきた住宅地や集合住宅などのあり方を見ると、ほとんどそうしたオープンスペースを備えていません。とても切りつめられた空間で日々暮らしているのだということも分かりました。都市の市街地はそういうことになっているので、切りつめられているのは仕方ありませんが、切りつめられた一方で新しい空間の形や役割が生み出されているのではないかとも考えました。

 写真は、円陣を組んだ原始的な集落ですが、これがグリッド状の町割りの中に家が配置されていったらどういうふうになるのか。そういうことをいろいろと考えました。普通、都市の歴史を勉強する人は町割りを見ていろいろ考えますが、私はむしろ、町割りの中で空き地がどういうふうに配置されるかを中心に考えていたというプロセスがあります。


■自由空間の概念〜イエ的空間とミチ的空間

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自由空間の概念 イエ的空間とミチ的空間
 
 今の話を図式化してみたのが、写真の図です。我われの生活空間はイエ的な空間とミチ的な空間で成り立っているということです。

 イエとイエはミチで繋がり、ミチの中にはそこが広がって広場みたいになっていることもあります。いずれもミチの延長線上にあり、空間はミチでつながっています。

 イエのような空間は、基本的に誰もが勝手に入っていけるところは少なく、お金を払えば入っていけるという空間も多数あります。反対にミチのような空間は基本的に誰でもが通れるし誰でも利用できる性質があり、新しいタイプのミチである地下街やビル上空の通路であっても、みんな自由にそこを歩けます。中にはお金を払わないと通れないところもありますが、基本的にミチ、あるいはミチの延長線上にある空間はタダで利用できます。

 ですから、私はミチのような空間を自由空間と名付けたわけです。不特定多数の人が自由に利用できる空間ですから、そこは閉鎖されないことが原則で、誰がいつ居てもいい所です。

 イエ的空間には、いろんなタイプの敷地があります。敷地に対する家の建て方によって、オープンスペースの配置が異なり、異なった街並みを形成します。ただ、住宅に付随する空間については、私の本の中では、そうした空間が開放されていない限りはあまり論じていません。

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