伝建地区まちづくりの新段階―その現状と課題
左三角
前に 上三角目次へ

 

質疑応答

 

 

■民間基金の必要性

桑平麻由子(富田林)

 専門家ではありませんが、富田林でNPO活動をしています。社会的ニーズに応えるのが伝建地区の役割というお話が出ましたが、専門家・住民以外に、町を応援したい一般の人の気持ちを形にする仕組みはないのでしょうか。

増井

 これはとても大事な視点だと思います。応援するしくみにもいろいろあって、手を動かして石積みしたり、茅を刈るといった労力提供などがありますが、一番関わりにくいのがお金に関することです。

 家を直すことがメインの作業になったとき、その制度の中にいろんな基金を作れないかと思っていました。本体は文化庁が補助金として出しますが、その制度では直しにくい家の回りの外構部分などを、基金を使って直せたら良いのに、現実にはそれがなかなか難しい。意外と基金が作られていないのです。

 しかし、地区によっては基金制度を設けていて、本体は文化庁、それ以外のちょっとした小修理などは基金を使って直していくというふうに使い分けています。

 先ほどの今井町の話の中で、最近になるほど修理が大規模になったのは、制度的には小修理が手続きが面倒でなかなかできないという事情があるからです。そんなとき民間のお金を上手に使うことができれば、こまめに修理をすることができます。

 もうひとつ、基金のお金をタウンマネジメントに使うことができれば、すごくいいと思います。


■まちづくりの方向性の転換

田端修(大阪芸大)

 歴史的な町は近世から広域から人を集める能力があった町だと思います。交易の中心だったとか港町だったとか。ですから、伝建地区も昔から人を集める役割がずっとあった所だと思います。人を集めることに遠慮することはないと思うのですが。そういう視点でまちづくりをしていくことはできないでしょうか。

米村博昭(今井町NPO)

 今井町が伝建地区になるとき、住人同士でどんなまちにするかでもめた経緯があります。ようやく決まったコンセプトが「静かな住宅地にする」というものでした。

 それから10〜15年経った今、各団体の方々からも「もう住宅だけでは町はやっていけない、それ以外のこともチャレンジしていかねば」という意見が出るようになりました。その話の中で、タウンマネジメントをみんなでしていこうとやっている最中です。

増井

 町の人が観光というものをどう捉えているかについては、まだまだ疑問の余地があります。

 私は伝建地区をわざわざ訪れてくれる人は良質なツーリストで、バスを連ねてわっとやってくる団体旅行とはタイプが違う人だと考えています。まち歩きをしながら発見する喜びを求めてくるツーリストなのだから、そういうニーズをサポートする観光まちづくりが必要だと訴えているのですが、そのへんのご理解がまだないというのが実感です。


■今から伝建を目指すために必要な条件とは

齊藤知恵子(岐阜県郡上八幡)

 岐阜県郡上市で教育委員会に勤めています。来年度から伝建対策調査をすることになって、それこそいろんなメニューでまちづくりを進めてきたのですが、文化財としての価値付けがまだない状況です。今から伝建を目指す町にとって、伝建対策調査で必要なこと、大事にするべきこととは何なのでしょうか。

増井

 これも答えたいというか、言いたい事がある質問です。

 今井町の場合、伝建対策調査に先行する各大学の調査はかなりやっています。いろんな学者先生がやってきては調査するということが20年ぐらい続いたと思います。その調査結果が何の役にたったかというと、直接的にはあまり地元に役立っていないのです!。各大学に調査記録を問い合わせても、どこにあるのか分からないという答えしかなくて、本当に情けないと思いました。500軒以上の民家の記録が何もない。

 地元としてもとても困っているのです。ですから、伝建対策調査では、調査プロセス、方法、結論が、これからのまちづくりに役立つ仕組みにつながるようなイメージを持ちながら調査されることをお薦めします。

 例えば、大学が学術調査で来ても、その記録は町できちんと管理することも並行して考えてください。後でその記録が必要になっても、大学の管理は期待できません。データベースは役所と共同で管理して、修理履歴なども把握しておくことです。その保存対策調査の間に、いろんなみちづくりを進めておくことをおすすめします。つまり、伝建選定に向けてのみちづくりとは、調査を切り離さずに、調査の中で【まちづくりの】仕組みづくりをイメージされていくことが大事なのではないでしょうか。


■今後、憂慮すべきポイント

鳴海

 最後のお話に出たデータベースはとても重要でして、おそらく調査をすること自体がその地域の宝物になるのではないかと思います。

 また、田端先生から町をもっと開いたものにしていくのはどうしたらいいかという提言もありました。かつて京都はそれぞれの町がルールを持っていて、「この町でこの商売はいいけど、これはダメ」という細かいルールがありました。これは都市の知恵というか、新しい何かをつくるときと関連しているのかなと思いました。

 私もついこの間、研究事業に関わっていろいろ勉強させていただいたのですが、中心市街地活性化の問題が集約して伝建地区で起きているのです。空き家、空き店舗をどうやって活用していくかという日本中が抱えている問題が伝建地区に集中して起きているという感じがいたします。ですから、伝建地区だけの問題ではなく、まちづくり全般の問題として考えていくべきだろうと痛感した次第です。

 報告の中で、今後心配なことは、制度ができてルール化されると町中同じものができていくということの危険性です。これはかつて、バリ島でも議論が起こったことがあります。役所が応援してお金をもらって保存しようということになると、パターンを作ってしまうのですね。そのパターンからはずれていたかもしれない多様性は消えていくという問題は、どうやって解決するかはなかなか難しい点で、まちづくりや町並み、建築を考えている者にとっては考えるべき重要なポイントだと思いました。

 増井先生、今日はいろいろとありがとうございました。

左三角前に 上三角目次へ


このページへのご意見はJUDI

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ