地域に学ぶ景観まちづくりの作法
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3。町並み景観シミュレーション

JUDI関西 中村伸之

 

■我われに今、何ができるか

 街なみ環境整備事業の成果を見せて頂きました。僕らは出来上がった後の姿しか見ていないのですが、今日のお話でその事業の重みを感じることができました。

 デザインする側としてもいろんなデザインの面白さ、楽しさはあるのですが、やはり京都においては整っていることの迫力があるんじゃないかと思います。私は建築に関しては全くの素人ですが、日々街を見て考える者としては、その整った街の迫力というものは決して軽々しい手法では実現出来ないと感じているところです。

 とは言え、いろんなお宅の事情がありますから、ほんまもんの立派な家ばかり作れるものでもないだろうと思います。私たちは一軒一軒に立ち入ってお話をする立場ではありませんが、それぞれのお家の持ち味、お考えを活かしつつ、今なにが出来るかを考えました。


■景観を良くすることの意味を納得するための手法の開発

 「景観が良くなっていいね」ということは誰でも言葉として言えるのですが、日々の生活の中で景観の価値はなかなか実感しにくいものです。「景観を良くしたからといって具体的に何が変わるの?」という費用対効果のことを聞かれることもあります。100%商業的な地域ではないので、景観が良くなることを「気持ちよく暮らせる」といった日常的で感覚的な価値として訴えるべきだと思いました。景観を変えようということを納得してもらうためには、また我われ自身も納得するデザインにたどり着くためにも、かなり感覚的な手法が必要だと思いました。

 スケッチで描いてみることもできますが、それでは、不都合な部分を省略するなど、リアルさがまだまだ足りないのです。写真をいじってみるのはどうか。スケッチなら線を省略できたりしますが、写真だと細かい所で嘘がつけません。合成写真によるシミュレーション。それなら見る方も感覚的に納得できるだろうと考えました。「この場所がこんなに気持ちよく変わる」と実感できたら、それが景観の費用対効果ではないかと思います。そのレベルまでのシミュレーションを作っていきたいと思いました。

 なお、シミュレーションを作成するときは、まず(1)最小限の改修をしたものを作り、それで物足りなさを感じたら、(2)もうワンステップ上げたシミュレーションにするというふうにしました。物足りなさを感じるのも、リアルな写真を使った効果だと思います。

 それ以外に、建物の寿命はどれぐらいか、改修は短期的対応か、長期的か。そういう建物のライフサイクルとの調整(費用対効果のバランス)においても、シミュレーションで感覚的に判断できるのではないかと考えました。

 私たちにとっても、シミュレーションを作ってみることで自分の眼が鍛えられ、どこをどうすれば効果的な景観の改善になるかを感じ取る訓練、あるいは自らの提案の弱点も見つけやすいという作業になり、随分と勉強させて頂いたと思います。


■事例1 シミュレーションの基本パターン

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事例1 (A)元の写真
 
 写真(A)は先ほど紹介されました井山さんのお宅の姉小路側の現況写真です。ここを事例とさせていただきました。ガレージ部分までが井山さんの所有でお家とガレージのつながりを考えた景観シミュレーションを作成しました。

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(B)軽微 (C)さらに加工
 
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(D)色を変える (E)梁の形も変えてみる
 
 (B)は、ちょっと手を加えただけの軽度な修景です。

 (C)は、(B)にさらに手を加えました。

 (D)はそれに色を変えてみた例です。軒のラインも揃えてみて、間口が広く見えるようにしてみました。

 (E)はガレージの改修に加え、建物部分の梁の形を出してみたものです。

 もちろん、最善の案として提出したわけではなく、こういうやり方もあるとして考えたものです。そのうち良い解決方法が出てくればいいと思いながら試行錯誤しているわけです。


■事例2 建物の一体感や重量感をいかに出せるか

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事例2
 
 事例1の建物の正面と側面を同時に見たアングルです。建物の一体感や重厚さがいかにしたら出せるかを試行錯誤しているところです。植栽を植えてみたりするとどうなるかなどいろいろ考えています。


■事例3 軽微な修復でどこまでよくなるかを見る

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事例3 (A) (B)
 
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事例3 (C) (D)
 
 これは2軒並んだ家の色彩の不調和が問題となります。右はもともとは町家で、いわゆる看板建築です。正面のファサードを取り外すという選択肢もありますが、費用がかからない手軽なやり方はないか、しかも京都市のデザイン基準に合い、町並みの色合いの統一感を出すためにはどうしたらいいかと考えてみました。

 まず、一番手軽にできる改修としては、(B)のように奥のお家のシャッターを横開きに変え、落ち着いた色合いにすることです。その次には(C)のように、1階全体を左右の家との色彩の統一感が出るよう変え、軒をつけてみました。これもしばらく見ていると段々欲が出てきて、2階もやりたくなる。それで、2階も変えてみたのが(D)です。看板建築に再看板を施したような改修ですが、左右との連続性は出てきたと思います。


■事例4 ペンキの効果を見る

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事例4
 
 この町並みでは群として色を揃えていくということを考えました。一番簡単な修景として、ペンキを塗るだけでも変わるのではないかということを考えてみたのです。しかも、1軒だけでなく数棟が変わることで一体感が出るのではないかと考えました。

 手前の家には格子を付けたりしていますが、こうした改修でまとまりが出るかどうかを見たものです。町家があまり無いエリアの軽度な修景、景観のまとめとして示してみました。


■事例5 明かりを変えてみる

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事例5
 
 夜の景観も大切なテーマです。蛍光灯の青っぽい光から電球色の暖かい色合いに変えていくことが、ひとつの流れになっています。姉小路でも暖かい光をどんどん広げていったら、もっと快適なまちになるのではないかと考えました。

 単純なシミュレーションですけど、家々の格子からもれる灯りを増やしてみました。

 集中した強い光はきつく感じ、かえって不安感を与えることになります。やさしい光がぼんやり広がっていくのが心地よい灯りのあり方だと思います。

 以上で私の報告を終わります。

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