地域に学ぶ景観まちづくりの作法
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橘工匠・清水さんに修復の実際を聞く(事例9)

 

■経緯

清水仁(橘工匠)

 僕が京都で建築の仕事を始めたのは町家に興味があったからです。木造建築を専門に数寄屋とか町家などを勉強してきました。たまたま、この事例9の井山さん所は私の先代である父の時代からお付き合いがございまして、私もずっと前から寄せて頂いています。

 ちょうど15年ぐらい前になりますが、そのときもここを工事させていただきました。そのときは、2階が中2階だったのを増築したいというご要望で、上に足す総2階の工事をいたしました。

 そして、このたび再び改修工事をさせていただくことになりました。工事は昨年11月頃から入りました。ただその1年前に、井山さんから「姉小路界隈を考える会という所から改修して欲しいという話が来てるけど、どう思う?」と御相談がありまして、実はよく趣旨が分からなかったものですから「気が進まなければ止めといたほうが」なんて言っていたのです。

 1年後に富小路側から工事するという話になってきたんですね。井山さんも考える会さんも「ほんまもんがしたい」ということで、それは私も強く望むことでしたので、腰を据えて仕事をさせて頂くことができました。


■ほんまもんを目指す

 こういう古い建物を元の姿に戻したり、あるいは再生されていくことで、本当の京都の姿がいつまでも生き残るだろうと思います。ぜひともこの工事は趣旨に沿った内容で仕上げたいと思いました。

 まず外壁についてですが、昔は紅殻などで木造部分を保護するのが日本建築の伝統的な方法でした。それが、ペンキが入ってきて以来、みんな安易な方、安価な方へどんどん流れていきました。ここも実は以前ペンキで仕上げていたことがあるのです。紅殻の上にペンキですよ。今回は「ほんまもん」がメインテーマですから、ペンキを全部洗い落とし油分をとってから、再度紅殻を塗りました。

 次に蔵部分の壁についてですが、以前から波鉄板張りが気になっていました。蔵は維持管理が大変ですから、ほとんどがこのように鉄板板張りにしたり板で閉ざしてしまって、ぼろぼろになっていっても放置しているという例が多いですよね。ここでも大部傷んでいるようでしたから表面をめくり、昔ながらの蔵の作りに再生させていただきました。めくってみると、やはりいろんな部分が落ちていましたね。

 いろいろ難しい工事でしたが、ここでは「元通りにしたい」というお客様の強い希望があり、私どももそうさせて頂きたいというこだわりがありましたので、やるならばほんまもんに再生したいと思いました。

 そのこだわりが、姉小路界隈を考える会の皆様やJUDIの皆様とも意見が一致する中で仕事をさせて頂けた所であり、私にとってはとても楽しい仕事になりました。やはり、趣味や考え方が一致する方と共に仕事が出来るのは、非常に嬉しいことでした。


■材料や色へのこだわり

 この工事は形は何も変えていないのですが、家のお化粧をほんまもんで再生することに力を注ぎました。樋も改修前はプラスチックだったのを、全部銅に変えました。所々はがれ落ちた壁は全部落として、しっくいで塗り替えました。

 三方の鉄板を外してしっくいで塗り替えたのですが、意外と南側の工事の方がきつかったですね。蔵の土壁はまず土の団子をぱたぱたとくっつけるようにして下地を作り、それから下塗り、中塗り、仕上げ塗りと進んでいくのですが、あまりにも土が落ちている箇所が多いと、基本の土が大部弱ってきていることもありますし、部分的には木造の下地をしてから継ぎ足したところもありました。

 ところで、格子の色は紅殻で仕上げと言いましたが、紅殻の色はもともと赤い色ですよね。それに炭(松煙)を入れながら、赤黒い色に調整していくのです。これは特に井山さんがこだわりを見せていたので、見本を作りながら新しい木の部分に塗る色、古い部分に塗る色を調整しながら色を決めていきました。

 京都の家は、もともとちょっと赤みの強い色の木造が多いのですが、それは紅殻を塗っているからなんです。駒寄せはいろんな形があるのをご存知でしょうが、こういう細かい格子は意外に少ないのです。ここの細かい格子は昔の名残なのですが、現代の技術ではなかなか難しいものです。ぱっと見には気が付きませんが、こういう所で技術の違いがあります。


■工事をさせていただく事の意味

 ところで、京都に限らず蔵の壁の修理は非常にお金のかかることです。ですから、私たちもそう簡単に工事をさせてもらえないものです。今回、本当に綺麗にさせて頂いて、工事をした本人が一番喜んでおります。私以外でも、左官屋さん、塗装屋さん、板金屋さんなどはみな喜んでいます。

 こういうほんまもんの工事は1年に1回あるかどうかです。めったにないのですよね。しかし、誰かが工事させてくれないと、技術も忘れられていくことになっていきますので、今後とも少しでもほんまもんの京都の街なみがどういうものかを知って頂いて、ご協力・ご指導いただければと思います。

 京都の町が持つ色合いや雰囲気などほんまもんが身近にないと、歴史的にも保存していきたいなどと思わなくなってしまいますので、是非とも知っていただいて、素晴らしい京都を残していきたいと考えています。


■事業に入る前の事前の準備が大変かつ大切

谷口

 姉小路通りは、寺町通り角の鳩居堂さんから烏丸通りの新風館まで7百メートルほどの通りですが、未だに1軒の分譲マンションもコンビニもないということでは、古い京都の街なみをよく残していると思います。私はここで生まれ育ちましたが、生まれる前からあった家もたくさん残っていますし、昔ながらの看板を揚げて商売されている老舗もいっぱいあります。昔ながらの「なりわい」を今に伝えるのがそうした看板であり、それが似合うのがこの姉小路という街だと思います。ですから昔から伝えられてきたことを次の世代に伝えていくのが、私たちの役目だろうとも考えています。

 景観という点で言えば、お商売をされている方は自分のところを綺麗にすることでお客さんが増えると考えてくれますから、まとまりやすいのですが、お商売をされてないお家では協議会の立場で頼みに行っても「外より中の方を改修したい」という意見も出てきたりして、なかなかまちの景観について町内でまとまるのが難しいのも現状なんです。

 こういう整備事業は国が面倒を見てくれると最初に言いましたが、それは工事にかかる分だけでして、それ以前のことはなかなか関心を払ってくれない。つまり、景観整備事業についての資料を作ったり、お施主さんを説得しに行ったり、市との協議資料・申請資料作り、大工さんや工務店と折衝したりすることこそ時間もお金もかかるのですが、そういうことにはお金を出してくれないのです。

 しかし、そういう事前の用意を丁寧にしておかないと、工事はスムーズに流れていかないものなんです。この何ヶ月かはJUDIさんのお世話になり、建築デザインや色彩などいろんな専門家が姉小路に入って下さいました。そうした方々が応援して下さることは、姉小路にとって心強いことなんです。

 これからも姉小路が良くなることに期待されている方は大勢いますし、これからも姉小路のみんなで頑張りますので、外部からもいろんな応援をよろしくお願いしたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

藤本

 これからの活動についても、姉小路ホームページで逐一報告されると思いますので、どうぞご覧下さい。

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