はじめに |
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みなさまが夜間景観についてお聞きになる機会はそうないと思いますので、この際なので照明デザインの現在形といった切り口から今回のツアーで体験したいくつかの事例、ニューヨーク、ボストンについての夜間景観を語る、そういう捉え方をしてみたいと思います。
今服部先生がお話しされたように、現在の都市デザインは「人間中心の都市づくり」に進んでおり、夜間景観も実はそちらの方向に向かって進むための大きな原動力になっているのです。今日はその辺を見て頂こうと思います。
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写真4を見て下さい。それはA「新築設計行為」のカテゴリーで、新しい建築物にその時点の最新の明かりを仕込んで魅力化するという手法です。
それ以外に、21世紀になって私達の仕事の大きなウエイトを占めているのがB、Cのジャンルです。B「リノベーション 既存建物のライトアップ」は、前からあったものの価値を再認識するために既にある景観・建築・空間の魅力を最大化・可視化する手法、そしてC「参加型イベント」は、人のアクティビティやコミュニティづくりに直接関与する手段として使われる明かりのことです。
私達の事務所でも、これらA、B、Cの仕事を常にやっていて、照明デザインとは非常に多面的な仕事になっているのです。簡単にまとめると、B「古いものを再生する」仕事とは、デザインのカテゴリーで言うとどのデザインもみんながやっているのですが、照明の場合は「本当にもともとあった古いものを何もいじらずに魅力化する」という仕事になる場合があるのが面白いところです。そしてC「人の行為をつくりだす」仕事とは、コミュニティを活性化する、あるいは人の賑わいをつくるという目的のために、直接あかりを人が触ったり作ったりして単純に人と直結する行為を照明をきっかけに行うということになります。
そうした視点から、今回のニューヨーク、ボストンの照明のあり方を見ていくことにします。
次世代光源が出てきたことで、変わったことはいろいろあります。例えば、メンテナンスの頻度が軽減されたり取り付け位置の制限から開放されるなど、技術的な話はあれこれあります。
しかし、実は都市デザイン的に言って、それまでと一番大きく違う点は、公共照明という意味で全く違う絵図がこの5年ぐらいで入ってきたことです。明らかに、今は照明デザインのターニングポイントだと思います。それはひとつには、器具の小型・ハイパワー化によってより繊細な照射計画ができるようになったことがあげられます。これは「ただ照らす」ということから「どういう風に照らす」ということをもたらし、全く違う光のデザインができるようになったということを示します。また、照明が色彩を獲得したことも大きいです。また情報メディアとしての役割を照明デザインが担うようにもなっています(照明のメディア化)。
過去の照明はアーク灯からガス灯、ガス灯からナトリウム灯、ナトリウム灯から蛍光灯やセラミックメタルハライドランプなどに変わっていきましたが、そうした流れとは全く違って半導体を技術の核とする光源が出てきたのです。それは、照明デザインが全く違うフェーズに来ていることを示しています。
08 出典:『都市と光』石井リーサ明理著 |
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今日見ていただくニューヨーク、ボストンの報告も、明らかに夜間景観の概念が広がっていることがお分かりになるかと思います。どれも公共の明かりで民間のものではないのですが、「公共の明かり=道路灯ではない」というところが今までとは明らかに違うのです。今まで公共の明かりというものは、ほとんどが道路灯で路面の照度の話でした。私達が事務所でやっているこれまでの公共照明のジャンルでは、道路の照度の話をまず何よりも求められたりするのですが、もはやそういう時代ではない。これからのパブリックな照明計画とは、よりプロフェッショナルなデザイン力が必要になっているのです。
Chapter1 ライティングが人の行動を変える。
Chapter2 都市を彩る色彩。
Chapter3 光のマスタープラン。
Chapter4 Media Facade。
今日はこのチャプターのうち、1と2を中心にお話しします。ニューヨーク、ボストンで本当に感じたことをお話しし、ついでに3、4もお伝えできればと考えています。人の行動を変え、人の賑わいを作り出すために照明を使うということと、都市を彩る色彩について、一度にお話ししようと思います。