ニューヨーク、ボストンの都市デザイン最新事情報告
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■ハイライン、ニューヨーク(High Line)
ハイラインについては先ほど服部先生から概要の説明をいただきましたので、写真を中心に見ていきましょう。
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これは街区の写真で、左上は昔ハイラインが出来た頃の写真です。これは韓国のランドスケープの雑誌から引用しました。
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これも同じく韓国の雑誌からのもので、ハイラインで起用されたプランツデザイナーの話を5ページにわたって説明している雑誌があったのです。こういう雑誌があるのを見ると日本のメディアの質は相当苦しいのではないかと思ってしまいます。このプランツデザイナーは金融街の再開発の方でも公園のデザインをやり直しているそうで、非常に自然の草木に見せながら実は全て多年草だという話を聞いて、私はビックリ仰天しました。雑草のように見えるものを色彩を考えて植えているそうです。これは私の専門ではありませんので、光の話に戻ります。
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これがハイラインの南端のところです。ツアーのほとんどは昼間行われましたが、私がどうしても夜の撮影をしたいというので、みんなが「しょうがないねえ、君が行くなら僕たちもついて行かなきゃ」と毎夜ボディガードをして下さったので、おかげさまでしっかり夜間景観を撮影することができました。感謝でございますが、でも私以外はみんな酔っぱらっていたんですよ。
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これがハドソン川を望めるビューポイントです。こういう場所が出来たことで何が起こるかというと、つまりデートの出来る場所が出来たというわけです。パブリックゾーンでのデートのための明かりがあちこちに施されているようです。恋人たちの空間となるためには明らかに手法があります。暗闇と光の微妙なバランスを見て下さい。つまり、何もかもが奇麗に光っていると、そこには二人だけのゾーンがなくなってしまうんですよ。顔は見えないけれど安心感のある気配や環境が必要なんです。
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テクニカルな解説もしたいと思います。写真21〜24は下から見るとライン状に見えたんで蛍光灯かもという話も出ましたが、全てLEDでした。柵にLEDが埋め込まれていて、その明かりが植物の上に落ちています。人間の立場から言うと、足元は明るいけれど顔はあまり見えないという照明デザインで、これはデートの時に重要なことですね。笑。このように植物だけが光っているのです。街路の設計として良い設計で、所々の樹木にライトアップがされて、鉛直面も作っているというデザインです。
写真23のようにベンチの下にもLEDが入っていました。どうなっているんだろうと、「変な人」と言われるのを覚悟で、ベンチの下に頭を突っ込んで見てみたのですけれど明らかにこの照明はLEDでした。職業病と言いますか「なんでスリットが入っているベンチなのに照明が入っているんだろう」と思ったのですが、照明はちゃんとスリットの幅に収まっていたんですね。このベンチなら恋人同士チューをしても他人には見えない、こういう配慮がデートスポットには非常に重要なわけです。
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ところどころ、目先が変わる照明の工夫がされています。写真26は、座れる階段の横に少し明るい所があります。写真27は、ふわっとした間接照明のグリーンのエリアです。散策する楽しみが随所に仕掛けてあるんですね。
もちろん、写真28のようにエレベーターは行灯になっていてスタイリッシュな感じを出したりして、非常に工夫されています。時には本を読んでいる女性の太股が光っていたりします(写真30)。これは私が見つけたのではなく、ご一緒していた殿方の大学の先生達があれやこれやと話されていたもんだから、私も思わずズームしてしまったのです。
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これがフランク・ゲーリーの有名なオフィスビルです。その向こうはフランス人のジャン・ヌーベルが手がけたコンドミニアムですね。この周辺のオフィスやコンドミニアムが軒並み高騰しているということですが、写真で見るとそれもよく分かりますね。
写真32はゲーリーのオフィスですが、オフィスと言えば日本では白い蛍光灯がバンバン使われているわけですが、ニューヨークの場合、ゲーリーのビルだから間接照明というわけではなくて、普通に使われているわけですよ。照明計画の考え方が根本から日本とは違っていて、アールデコの建築の窓から見えるオフィスの多くは間接照明で美しい景観でした。
ちなみにゲーリーは、ひとつだけ高層の作品がありまして(写真34)、どうやって立てているのか分かりませんが、高層のビルもねじれたデザインで建てています。
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これはジャン・ヌーベルの集合住宅で、非常に値段が高いというお話でした。確かに高そうですよね。窓の位置がこんなにずれてて、スラブの位置がどこにあるのか分からない。
そして、こういう住宅は「この家の照明器具は日本なら15万円のやつだな」と見たら分かるほどなぜか中が全部見えるんですね。なんで部屋の中が見えるのか不思議だったのですが、後から聞くと、やはり高級コンドに住んでいることを自慢したいという心理があるのだそうです。
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さて、私がハイラインで一番感動したことは、こうしていろんな工夫を凝らした場所ができたことで恋人達もやってくれば家族連れもやってくることです。夜に恐くなくて散策できる場所があると、ここに来て晩ご飯を食べる場所になるんですよ。これが重要です。昼間だと、そのあたりでご飯食べようとも飲もうということにならないけれど、夜の空間を作ると写真41のように満席になる店がいっぱい出てくるんです。
このエリア「ミート・パッキング・ディストリクト」は、昔は食肉加工の店などが集中し「臭う場所」だったそうですが、今では高級ブティックができたりクラブができたりしています。写真45、46はみなさんと行ったレストランですが、ここもデザインカフェになってとてもお洒落なところでした。
このように、人の賑わいを公共エリアが作り出す様子を見て頂きました。これは都市デザインをやっている人間にとっては、ものすごいエールと言えるような出来事です。まだまだ私達は諦めずにやれるんじゃないかと感じました。新しい施設とか新しい出来事が賑わいを作れるのは本当なのかというところで非常に不安になっていますが、ハイラインの場合リノベーションですが新しい施設なので、そこでこうした人間の賑わいを見たということは、照明デザインをやる私にとってその価値を信じられる、そういう気がいたしました。
■ビッグ・ディグ、ボストン(BIG DIG/Boston)
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出典左:pinkunderbelly.com, 右:bostonnaked.wordpress.com
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ビッグ・ディグはもともと高架の高速道路で、非常に渋滞する道路だったとものの本に書かれていました。その高速道路があることで中心市街地とウォーターフロントが分断されていていました。その地上の道路をやめて地下に通し、地上には写真48にあるようなオープンエリアを作ったのが、ビッグ・ディグです。
もちろん私の興味は夜間景観にありますから、写真を撮るのは夜の8時以降と考えていました。だからみなさんと一緒に飲むことが出来ないのが残念でしたが、我慢して夜な夜な撮影に赴きました。
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みなさまに見て頂きたいのは、新光源が登場することによって都市の中にカラーのポールができて、それが景観のアクセントになっていることです。これが好きか嫌いかは別として、この「光の色彩」が景観に何かしらのリズムを作っていると言えます。
そして、これは光源がLEDだから出来たことです。LEDは消費電力が少なく保守の手間も省ける上に、滑らかな調色が得意な光源ですから、こういう風に光の色を変えながら夜の景観を作っていけます。
そうした事例は今や世界中で見ることができますが、海外のカラーライティングの使い方を見ると非常に大人っぽい洗練されたやり方だと感心し、いつも学ぶことがあるのです。例えば、背景を見て下さい。パブリックな建物の照明は、ナトリウム灯のオレンジ色の光で低い色温度に設定しています。時計塔の上は、2800ケルビンぐらいの電球色ですね。時計塔をふわっと際だたせながら、そこに新しく作った公園のポールにはこうした鮮やかなカラーを入れています。その辺のセンスを私達日本でも作っていきたいと思っているのです。
■その他の事例
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実は今日は持ってきてないのですが、今カラーライティングの最先端を行っているのは韓国と中国の都市なのです。そうした都市の光と色の使い方を見ると、もう目を見張るものがありますが、やはり私達の感覚とは少し何かが違うといつも思います。そうしたアジアの都市の中でもうまくやっているところ、例えばシンガポールを見るとちゃんと夜間景観のマスタープランがあります。全体計画を持ちながら挿入していくカラーライティングは、非常に価値がありますし、都市のお洒落感を高めて現代性を持つということになるんじゃないでしょうか。
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55,56 PLAZA DEL TORICO, SPAIN 出典左:b720.com, 右:www.architonic.com
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ここは世界遺産に指定されているスペインの街路です。かなり大胆な照明デザインですが、品のあるものでしょう。一体何が違うのでしょうか。これはやはり設計者の教養の問題で、私達もそこを頑張っていかないといけないなあと思っています。
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57,58堂島大橋/大阪
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そういう話をした後で私が手がけたものをお見せするのは何ですが、ちょっと見て下さい。私達の事務所が今年(2011年)のコンペで取りました。一昨日、点灯開始された堂島大橋です。武田吾一設計で昭和2年にできた橋を、最先端のLEDを使い、オール・オートクチュールで設計しました。橋の形を一切いじらずに365日照明するシステムを組み込んで、時々照明の色が変わるようになっています。国際会議場のあたりにいかれる機会がありましたら、ぜひご覧いただきまして果たして世界のカラーライティングと肩を並べているかどうかをジャッジしていただきたいと思います。
■今公共の明かりが変わりつつある
一番大事なことは、今明かりの世界は本当に今までとは違うフェーズに来ていて、公共の明かりが道路の明かりだけではなくて、細かく繊細な明かりになりつつあることです。足元の間接照明だったり、樹木をふんわりと浮かび上がらせる明かりだったり、そうしたものを組み合わせて空間を作っていく照明になっているのです。そうしたものが人の賑わいを作ることに大きく関わってきているのです。
では、ボストンで見つけたもっとも気に入った照明デザインを見て頂こうと思います。私が一番気に入っていて、いろんな所でみなさんにお見せしている写真です。
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60,61 BOSTON
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62,63 BOSTON
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先ほどお話ししたビッグ・ディグの中にフラット噴水のエリアがあります。ここは噴水とライティングとミスト状の仕掛けのあるエリアです。噴水という水の動きがあるものとライティングがあることで、夜になったらみんながここに集まり、裸足になって遊んでいるんですよ。私達の目の前でたくさんの老若男女が噴水に入ってきゃあきゃあと遊んでいる姿を見ますと、果たしてこの噴水と照明のエリアがなかったら、夜にウォーターフロントと中心市街地の間を人が行き来するんだろうかと思いました。少なくともこれがあることで、行き来のきっかけになっていると思います。そう考えると、パブリックデザインの中には水の力、動きの力、ライティングの力というものは絶対あるし、私もそれらを公共デザインの中で実現していきたいと心から思ったわけです。
こういう人の賑わいには、水、動きのあるもの、光というものが絶対に直接関わってくるのだということを感じさせる写真を他にもお見せしましょう。
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64 Curtis Hixon Park, Detroit
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65 Place des nations, Geneva 出典:geneveactive.com
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67,68清渓川/韓国
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このように世界中で、パブリックデザインが頑張ってトライしています。日本も公共デザインにお金をどう投資するかを真剣に考えながら提案して、こういうことをやっていきたいと思うわけです。
明かりと水が夜の景観には多大な効果があるということをまざまざと見せている事例は、例えばチョンゲチョン(清渓川/韓国)がそうです。ここも人工の滝を作ったりLEDの明かりを入れて、夜に楽しめるエリアにしています。ましてや韓国人は宵っ張りの人が多くて、これは夜中の3時に撮った写真ですが、大勢の人がいて食べ物の匂いも充満していたところでした。ここで飲み食いを楽しんで、そして川辺に座れる場所があるんですね。角野先生、服部先生もご指摘されていたように、座れる場所、つまり恋人同士が憩える場所を作っていかないと、恋人になる楽しみがないですよね。日本は「僕もいつかここで…」と思える場所がないから、男子がみんな軟弱になっていっているのではないだろうかと思ってしまいました。先ほどのハイラインの写真で見たように、ここでも「顔は見えないけど足元は明るく」という場所のセオリーをちゃんと踏んでいます。
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69チョンゲチョン,70 Toronto 出典左上:architectureboston.wordpress.com, 右下:www.flickr.com
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そういう都市の仕掛けがトロントにもあります(写真69、70)。私はまだ行っていませんが、ここも照明の業界では非常に話題になっている場所です。LEDで橋梁をライトアップしながら、夜ゆっくりできる場所になっています。変な橋だからみんなやってくるのです。この「変な」というキーワードが大事で、なんだか普通とちょっと違うから楽しいのです。ハイラインとその他の追随物の違いはそこにあるんじゃないでしょうか。それが都市デザインのデザイン操作というか、デザインの力だと思うんですよね。こうした感覚を大事にしていきたいですね。
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