デザイン・ソウルと政治について |
市長選のことを少し説明いただいた方がいいと思います。
金:
ソウル市では、イ・ミョンバク市長が清渓川(チョンゲチョン)の復元をして、これがきっかけとなってオープンスペースへの市民たちの関心が高まりました。それまではオープンスペースに市民は関心があまりなかったのですが。
イ・ミョンバク市長の後に就任したオ・セフン市長もその政策を引き継き、一層発展した「デザイン・ソウル」という計画を立ち上げ、実行していきました。その計画は市民にも評価されて、再選されました。
オ・セフン市長は市の与党に属しているのですが、選挙の結果、市の議会は90%ぐらいが野党の議員たちに占められることになりました。それで、オ・セフン市長が「デザイン・ソウル」を実行していこうとすると、議員たちが圧力をかけてくるんですね。理由なく、「反対のための反対」ということで、いろんな計画が滞りがちになっていったのです。
オ・セフン市長が再選された後、1年ぐらいして野党の議員たちは「デザイン・ソウルのために、お金を使いすぎる。もったいない」と言い出して、「子どもの無料給食にお金をつかったらどうか」と主張しました。それが話題になって国民の間に議論を呼び、市民たちもそれぞれの立場に二分された形になって闘いを始めているんですよ。
そこで「デザイン・ソウル」をはじめ自分のほとんどの政策が野党の議員から阻止され進まないことでかなり疲労感を感じていたオ・セフン市長は「子どもへの無料給食を実施するかどうかを住民投票で判断したい」と提案し、2011年8月に投票になったのですね。オ・セフン市長はこの投票で負けたら市長を辞めますと公約したんです。結果、僅差でオ・セフン市長は負けてしまいました。
今は、新しい市長としてパク・ウォンスン氏が選ばれています。この人は野党の人で、オ・セフン市長が計画していたデザイン・ソウルのプロジェクトの多くを中止してしまいました。今続行中のプロジェクトは続けるけれど、まだ始まったいなかった政策は全部中止にしてしまいました。
ソウルは長期的で体系的な政策の流れがあるわけじゃなくて、誰が市長になるかによって都市の重要な政策が決定されるというシステムになっています。それは今後のソウルにとって心配なことだと思っています。市長のマインドで市の政策がコロコロ変わっていくのは危ないことではないかと思っているところです。
司会:
ありがとうございまいした。何かご質問があればどうぞ。
デザイン・ソウルと無料給食のどっちがいいかが住民投票になったということですが、デザイン・ソウルは市の予算の中でどのくらいの規模を占めていたのですか。
金:
デザイン・ソウルをするためのお金は、無料給食よりよほど予算規模が大きいんです。だから、争点は無料給食というより、デザイン・ソウルに対しての反対ということで野党の人たちが持ち出してきたという感じです。
雰囲気的に市民たちも巻き込まれて、二つに分かれて闘うことになった次第です。
前田:
つまり、デザイン・ソウルはハード系の事業を伴うから、かなり大規模な事業だったということですね。
金:
そうですね、大規模でした。
お話しの中で運河の問題が出てきました。運河を造って交通を改善するという事業で、これはインフラ的には大規模な投資も必要ですし、果たして効果があったのかと私は疑問に思っています。
その点については、オ・セフン市長はどのように考えておられたのでしょうか。
金:
インチョンからソウルに渡るこの運河は、効率的な効果を求めたというよりも観光的な効果を求めて作られたと言えます。
ただ今はソウル市民たちは「運河」という言葉にすごく敏感に反応しているんですよ。それは、イ・ミョンバク大統領が就任した時に「韓国に南北を貫く運河を作ろう」と提唱したことで、これをめぐって全国民が二つの立場に分かれて闘うことになったんですよね。イ・ミョンバク大統領は50%近くの支持を集めて大統領に就任し、就任初期の支持率も80%くらいだったんですが、今は10%代に落ち込んでいます。支持が落ち込んだ理由の一つが、この運河をめぐる話でした。国民は「実際の効率に結びつかない運河をなぜ作るのか」と疑問に思っています。
計画は、ソウルから釜山までの長さです。それが国民感情を刺激しました。オ・セフン市長が作った観光用の運河も、市民団体や野党から「無駄な投資だ」と攻撃にさらされました。
でも、大阪でも中之島を通る川に観光用の船を浮かべて、うまく運用していますよね。今の韓国の運河にはそうした船がないんです。過去に観光客用の船もあるにはあったのですが、それは短い区間だけでした。
漢江という川は世界の川の中でもかなりの川幅があり、ソウルの中では重要な自然資源なんです。そうした豊かな資源があるのに、これまで漢江を船で遡ることができず、観光用の施設がないのはおかしいんじゃないかと考えて、オ・セフン市長は運河を作って観光施設としたのです。中国からの観光客も、この運河を使ってソウル市まで来られるようにしたいという計画でした。そうしたら、中国からの観光客も仁川空港からバスという今のやりかたじゃなく、もっと便利に入ることができる。それが出来たらソウルの観光事業ももっと盛り上がるだろうという考えを持っていました。これが「接近性を高める都市」という原則の一環です。
この運河はもうすでに完成されましたが、今こそ利用率は低いです。この運河が完全に役に立つためには、マリナ施設、ポート施設、クルーズ施設などのさまざまなインプら整備が必要し、今後長期的な計画で段階的に進まなければならないと思いますが、野党の人たちはたくさんのお金を使ったのに利用率の低い失敗したプロジェクトであるとひどく評価し、これからの計画もちょっと今は止まっているところです。
前田:
今、運河はどこからどこまで通っているのですか。
金:
図 運河の模式図 |
漢江は幅が広いのですが、海側は水深が浅く干潟となっているし、また北朝鮮との境界にかなり近づいており、大規模の船や民間の船は通ることができません。だから、途中からインチョンまで運河を通して船が通れるようにしたのです。この運河は、昔の朝鮮時代にも利用されていたものですが、近代になってなくなっていたのを復元したのです。この運河で、中国からの観光客の乗り入れに利用したり、市民たちにとってもクルーズ利用ができるようにしたいと考えていました。
しかし、2012年春の開通後、まだ利用率が低いままです。清渓川も出来た当初はあまり利用されなかったのですが、今はソウルの市民に評価されています。だから、運河も時間が経ったら評価されるようになることを期待しています。ただ今は円滑に船が通ることが出来ないんです。今から運河をどう運営すべきかをちゃんと計画していくべきなんですが、残念なことに今は市民たちが「運河」という言葉に敏感に反応して、野党と一緒になって「利用率が低い運河なんてダメじゃないか」とオ・セフン市長を攻撃したんですよ。難しいことになっているんです。
私はこの運河計画は良い計画だと思っているんですよ。でもどうなるかは分かりません。
鳴海:
ソウルに船を持ってきたいというイメージがあるんですよね?
金:
昔は船で人やいろんな貨物を運んでいました。昔からよく使われていたのですが、朝鮮戦争の後、北朝鮮の関係やスパイの侵入の問題などで、保安警戒が厳しくなり、ソウルには船が入らないようにしてしまったのです。しかし、歴史的にはソウルは船がたくさん行き来する町でした。近代になってから船が全然使われない川になってしまいました。
韓国人の朴と申します。釜山出身で、今は日本に留学しています。
神戸芸術工科大学で環境・建築の大学院修士課程に在籍して、神戸と釜山の都市計画と景観デザインの研究をしています。
ソウルについて少し分からないことがありますので、質問させて頂きます。
先ほどお話しにあったように、ソウル市の市長がパク・ウォンスン氏に替わって政策が大きく変化しました。私もニュースで、無料給食についていろいろ議論があったと聞きました。
今までオ・セフン市長は、デザイン・ソウル計画でいろいろ活躍していました。
例えば、オ・セフン市長は、李ミョンパク大統領がソウル市長になっていたとき、チョンゲチョン復元事業などを引き継ぐ多様なデザイン都市の事業を行っていました。その時に全面無料給食を行うか一部どうか無料給食を行うかなどの福祉政策の予算増額に関する世論が多かったためオ・セフン市長は非難されるようになったことに僕も知っておりまうす。
ただ日本もそうですけど、今の韓国は離婚率も高く、出生率も世界の中で一番低くなっています。最近韓国社会、とくにソウルの福祉政策をどう打ち出すかが、かなり国民の注目を集めるのです。給食を無料にするという政策も、全児童に対してなのか、所得の低い世帯だけなのかという議論もありました。
そうした議論の中で。オ・セフン市長は負けてしまったのです。
それで、これから新しい市長になって、ソウル市はどう変わっていくのか。都市計画や都市環境の考え方はどうなっていくのでしょうか。特に福祉の観点から見て、どう見ていけばいいのか。金先生はどう思われていますか。
金:
福祉を都市政策に関連させて考えるのは、奇妙な問題ですよね。福祉をちゃんとしようとすれば、税金がたくさん必要になります。しかし、市民たちは多額の税金には反対するのです。つまり、福祉問題は社会・経済学的な問題で、その自体でもいろんな論点がありますし、また政治的にもかなり複雑な問題の中心になっています。特に今の韓国についてはもっと敏感な話です。ですので、政治的な話で私はあまり話したくないのです。
ただ、私が悔しいと思っているのは、そういう政治的な問題で都市再生の事業が中止になったということです。お金がないからという理由で中止になったのではなく、政治な問題でこれが中止になったということは、都市の未来を考えたら相当に憂慮すべき事じゃないですか。
だから、私は韓国人は政治性が強すぎることが問題だと思いますが、福祉の問題については私はよく知らないのです。ただ日本もそうだろうし、ヨーロッパの国々も例えばデンマークなどは福祉政策のために経済が悪い状態になっていると聞きました。韓国は、一人当たりのGDPが2万ドル強しかありません。福祉を全国民が満足できるようにすることは、私は賛成できないことなんです。韓国経済に悪影響を及ぼすことになりかねませんから。しかし、これも政治的な話ですから、私としてはこれで止めておきます。
今の市長について言うと、都市の再生や公共空間のデザインよりも、市の管理に関心があるんですよね。
それは新しい事業をやることよりも、今のシステムをよく管理して維持していくことです。お金は、争点になった無料給食とか老人たちの福祉事業などに使いましょうと言っています。だから、新しい事業には興味がなく、今の現状を維持することが大事だというのが新市長の考え方だと思います。
この考え方には賛成する人もいれば、反対の人もいると思いますよ。しかし、私自身は今の市長の考え方は残念だと思っています。せっかくソウルの変化が始まったばかりだったのに。私が日本に留学したのは1999年でしたが、その頃のソウルと今のソウルはものすごく大きな変化がありました。その町の変化にも、もちろん評価すべき事もあれば反省すべき事もあります。評価すべき事はもっと発展させるべきですし、反省すべき点は正していきながら、都市の再生を果たしていくべきなんです。
やっと都市再生の雰囲気も盛り上がり、事業は始まったばかりだというのに、その事業が新しい市長によってつながらなくなってしまった。それは私からすると、とても残念なことなんです。
新市長が管理、市のマネージメントに力を入れそうだという話は、いわば開発型と保全型に分ければ、開発型の都市開発を抑制していこうという方向性に変わってきたということなんでしょうか。限られた原資の中で、どう予算を配分していくかということから生じてくる問題なんだと思いますが、そういう中で保全型のウエートが高まりつつあるということなんでしょうか。
鳴海:
新市長が開発をしないというのは、どういう考えなんでしょうか。
金:
新市長は、必要な開発だけをするという考え方なんです。余計な開発は止めて、住宅地の開発や産業地の開発だけをしていくということです。すぐに効果が分かる効率的な開発はするけど、デザイン・ソウルみたいな将来を見据えた開発は手を付けないということです。
ただ、新市長が全部のデザイン・ソウルをしないということもないのです。やれることはやっていますが、オ・セフン市長が計画した多くの事業は中止になっています。
前田:
開発をするにしても、デザインというものを前面に打ち出した事業はしないということですね。粛々と効率よく道路を作っていくことですね。
金:
それと福祉政策です。
ソウルは2000年ぐらいからデザインで都市のブランドを作っていこうという勢いがありました。それと平行して、韓国はいわゆる韓流と呼ばれる韓国ブランドのドラマや歌などの芸能をアジアに向けて発信しました。日本でも韓国のドラマはヒットしました。そういうアジアに受け入れられるコンテンツをたくさん作りました。それはみごとにパワフルな動きだったと思います。それは、アジア、主に中国に向けた国家戦略だったのかなと思いました。
今のお話しを聞いていても、デザインもそうした国家戦略の一つだったのかなと受け止めたのですが、それはどうでしょう。韓国の国家としてのブランド戦略と都市デザインは偶然だったのでしょうか。僕は、その頃から韓国の人たちがよく見えるようになったと感じていたのですが。つまり、どういう生活をしてどういう顔の人たちかということです。
金:
私自身は、都市デザインが国家戦略に組み込まれていたかどうかはよく知らないのです。
1990年代の末から、韓国に来る外国人観光客を増えるための「韓国訪問の年」を作ってキャンパーンやイベントなどを行ったり、最近はキムチや韓国の食べ物を世界に知らせるための戦略を作ったりすることなどの戦略は、「文化体育観光部」という政府の機関からやっているとは思いますが、その政府の政策がソウル市の都市再生プロジェクトとつながりがあるかどうかについてはよく知りません。デザイン・ソウル計画の中では外国人を含めすべてのソウルへの訪問者に「行ってみたい」都市環境づくりを計画しており、特に外国人向けの計画は図っていないと思っています。
斉藤:
アジアの人たちも近年富裕層が増えていますから、そういう人たちに向けてアピールする流れがあったんじゃないかなと思いました。先ほどのお話しの中でも、中国からの観光客を船でソウルに迎え入れたいという話も、その流れだと感じました。韓国が作る電化製品や自動車も、韓国ブランドで売っていこうという流れに見えます。外から見ると、全部がつながっているように見えるんですよ。すごく賢くやってるなと思えます。
お城などの歴史的な景観を復元するというのも、韓国ドラマのヒットと合わせて見ると面白いなと思いました。こうした動きは、韓国人が自分たちのアイデンティティを確立させると同時に、外国に対しても韓国らしさをアピールできることになりますよね。
金:
ヒットしたドラマと都市政策が関係あるかどうかは…誰かが研究したら面白いかもしれませんね。
互いにどのくらいは影響をあたったり受けたりすると思いますが、その全体の相好作用を総合的で計画的に、また国のレベルからコントロールするのはちょっと難しいではないかと思います。
前田:
私が聞いた話では、韓国は文化やデザインを世界に発信して、アジアはもちろんヨーロッパ、アメリカなどに言葉の壁を乗り越えて世界に出ていこうとしている。「カンナンスタイル」はものすごく流行ってるし、ダンスなどノンバーバルな舞台にも力を入れていますよね。
こういうモダンな文化のサポートと、金先生が手がけている都市デザインとつながっているという意識はないのですか。
金:
カンナンスタイルは計画的に作られたんじゃなくて、自然に発生したものだと思いますよ。
文化やデザインの発信を、ある程度、国家として方針を作ってサポートしているかもしれませんが、私自身はあんまりそうしたことを意識していません。朴さんはそういうことは知っていましたか。
朴:
例えば、「韓流」という言葉も中国から出てきた言葉です。
昔は、中国も日本や香港の映画を見て盛り上がっていたのですが、いつの頃からか中国で韓国のドラマが人気になりました。その時期が先ほどおっしゃったとおり、2000年頃なんです。
韓国でも、これから生活の質をどう高めようかという話が出てきた時です。
そうした雰囲気と関連があるかどうか分かりませんが、お城など文化財や歴史的に意味の高いもの、家屋などの復元は韓国人の誇りとして文化を守ろうという雰囲気、それにプラスして「デザイン・ソウル」というイメージで世界に発信していこう動き、そうした流れは偶然かもしれませんし、観光産業の一つとして国家の戦略もあったと思います。そして両方、あったのかもしれません。
結局、それをうまくつなげていけば、都市の美として、また歴史的な文化の財産を守っていく韓国はもっと良くなれるのではと個人的には考えています。
鳴海:
国がもし、国家戦略として都市デザインを考えていたとすれば、新市長の考えは国の政策と別の方向になってしまうのではないですか。
朴:
金先生の考えも同じだと思われますが、韓国内の実情を言えば、今一番問題になっているのは出産率の低下と若者の就職問題なんです。与党であるネヌリ党の出身のソウル市長の李・ミョンパク大統領とオ・セフン市長の業績は素晴らしかったから、野党はオ・セフン市長の足りなかった点を攻撃したのですが、それが「子どもを生んで女性が働ける環境なのか」ということでした。韓国の受験熱はすごいですから、ただ食べていける社会よりも、ちゃんと高い教育を受けられる社会と高等教育を受けた人がちゃんと就職することができる環境をつくって維持していけるかどうかが問題なんです。
新しい市長は「昔からあるシステムは維持して、出産率を上げ就職率を上げる政策を実行していきたい」と主張して当選しましたが、その結果はまだ出ていません。
この清渓川の復元から10年ほどが経過し、韓国全体の観光客の数も伸びています。都市再生が世界から観光客を呼び込めるというはっきりとした成果が出たのだから、政治に左右されずに継続されるということはなかったのかなと不思議に思いました。
ヨーロッパの都市再生の場合でも、文化・芸術系にお金を投入する時は事業評価をきちんとしていますよね。これだけのお金を使ってこれだけの人を呼びましたという報告をきちんとやっていて、その事業はあまり政治に左右されないという印象があります。韓国ではそうした事業評価はなかったのでしょうか。
金:
韓国も事業の計画を立つ際にいろんな調査をしています。また事業の事後評価もやっています。しかし、どの事業でもいい成果もある反面、問題点もあるのです。韓国でデザイン・ソウル事業が政治的な議論に巻き込まれ進まない理由は、問題点を改善していくことではなく、問題点を政治的な攻撃の手段として利用するためです。韓国の場合、与党と野党の対立状態が深いのです。さらに、市長のマインドによって計画が立てられ、成果があっても野党は問題点だけを強調して反対するのです。新しい朴市長は就任初に、既に市民から評価のよい清渓川について、環境に悪い開発なのにすべてをやり直してリモデリングするべきだと言って、賛否の論争に巻き込まれたこともありました。これはよい成果は無視して問題点だけを拡大する政治的な反対の典型であると私は思います。
また、デザイン・ソウルの計画を立てた時は、観光客を呼ぶということを主な目的とは意識されていませんでした。基本は市民のための計画だったんです。
オ・セフン市長が主張していたのは、「人間的な都市を作ろう」「環境共生的なソウルを作ろう」ということでした。だから、市民たちが楽しめるまちづくりということです。すべての事業は、そうした市民の環境に焦点が当てられていたんですよ。観光は当初意識されていませんでした。でも、それは観光客を無視した政策ではないんですよ。ある程度はあったけれど、それがメインではなかったということです。
ただオ・セフン市長は、今は投資の対象は産業ではなくデザインだと言っています。世界にはもうすでにデザインが重要な価値となってきたので、ソウルもそれに対応してこれまでの機能重心の都市空間開発をやめさせ、デザイン重心に変えらなければならないと言っています。つまり、21世紀の世界はデザインの時代となるので、デザイン・ソウル計画を実施、世界のなかでソウルという都市の位相や都市のブランド価値を高めようことです。
であから、観光客が増えたのは、デザイン・ソウルの結果から随伴される効果の一つとして上げられることで、究極の目標ではないということです。
杉本:
余談になりますが、大阪府でも「都市魅力創造局」が作られてソウルと同じようなまちづくりを目指していました。最初は政治的には「世界に向けて」と言っていたんですが、行政的には「府民、市民に向けて」となって、目標が途中で変わっていき、結局最後のアウトプットが当初の「世界に向けて」とは違うものになってしまったということがありました。つまり、事業評価の指標が違うものになっていくということがあったんです。ソウルでも、もしかしたら似たようなことが起こったのかなと思ったので伺いました。