まちづくりのまち医者を目ざして |
私も実際にそのような経験をしました。私たち世代がそれを経験した最後の世代かもしれません。外科医のように改造のテーマに応じて専門家が入り、そのテーマごとに公共や民間の投資が付いてくるという感じです。それぞれの投資に応じて、プラン、設計、工事の業務がありました。
そういう時代から、今はエリア全体をどう捉えてマネジメントしていくか、地域をどう運営していけるのかが問われています。あるいはどう地域の個性を出していけば、地域が生き残れるのか。そういうことが地域課題の解決には大切になっていると思います。
そうなると、地域の改造テーマを見るというより、人の暮らしを見るということが求められてくるようになります。それぞれの人の性格や興味、モチベーション、関連するまちの資源など、人々がどういう暮らしを実現させたいのかを踏まえながら、地域を見ていかないといけません。それらをもとに地域の課題設定をして、必要な専門性は何なのかを判断して、自分ができること、できないことを振り分けして、自分ができないことについては誰かと組んでやることを考える。
進めるうえで基本となるのが、人の話を聞く、プラットフォームをつくる技術、全体の地域マネジメントをしていける技術であり、外とどうつながっていくかの技術です。これらは大切というより、基本となる技術ですね。
これらのことが、今までの改造テーマに応じた外科手術的な関わりから、全体を見ながら健康を考えるまち医者的な関わりが必要になってくると考えるゆえんです。今までは悪いところを取り除き入替えるというやり方でしたが、まち医者はそういうことをしませんから、なかなか完了しないということになります。主な技術はマネジメントですから。外科手術的な専門性を持った人でも、まち医者的な役割にも踏み込んでいる人もいると思います。地域力が維持されている状況をつくることが、まち医者的まちづくりの一番の目標なんです。ですから、一定期間の関わりを持ち、的確な問題把握をして、エリアマネジメントの仕組みやプラットフォームをつくり、コミュニティに関わっていかないといけません。
我々はこういうものを学んでいかないといけないと考えています。
人が集まるプラットフォームも、いろいろな方に聞いたのですが、うまくいくときにはプラットフォームのつくり方や人の集め方などで、けっこう共通点が多いようなのです。「肩書きをはずし、個人で参加する」などいくつかあります。例えば愛地球博では、今まで国や企業主導でやっていた博覧会を、初めて市民主導で開催しました。そのプロデューサーや長年続くイベントの実行員会の人に話を聞いたところ、まさに同じことをおっしゃっていました。
それはプラットフォームを設置する人の姿勢だったりもするのですが、とにかく関わる人すべてが「自分事」として参加できることが大切だということです。
その人々の思いがベースにあって、初めてその後に専門性が生きてくるのです。
家庭医・プライマリーケアの理念1 Accessibility(近接性)。2 Comprehensiveness(包括性)。 3 Coordination(協調性)。 4 Continuity(継続性)。 5 Accountability(責任性)。
社団法人日本プライマリーケア連合学会より
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やはり、まちづくりには終わりはないと思いますので、ずっと健康でいられるよう活動し続けられる状況をキープしていくことが一番の目標だと思います。「国から地域へ」「専門家から生活者へ」「治すから支えるへ」と重点が移っていくのが今後のまちづくりだと考えます。これらをしっかりフォローできる伴走者がまちづくりの「まち医者」です。こうした「まち医者」の専門性を明らかにして、必要とされる仕事にしたいと思いながら活動しているところです。
では、以上で私の報告を終わります。