まちづくりの「まち医者」
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まちづくりのまち医者を目ざして

 

■「まち医者」的な技術

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 さきほど、これからのまちづくりにはまち医者的な関わりが求められるということをお話ししました。今までは、土地利用、都市基盤、再開発、住宅、商業、ランドスケープなど地域改造のテーマ別に、その専門家がその部分をつくりこむことが多いと思います。

 私も実際にそのような経験をしました。私たち世代がそれを経験した最後の世代かもしれません。外科医のように改造のテーマに応じて専門家が入り、そのテーマごとに公共や民間の投資が付いてくるという感じです。それぞれの投資に応じて、プラン、設計、工事の業務がありました。

 そういう時代から、今はエリア全体をどう捉えてマネジメントしていくか、地域をどう運営していけるのかが問われています。あるいはどう地域の個性を出していけば、地域が生き残れるのか。そういうことが地域課題の解決には大切になっていると思います。

 そうなると、地域の改造テーマを見るというより、人の暮らしを見るということが求められてくるようになります。それぞれの人の性格や興味、モチベーション、関連するまちの資源など、人々がどういう暮らしを実現させたいのかを踏まえながら、地域を見ていかないといけません。それらをもとに地域の課題設定をして、必要な専門性は何なのかを判断して、自分ができること、できないことを振り分けして、自分ができないことについては誰かと組んでやることを考える。

 進めるうえで基本となるのが、人の話を聞く、プラットフォームをつくる技術、全体の地域マネジメントをしていける技術であり、外とどうつながっていくかの技術です。これらは大切というより、基本となる技術ですね。

 これらのことが、今までの改造テーマに応じた外科手術的な関わりから、全体を見ながら健康を考えるまち医者的な関わりが必要になってくると考えるゆえんです。今までは悪いところを取り除き入替えるというやり方でしたが、まち医者はそういうことをしませんから、なかなか完了しないということになります。主な技術はマネジメントですから。外科手術的な専門性を持った人でも、まち医者的な役割にも踏み込んでいる人もいると思います。地域力が維持されている状況をつくることが、まち医者的まちづくりの一番の目標なんです。ですから、一定期間の関わりを持ち、的確な問題把握をして、エリアマネジメントの仕組みやプラットフォームをつくり、コミュニティに関わっていかないといけません。

 我々はこういうものを学んでいかないといけないと考えています。


■自分事になれるかがすべて

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 地域のことは地域の人でやっていくしかない。そういう思いで私は今生活している大阪で活動しています。大阪以外の地域に関わる時は、その地域の人がそういう思いで関わらないと、次のステップには行かないと思います。ですから、「わたしがやりたいこと」「相手の満足につながるか」「社会の公共性につながるか」という思いが交わる事業になっているか、つまりそれぞれの「わたし」が関わる意味を大切にしながら進めていくことが肝要だと考えています。

 人が集まるプラットフォームも、いろいろな方に聞いたのですが、うまくいくときにはプラットフォームのつくり方や人の集め方などで、けっこう共通点が多いようなのです。「肩書きをはずし、個人で参加する」などいくつかあります。例えば愛地球博では、今まで国や企業主導でやっていた博覧会を、初めて市民主導で開催しました。そのプロデューサーや長年続くイベントの実行員会の人に話を聞いたところ、まさに同じことをおっしゃっていました。

 それはプラットフォームを設置する人の姿勢だったりもするのですが、とにかく関わる人すべてが「自分事」として参加できることが大切だということです。

 その人々の思いがベースにあって、初めてその後に専門性が生きてくるのです。


■まち医者の理念

 下記はたまたま見つけたものですが、海外では『家庭医』という概念があって、それが何かを示したものです。海外ではそれがまち医者の概念のようです。日本ではまち医者というと、内科や、僻地に行った専門医がまち医者をやらざるを得ない状態というイメージですが、海外では『家庭医』という役割そのものがひとつの専門性を示す言葉として認識されています。外科や眼科などと同等の専門医のひとつに『家庭医』というのがあるのです。それがまち医者でして、その概念は以下の通りです。

     
    家庭医・プライマリーケアの理念
     1 Accessibility(近接性)。
     2 Comprehensiveness(包括性)。
     3 Coordination(協調性)。
     4 Continuity(継続性)。
     5 Accountability(責任性)。
    社団法人日本プライマリーケア連合学会より
 
 こういう人が地域で求められている医者です。家庭医はその専門教育を受け一定の地位を得ています。まちづくりの現場でも地域のことがよく分かっていて、地域の人たちがどういう人たちかを一人一人分かったうえで、何か一緒にことを起こせるような地域力を維持できるような存在として、まち医者の活躍のフィールドがあるんじゃないかと思っています。


■まちづくりの「まち医者」

 では、まちづくりの「まち医者」とはどういうものなのか。最後にそれをまとめてみました。

     
  • 地域住民の身近にいる。
  • 様々な健康問題に対応する(専門医ではなく内科)。
  • 普段から継続的に話をし、治療のみでなく病気の予防やリハビリも手がける。
  • 必要な専門性を判断し最先端医療との橋渡しを行う。
     まちづくりだけでなくいろんな技術があると思いますので、そうした専門との橋渡しもする。
     
     まちづくりに終わりはない。
     「国から地域」「専門家から生活者」「治すから支える」。
     
     何かあったときに対応できる耐力、地域力をつける。
     その伴走者。
 
 ということです。

 やはり、まちづくりには終わりはないと思いますので、ずっと健康でいられるよう活動し続けられる状況をキープしていくことが一番の目標だと思います。「国から地域へ」「専門家から生活者へ」「治すから支えるへ」と重点が移っていくのが今後のまちづくりだと考えます。これらをしっかりフォローできる伴走者がまちづくりの「まち医者」です。こうした「まち医者」の専門性を明らかにして、必要とされる仕事にしたいと思いながら活動しているところです。

 では、以上で私の報告を終わります。

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