まちづくりの「まち医者」
左三角前に 上三角目次へ
 

締めくくりコメント

 

鳴海

 泉さん、ありがとうございました。話が広範に広がりましたので、一口にまとめるというわけにはいきませんが、関連して2、3感想的なコメントを述べたいと思います。

 ひとつはプラットフォームについてです。成功する要因として、肩書きなしでの参加などいろいろおっしゃっていましたが、実はこれ、小さい村で元気なところとも共通する話です。

 愛媛県内子町の石畳地区はむらづくりでがんばっているところです。ここのむらづくりグループのルールに、肩書きなしの参加、議論する時には儲けの話は一切しないとか、言い出しっぺがリーダーとなる、といったものがあるそうです。それは泉さんが今日紹介された例とよく似ています。なぜそういうルールなのかと言うと、小さい村は自分たちで楽しくやっていかないと村そのものが消滅しかねないからです。

 だけど、大きな町になると誰かがやってくれるだろうということで、みんなほとんどサボっているんです。サボっている人がいっぱいいて、必要だったらお金を出すだけ。今は家でも、住む町、環境まで買える時代になっています。お金を出せば何でも揃うと思っている人が大半なんですけど、小さい村ではそうはいかない。お金を出しても誰も変えてくれない。だから自分でやるしかない。

 自分の町をこうしたいと思っている人、一緒に何か楽しみたいとお節介をする人がいれば、住んでいるところが良くなる可能性があるので、その仕組みをどう作るかをいろいろ考えて取り組んでいるんです。そういうふうに考えればいいのではないかと思います。先ほど「何もないところはどうしたらいいか」という質問がありましたが、イヤだと思う人はいなくなって、そこにいたいと思う人だけが何かを始めるしかないということですね。

 また、成功する要因として「後出しジャンケンをしない」という話がありましたね。

 最近の東北復興の話でもそうです。私も阪神淡路大震災の時は復興にいろいろ関わりましたが、結局はみんなで議論したことが行政の計画段階になると事業計画となって、消えてしまうということがありました。何々事業には何億、何々事業には何億と決められていくのですが、事業だけがあって、いろいろ議論して「こうしないといけない」とみんなで話し合って決めたことが消えていきました。そういう仕組みを「逆立ちしたまちづくり」と呼ぶのだそうですが、いっぱい議論したことが、みんなお金の話になってしまうのですね。そういう現実があります。

 これまではそんな仕組みでどんどん作ってきました。これまではその方が良かったのです。早く作れますから。だけど、これからはその逆をやらないといけない時代だと思います。しかし、行政の仕組みが以前のままなので、仕組みそのものも変えていかないといけないのです。

 行政がどういう仕組みで発注しているかという話題もありましたが、僕の見るところ大事な仕事の発注の仕方をお役人のほとんどが知らないように思います。そういうことだから、入札で安い価格を出したところが受注してしまう。大事な仕事を信じられないところが受注したりする。それでいい成果が得られない。こういう悪循環があります。真剣に町のことを考えているお役人がちゃんと発注すればいいんだけど、それができない人がたくさんいるのが現状です。だから、泉さんがやっているような仕事を通じて、どういう人にどう発注をしたらいいかを学んでいく必要があります。

 だから、両面から攻めていかないといけません。今は簡単に従来通りにやって、この事業だったら国が幾ら出して自治体は幾ら出してという計算ばっかりやっています。しかし、その逆から事業計画を考えていかないと、町にとって本当に必要なことが発注できません。すぐには変わらないでしょうけど、そういう方法を変えていく必要があるのです。ここにおられる人はそういう仕組みを変えようと思って取り組んでいる方々だと思いますが、やはりそういう発想が必要なんです。

 そのためには、専門の知識もちゃんと持っていないといけません。今日は専門的な仕事は減っていくという話しをされましたが、ちゃんと知っておかないと逆はできないのではないでしょうか。凝り固まっている仕組みを変えるためには、知らないといけないんです。何か言えば実現するというほど甘くはないです。相手を知らないと仕事にならないということは覚えておいてください。

 もうひとつ皆さんに参考までにお知らせしたいことがあります。制度についてです。日本のまちづくりに関する制度は、「公物」が基本になっています。公物とは公共のものという意味で、例えば道路、河川、公園ですね。こういう空間は、本来的機能と特別の機能の二つを備えています。道路だったら本来的機能は交通ですが、そこでオープンマーケットをするのは特別な機能です。

 行政はそこで二つの仕事をしています。道路や公園がちゃんと本来の機能を発揮できているかが一つ。もう一つは、そこがひどい使われ方をしないよう警察的に取り締まること。この二つが行政の仕事です。

 前者を「公物管理」後者を「公物警察」といいます。「公物管理」は道路や公園がより望ましい機能を発揮できるようにすることです。法律学者の中にも、この「望ましい機能」の概念をより広める必要があるということを言っている方がいます。例えば道路のより望ましい機能としては「交通」というよりは「アメニティ」と言うべきではないかといった考えです。

 しかし、行政は「交通」をしがみついているし、道路利用については「公物警察」を担う警察の方の意見が勝ってしまう現実があります。行政は今のままで十分と思っていますから、こちらから言っていかないとより良い方向には変わらないのです。私たちが「ああ、そういうものですか」と言ってしまうと、町は良くならないんですよ。

 法律の分野でもこういうことを変えていこうと考えている人が出てきたのですが、まちづくりに取り組んでいる人はちょっと法律に弱い面があるので、こういうことについてもよく勉強して頂きたいと思います。勉強ばっかりで仕事にはいつなるんだ!と思われたかもしれませんが、仕事をやりながら勉強するという姿勢で臨んで下さい。日々学習です。

 ともあれ、世の中の決まり事に満足してそこから脱皮できないでいるとまちづくりの仕事はできません。相手を知ったうえで、勇気を出して頑張れば相当面白いことができると思います。だから最初の就職はどこに行ったっていいじゃないですか。そこで全部自分のものにすればいいんですよ。それも多分闘う力になる可能性もあります。

 今日は、これからのまちづくりに向けて多面的に頑張って頂きたいということを最後に述べて終わりたいと思います。役所の考え方も変えて育てて欲しいし、住民と一緒に楽しんで頂きたいとも思います。ありがとうございました。

左三角前に 上三角目次へ


このページへのご意見はJUDI

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

JUDIホームページへ
学芸出版社ホームページへ