質疑応答
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ずいぶん完成度の高い作業をされていると、感心いたしました。
篠原さんは大阪という大都市でまちづくり活動をおやりになった経験があり、その後人口50万ぐらいの姫路に移って活動されています。また日本各地には、もっと小さな街でいろんなまちづくり活動をされている方々がいらっしゃいます。そういう都市の規模によって、活動の仕方、グループの作り方などに違いがあるんだろうかと思います。また、姫路という街は安富も含んで、地域全体の生活圏が広いところですよね。都市の規模と活動の関係についてのご意見をお聞きしたいと思います。
篠原:
都市の規模とまちづくりの関係ですが、姫路でも大阪でも私は都市全体を意識したことはあまりなく、自分でイメージできる小さいエリアを対象に活動してきました。都市の規模は違いますが、意識しているエリアの広さは同じぐらいではないかなと思います。ですから、都市の規模による差はあまり感じていません。でも、もっと人口の小さいところへ行くと、やり方も変わっていくんだろうと思います。しかし、それは都市の規模というより、その対象とする場所の色合い(あるいは機能と言いますか)によるんじゃないかと思います。ただ、今は大阪と同じようにその街の都心を活動エリアにしていますから、街による差はあまり感じません。
10年ほど活動していく中で分かったのですが、大阪の場合は、企業に勤めるワーカーがまちづくり活動の中心になっている所がいくつかあるんですね。鳴海先生がされている都市大阪創生研究会はその代表格かと思いますが、そういう活動をしているところが他にもいくつかあって、企業がそういう場所に自社の人を出すのことが次第に浸透していると感じています。
姫路はまだそういう所まで行ってなくて、長谷川さんのお話にありましたようにまちづくり活動はNPOやボランティアガイド、小さい企業を経営している人たちに支えられています。規模の大きな会社のサラリーマンは、あまり見かけません。その差は大阪と姫路の違いとして感じます。
姫路の都市の後背地については、米谷さんからお話ししてもらいます。
私たちは生まれた時から姫路に住んでいますので、正直都市の規模について意識したことはないのです。ただ、先ほど報告された時、姫路の農業生産があまりにも低いのでびっくりしたんです。実感としては、非常に農業都市という面も感じています。姫路市も市役所の部署名で産業局とか経済局とか言わずに農政経済局と名乗っているぐらいなので、食という面から見ても農家は自立して頑張っていると思います。そういう意味では都市の後背地を活かして、都心部と農村、山村をつなぐ活動は可能性があると思います。
また最近は、播磨平野は平坦なので自転車移動をもっと盛んにできないかとも考えています。先ほどのいろんな地域の魅力を訪ねるのに自転車を使おうという活動を最近始めています。
これはむしろ篠原さんの生き方の問題かもしれませんが、企業の人間がこういう形でまちづくりに関わっていることについてです。やがて、その街を去っていく時があると思うんですが、自分が関わっておられる活動を企業の人間としてどのように伝えていくことが可能なのか、そうことも教えてください。
篠原:
「やがてその街を去る時が来る」というのは、まさにその通りでして、私が変わると、後任が来ても同じ活動はできないので、活動への関わり方は全然変わってしまうのです。
ただ、まちづくり活動を停滞させてはいけないと思いますので、僕は自分がいなくなる時は自分の後任ではなく、姫路の人にバトンタッチ出来るよう意識しながら活動しているつもりです。形は変わっても活動は続くように考えています。
一般社団法人という形で活動されているというお話しでしたが、どうしてもお金の話が気になってまして、どういう財源があってどういう用途に使われるのでしょうか。いろいろ地域で傾向があると思うので、姫路ではどういう形かを伺いたいです。
米谷:
財源は、非常に意識しています。ただ、NPOのときは助成金を出して頂いていたのですが、一般社団法人になったので仕事の発注をしてもらいやすくなりました。24年度のサンクンガーデンの工事イメージアップ事業では、NPOでやっていたいろんな活動を見ていた飛島建設が「工事のイメージアップをやってみませんか」と声をかけてくれたんです。また、市からも法人ということで委託事業の受け皿として徐々に仕事は増えています。
NPO法人でやっていた時とは随分感覚が違うとは思っています。銀行へ行ってもNPO時代とは違ってすんなりと話を受けて貰えて、資金的な調達はしやすくなったと感じています。どれくらいの規模の事業を受託するかはこれからのことですが。
社会実験をされていたというお話しもありましたが、どういうことをされたのでしょうか。いくつか例を教えて頂けたらと思います。
米谷:
社会実験はずいぶんたくさんやっています。
ただ、社会実験とは言っても小さな試みということが多く、例えば工事の合間にできるいろんな空地を使った社会実験が多かったです。そういう所を使って、将来出来るサンクンガーデンにおける様々な可能性を探っていきました。
例えば、体の不自由な方の団体に来てもらって、車いすを使っての段差についての実験をしていただいたことがありました。それから「駅前で星空を見よう」という楽しい社会実験も2回ほど行いました。これは非常に人が集まる人気のイベントでした。2回目に行った時は少し飲食・販売なども行って、駅前で物販するとどうなるかということも試してみました。
また、子ども達の原体験として駅前を楽しんでもらおうということから(自分自身が子どもの時駅前の楽しい想い出がありますから)、駅前に段ボールで作った椅子を置いて「くつろぎカウンター広場」というイベントを行ったこともあります。旧駅前のタクシーホールは全部アスファルトを剥いで工事することになっていましたから、じゃあその前に盛大に落書きしようと、子ども達とみんなで好きなだけ落書きするイベントもありました。
次に新しい広場が出来た時も、子どもを連れて駅前に行ってくつろげるよう、楽しいイベントを社会実験を通して行いました。
一般社団はスタッフは何人ぐらいいらっしゃって、総事業規模はどのくらいなんでしょうか。
米谷:
昨年の10月に出来上がったばかりなので、専従スタッフはまだいません。スローソサエティ協会が委託を受けて事務を行なっています。
前田:
さきほどの収益活動の図によれば、平成24、25年度は250万ぐらいの収入がありますが、経費がかかる仕事もありますよね。そこで少し儲かったとしたら、それを何に使うのでしょうか。そこで得た収益をもとに社会実験の費用をまかなうという構図なんでしょうか。
米谷:
今後、サンクンガーデンのオープニングイベントの企画でオブジェを作る仕事とか、ファッションショー、椅子作りのワークショップなどをしたいと考えています。
今はまだ、市からお金を出してもらえるほどには認められていませんから、実績を作っていって「市民参加でこういうことができる」ということを周りに伝えるために自前でやっていこうと思っています。
そういうところに今度の収益を活かしたいと思っています。
今日紹介していただいたまちづくりの中で、やはり行政が大きな主人公の一人だろうと思います。今日のお話は民の方が多かったのですが、行政はどんな風に関わっているのだろうかと思います。「こんなに楽しく関わってますよ」ということがあれば、紹介して頂きたいと思います。
篠原:
姫路市役所には「姫路駅周辺整備室」という部署が駅前広場整備をはじめとする駅周辺のプロジェクトを担当しています。そこに在籍している一人の中堅行政マンが駅前広場の活用にも深く関わっておられ、役所と我われ民間サイドの活動をつなぐような役割を果たしてくれています。我々と同じスタンスで活動に参加してくれてまして、我々の考えを役所内部で説明し、行政としての意志決定ができるように努力し続けてくれています。この人の力でなんとかここまで来れたという風にも言えると感じています。
長谷川:
私がご紹介した観光コンベンションビューローのワーキンググループも、前回から姫路市の観光交流推進室の方が参加されるようになりました。また、納屋工房で行っている姫路円卓会議の方にも行政の方が関わっています。そこでは、肩書きをはずして個人として参加していらっしゃいます。
篠原:
多分若本さんのご質問は、もうちょっと仕事っぽく関わっているのかどうかを聞きたかったんだと思うんですが、これぐらいのことしかご説明できなくて…。駅前広場の活動であれば、駅前空間を所有して管理していくのは行政ですから、そこと我われ使用する側との調整が発生してくるのですが、その仕組み作りに苦労しているのが現状です。いろんな壁があって苦労している面がありますし、そこをその行政マンがなんとかつないでくれてうまく回るようにしてくれている面があります。そういう人がこういう活動には必要なのだと感じています。
今日の活動報告を面白く聞かせて頂きました。ただ「よってくだん」の活動は、観光集客数に影響するほどの規模は無さそうだと思いますが、いかがでしょうか。
観光コンベンションビューローは観光集客を期待されていると思いますが、みなさんの活動を姫路の観光業界はどんな風に見ているのでしょうか。みなさんは、既成の観光とは違う方向を目指されているのでしょうか。
長谷川:
「よってくだん」自体は、団体でなく観光客が一人で来ても歩けるように考えて作りました。旅行会社の方には、商品化するにはまだまだ難しいと言われます。ワーキンググループが商品化チームと魅力発掘チームに分かれた時、魅力発掘で見つけたものを商品化チームの人に見てもらうと「う〜ん」と芳しくない反応が返ってきましたし。まだまだ、旅行商品化するには遠いかなと思っています。
しかし、今はいろいろなテーマを作っていまして、その中から少しずつ出てくることを期待しています。今のところ、たくさんのお客さんに来てもらうことを期待しているわけではなくて、姫路の魅力をとにかくたくさん増やしていきたいと思っているところです。たくさんあるのですが、それをどう絡めて1つのテーマにまとめていくかを中心に考えています。
篠原:
一緒にコンベンションのワーキングで活動している中にはJTB姫路支店長さんもいらっしゃるんですけど、その人によるとやはりまだ「よってくだん」は観光集客にはつながりませんねということでした。我われもそれはそう感じています。
ただ私は、街の魅力を高めていくことがベースとして大事だろうと思っています。
まずは、最初の段階で、姫路の魅力はお城だけじゃなくいろいろあるんだということを発信していかないことには、次のステップにはつながらないだろうと思っています。
それと、我われ魅力発掘・発信をするメンバーが、我われの活動が観光集客になるのかを考えるのはあまりよくないと思うんですよ。観光集客ばかり考えると、本当に埋もれた魅力を発掘するよりも、これは人に受けるかどうか、目立つかどうかに目が行ってしまう。そこは分けてやる方がいいんじゃないかと思います。
その点、長谷川さんのお話のとおり、チームを魅力発掘と商品開発に分けたのは良いことだったと思います。我われが街の魅力を発掘してくるから、それをうまいこと活用してよというのが、僕らが別のグループに要求することかなと思います。そんな気持ちでやっています。
今日はどうもありがとうございました。なかなか面白い話を聞かせて頂きました。
50万という人口を抱える都市でこういうまちづくりが進められたことは、非常に興味深いことです。
広島市は、100万を超える人口を持っており、ここでは、オープンカフェ運動が起きました。水辺の話からオープンカフェをやろうということからいろんなネットワークが生まれ、そこからまちづくりへと発展していった経緯があります。それぞれの都市でいろんな動きが出てくるきっかけが異なるのが面白いと思います。
今日は3人のお話を聞いてそれぞれの役割が頭に残っていますが、やはり駅前広場という公共的な場所についてみんなで話し合うことが出来たという、「場」が作った影響が相当に大きいなということを感じました。関わったたくさんの人の役割がとてもよく分かりました。
もう1つは、いろんな人が集まる人の「場」、ここでは納屋工房さんの役割が非常に大きいということも面白いことでした。
三つ目に感じたことは、篠原さんが姫路に赴任して来て、姫路の企業の偉いさんとしてではなく、いつ戻るかもしれない立場の人が果たした役割もとても大きいんじゃないかと思いました。以前、JUDIのセミナーで、プラスアーツの永田さんが「風の人の役割」について話をしましたが、篠原さんはまさに風の人になっていると思いました。
ちなみに、「風の人」の他には、「土の人」「水の人」がいます。いろいろな人の役割があって初めて街は活性化するということから考え出された言葉ですが、今日のテーマである姫路のまちづくりが進んだことには、篠原さんが転勤するかもしれないということも影響しているんじゃないかなと思いながら聞いていました。
私はお話を聞きながら、みなさんがこういう活動の中で技を磨いているという感じがしました。スキルアップしているから、時間が経つに連れ上手になる。上手になればなるほど、まちづくりを楽しめるようになれるんですね。今日のお話を聞いても、みなさんが楽しんでやっていらっしゃると思いました。まちづくりも楽しんでやれるようになるまで頑張れば、こういう活動は成功すると思います。
それからもう1つ、みなさんはイベントをやっているだけでなく、印刷物なども作っています。残るものを作ると達成感がありますから、繰り返していくと、新しい人も入ってくるのだと思います。これをやってこうなる、活動の達成感をどうやって作っていくかもまちづくり活動の大事な要素ではないかなと考えました。
今日は姫路の中心部の話でしたが、他にもいろんな活動があると思います。地域的にみれば農業や漁業の分野でも、面白い活動があるのではないかとも思ったのですが、これからも姫路と生産地との交流とかいろんなやり方があるんじゃないかとも思います。いろんな街でいろんなやり方で動いていっていただきたいと思います。最近、姫路市の家島が脚光を浴びているようで、JRの電車のなかでもポスターを見かけました。姫路にはたくさんの一次産業の拠点もありますし、そういう意味では姫路の魅力は周辺地域との関わりも見ていくと、姫路のまちづくりスケールも変わっていくんじゃないかと感じました。
最後に、今日のお三方の発表に感謝して拍手で終わりたいと思います。どうもありがとうございました。