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岡山県中庄団地

 ここまでは、 私の空間の作り方の原理というような部分についてお話ししました。

次に具体的に、 岡山県営中庄団地で、 私が関わって計画を進めているプロジェクトの内容についてお話しします。

   

 このプロジェクトには、 先行しているプロジェクトが2つあります。

1つは中央の上のゾーン、 もう1つは今もう竣工して近々たぶんパブリッシュされると思いますが、 中央の下の集合住宅です。

   

 実は中央の上の集合住宅は空間工房の丹田さんがおやりになって、 その後第2期はアルテックの阿部さんがおやりになり、 私自身は次に中央の一番下のゾーンを計画しています。

   

 ここには計画地の周辺に、 いろいろな住宅があります。

右の上のゾーンには、 この周辺の水田を耕作しておられたお百姓さんが住んでいます。

中央の一番上のゾーンに、 赤い屋根がずらっとある簡易耐火構造の公営住宅があります。

阿部さんのゾーンの横のあたりに、 ぽつぽつと同じような建物が見えていますが、 たぶん30年代の半ば以降ぐらいに作られた県営住宅。

すぐ側に板状の県営住宅があります。

右の下のあたりは戸建ての民間のスポット開発による戸建て住宅。

こちらには、 ミニ開発がどんどん押し寄せてきている。

全部住宅なのですが、 その住宅が各々様相が全く違う。

あとで、 図面の上でも説明しますが、 ここに団地内道路がまっすぐに走っていました。

   

 ところが、 この道路がまっすぐであるということで、 道路の西と東が全く割れてしまっていました。

我々1期から3期まで一緒に計画したわけですが、 その時議論してる中で、 丹田さんにこの区画街路をこの古い住棟の中に通すようになんとができませんか、 ということを申しあげたり、 いろいろな議論をしていく中で、 そうしようという意見になりまして、 ずいぶんがんばっていただきまして、 当初予算にはいっていない道路をここに作りました。

   

 わずかこれだけのことなのですが、 古い住棟の中に道路を作ることによって、 新しく作られた住宅と古い住宅が1つのクラスターを形成しているような雰囲気になります。

道路が真ん中にあることによって、 こちらに取り込まれたこの関係素がこちらに関係を持って、 つながっていくのです。

   

 丹田さんは外をすごく読みながら、 計画されました。

要は、 敷地の周辺にある活用できる要素は全部取り込んでいったと言っても言い過ぎではないくらい取り込んでおられるわけです。

そのことが、 このまちを結果的に周辺の街とつないでいる。

敷地から右と左は関係ないから全然知りませんというような計画をすると、 完全に乖離現象がおきてきてどうしようもない街が生まれてきます。

   

画像ep66 画像ep67 画像ep68 

 写真66は、 すぐ東側にある畑で、 例えば、 ジャガイモかなにかでしょうか、 グリンピースだとか、 タマネギだとか、 いろいろなものが植えてあります。

   

 その集落の中を歩きますと、 写真67のような住宅がたくさんあります。

   

 写真68この集落の中から見た、 1期の住宅です。

   

 この集落の中からだらだらと下っていきますと、 正面は戦後すぐにたてられた公営住宅とその後に新しく建てられた住宅、 それが連続一体的なスケール感を持っています。

この集落の道路がプアな感じに見えて、 向こうがすばらしいという、 そんな関係では絶対いけないわけです。

空間が、 この道路一本によって、 いい関係になりました。

この古い住宅も中に取り込まれたことによって、 取り壊ししようといわれていたものが、 内部をリニューアルしてもう一度使っていくことになったほどです。

30年代後半のこの形式がこの時代を表現しているわけです。

   

 その新しい住宅の空間が、 古い住宅の空間を価値化している、 里山もそうならば、 住宅自身も価値化して、 新旧がみごとにここで調和した関係が生まれています。

   

画像ep69  意図的に計画されたかどうか知りませんけども、 ちゃんと古い住棟を生け捕りにしてあります(写真69)。

   

 住宅自身は決して威張ったものを作るというわけではなく、 どこからか煉瓦を持ってきたり、 土のまま残されていることろに、 なにか花もあればいろいろなものが植えられています。

悪くいえば雑然としているという言い方があるかもしれませんが、 先ほどのミルトンケインズのゴロゴロ石のある中に花が咲いてた、 あういう風景を彷彿させるシーンが作られています。

   

画像ep70 画像ep71  公営住宅は本来、 土地を自分で専用してはいけない、 活用してはいけないということになっていますが、 ちゃんと手動の芝刈り機で芝を刈って、 自分で柵を勝手に作っています(写真70)。

   

 写真71のように、 枕木を少し目隠し代わりに使われますと、 くぎが打てますからそこに草花をぶら下げる。

   

 こういう庭に、 石をゴロゴロおいておきますと気安くそこに手を加えて、 洗濯物が美しいなあという感じがします。

   

 反対側には道路があるのですが、 道路に面したところでは、 だれも花も木も植えておりません。

中庭に面したところでは、 みんなに見てもらえる、 自分のかけたエネルギーが評価されることを楽しんでいる、 という雰囲気を感じます。

   

 写真71の左の方の少しカーブした屋根を持っている住棟は、 丹田さんが設計された建物で、 その向こうに三角屋根のクラスターが見えてきてますが、 これは阿部さんが計画されました。

こういう空間は、 例えば印刷物で見てもなかなかヒューマンな感じが理解できません。

ところが、 現場の中を歩いてみますと心地よく響いてくるわけです。

   

 私は日頃から「多様さは快だ」という言い方をするんですが、 いろいろな要素がごちゃ混ぜになっています。

悪くいえば雑然としているんです。

ところが、 いろいろな要素が重なっていくことによって、 どんどん空間が多様になっていきます。

あとで配置図をお見せしますが、 10mメッシュできっちり基盤目状に敷地が割られている関係から、 非常に固いどうしようもない空間かなというふうに思われた方がずいぶんたくさんおられたのですが、 実際現場を歩いてみて全然違うといわれるわけです。

   

画像ep72  写真72が、 ちょうど2期の側から1期を見た所です。

このなだらかな山の稜線に見事に重なるようにスカイラインを、 たぶん丹田さんは私にそのことをいったことはないんで分かりませんが、 そういうふうに考えて計画されたんでしょう。

その隣りに、 いわゆる倉敷の町並みのようなたたずまいを持ったゾーンが次につながっていきます。

   

 先ほどの、 庭空間と違って消防自動車が走るところなので、 道だというイメージで作っておられます。

非難するということでは全くなく、 私自身この扱い方は少しきつかったかなという感じを持っています。

消防自動車は庭の中を例えば10年に1回走るのか20年に1回走るのか、 全く走らないのかという程度のものです。

あまりたいそうに考える必要はないと思います。

丹田さんの先ほどの空間のように、 庭の中を消防自動車が走ってください、 走れるようには作っていますよ、 むしろそういう形の方がいいのではないか。

これを道だと意識したとたんに塀がでてきて、 土塁がでてきて、 中と外がセパレートされてきて、 かたい関係になる。

そのあたりが生活を読んでいくというところで難しいところだろうと思います。

   

画像ep73 画像ep74  写真73が、 3階のペデストリアンデッキのところです。

右左に対になった住宅が同じように繰り返されていくという風景が展開されています。

   

 写真74はちょうど一番端のところなのですが、 たまたま2人の方が立ち話をされています。

ご老人と言っては失礼ですが、 元気そうな60歳代の方でしたが、 2人がお話しされているシーンがたまたま撮影できたんです。

先ほどの、 集落の路地空間の持っているスケール感と非常によく似ています。

3階にありますが、 こういう空間が作られています。

   

画像ep75  写真75は、 私がこれから関わっていく3期の部分です。

   

 先ほど航空写真で見ていただきましたように、 このおうど色に塗られた農村集落と、 それから少し赤みがさした戸建て住宅のゾーンと、 屋根の青い簡平(簡易耐火構造平屋建)の住宅が少し残っている部分と、 実は、 これは県営住宅なのですが、 県営住宅でも簡平とポイント型と板状とあって、 この隣りに今度はまた板状の市営住宅、 民間の社宅がある。

ミニ開発がある。

同じ住宅という言葉でくくられてましても、 各々が全部自己完結している。

かっこよくいえばそういうことなのですが、 バラバラである。

関係性がほとんどない。

こういう形になっているわけです。

   

画像ep76  そういう空間を、 道路のパターン図で読んでみますと写真76のような感じになっています。

先ほどの丹田さんの計画されたところは、 メッシュに割られた中にぽつぽつと住宅が入っています。

ところが、 人間の目というのは、 一度に全部をぱっと認識できない場合には、 やはり目の前にあるものによって左右されます。

だから、 塀があったり、 少し石垣が積んであったり、 ひさしがでていたり、 物置があったり、 その軸が少し偏るだけで完全に碁盤目のイメージは消えていきます。

各々の集落と言いますかクラスターの性質が異なる毎に全部道路のパターンが変わってくるということになっているわけです。

   

 3期を計画するにあたり、 なにを提案をしているかと言いますと、 1、 2、 3期についてはある程度計画の合意がなされていて、 4期についても実は納賀さんがおやりになるんですが、 納賀さんも1、 2、 3、 4期について一緒に議論に参加されていましたので、 たぶんこの4者については共通のイメージを持っているだろうと思います。

   

 写真76をもう一度見ていただきたいのですが、 右の上の方にあるのが倉敷市営住宅です。

CTO(Cerative Town Okayama)は公共建築で都市環境を整備していこうという、 アートポリス熊本の岡山版という感じなのです。

この市営住宅も中庄団地と同様に、 CTOプロジェクトとして位置づけられ、 ここも既に4名の建築家が決まってもうすぐ計画がスタートします。

   

 例えば、 左の方の農村集落の中の一番心地よさそうな道路をずっとたどっていくと、 ちょうど1期から4期の北に幼稚園があるんですが、 その横にでてきます。

その道をずっと1期から4期につなぐルートと市営住宅の方向に分かれています。

それから板状の住宅もその道につないでいこう、 それから、 もちろん1期、 2期、 3期のルートはずっとつないでいこう。

それから、 先ほどクランクしてここまで進んできている団地内道路は、 実はまっすぐ伸びていたのですが、 これをY型に割ってカーブさせよう。

もちろん、 戸建て住宅の道路から出たところが、 倉敷市営住宅の中の道路につながっていくような、 そういう関係になればいいなと思っています。

   

 そして、 この戸建て住宅と市営住宅、 県営の4期、 3期を全部つないでいくような、 関係性を図ってネットワーク化するような、 そういう道路の構成にしよう。

決して、 碁盤目に割ろうと思ってるわけではない。

六軒川を改修をして、 水辺をみんなが楽しめるようにしようという計画がありますが、 それにも開いていこう。

もちろんその南の戸建て住宅にも開いていく、 4期にも開いていく、 2期との関係もつないでいく、 というようなことを考えたわけです。

   

画像ep78  写真78は西側から見た立面なのですが、 コミッショナーの岡田新一さんとの話し合いで、 この東の里山と、 それから1期のエレベータタワー、 右の方に少し高い部分があるんですが、 そういうものを受けてこの平場に少し高い建物を建てようということを決めました。

   

画像ep79  図に点線で示していますのは、 最初にみんなで決めていたことですが、 1期の3階のレベルでペデストリアンデッキがありまして、 それを2期の阿部さんのペデストリアンデッキとつないで、 さらに今度は3期につないでいく。

そのうえ3期も先ほどの計画段階では1本のルートになっていたんですが、 ぐるっと回遊させよう、 そして4期に渡していこう。

2期では一番南にペデストリアンデッキの末端があったんですが、 4期に対してここに道路を作ってください、 ここにペデストリアンデッキの端が来ますよと、 条件づけしてしまっています。

ですから、 そういう意味では4期は制約されるといえばいえるし、 自由にできないといえば自由にできないかもわかりませんが、 これが1期から4期までの関係素になっている、 ということになるんだろうと思います(写真79)。

   

 そういう全体の構造の中で、 3期はなにをしなければならないのかということが見えてくるわけです。

例えば、 2期と3期の正対する街角の少し緑の多いゾーンでは、 東側に駐車場を作ります。

あとからでてきますが、 この駐車場というのは、 2期と1期の関係からここでなくてはいかんというルールが最初に決めてあるんです。

今度は、 南側にも駐車場のスペースを作ることによって4期にもつながっていく、 4期も制約してしまっているんです。

   

 両備バスが経営していたミニスーパーがあるんですが、 それの南側にもオープンスペースを作り、 駐車場を作ります。

それから先ほどの2期から流れてきた、 人の流れを受けて4期へ流していくルートを用意して、 高い建物は中央の位置に配置されています。

   

 1期2期が非常に細分化された空間なので、 3期では少し大きな広場を用意します。

1期から4期までのプロジェクトの住戸数が80戸、 80戸、 130戸、 80戸と3期は一番密度が高いので、 高層化しながら少し大きなオープンスペースを計画しています。

例えば、 南側に対しては空間を連続させるためにピロティにします。

北から下がってきた道路が右と左に分かれていく部分も、 ピロティの下を道路が通過していくようにします。

右と左のところもピロティにします。

六軒川に向かってもピロティにします。

北側の駐車場に向かってもピロティにします。

徹底的にピロティでもって空間をつないでいこうということです。

   

 そして、 この領域を一見閉じたように見えながら外に開いていく。

したがって、 完全な囲みではなく、 東側の集落とのオープンな関係を意図した計画ではないかと思います。

   

 こういう周辺のいい環境を見事に1期では取り込んでいっています。

計画地の西側にバイパスが計画されているので、 音止めの壁を作ろうという話もあって、 少し高い建物をリニアーに西に並べて、 東側に開いていこうということをやっているわけです。

   

画像ep80  先ほども熊本の計画でお見せしたんですが、 廊下部分で光の当たっているところ、 影のところを少し色で塗り分けをしてみました(写真80)。

ちょうど、 真ん中の部分がオープンスペースです。

   

 2階は、 1階から2階に上がる独自の階段を持った住戸が大部分です。

部分的に自転車置き場の上をつないで、 階段で上って3、 4戸が連結した廊下によってサービスされます。

ですが、 おおむね2階は2階と1階のルートだけで完結しています。

   

 いわゆる直通階段は、 11階まで上る直通階段が1本あるだけで、 それ以外では建築基準法的には非常にあやしげな直通階段しかありません。

   

 3階のレベルで、 この北側を通って、 東、 東北、 西、 南、 それから西、 ブリッジでは南、 南、 というふうに、 ぐるっとペデストリアンデッキを回遊させてます。

そして南側アクセスの住宅については、 高齢者の住宅を用意します。

これは主採光面側に面して住宅が開いています。

その住宅はおおむね高齢者の住宅にしたい、 そのあたりに2DK等のタイプのものを配置しています。

   

 3階でつないで、 そのペデストリアンデッキのルートから1階階段を上ってくる。

当然エレベータは2機ありますから、 エレベータでアクセスすることも可能です。

この住宅の場合は下から上ってアクセスする。

しかし上の階には上ってこれるけども、 横からは渡ってこれない、 というように、 1戸1戸の住宅のアプローチがバラバラになっている、 そういう計画です。

   

 それが例えば、 5階のルートになりますと住宅が2つあって、 そのあいだをすり抜けるような、 いわゆる路地的な空間を用意します。

立体街路を構成しているわけですが、 この路地に面した住宅も高齢者向けの住宅にしようとしています。

   

画像ep81  写真81は屋根伏せを見た所ですが、 中庭の部分に芝生の広場を作って、 先ほどのルートが抜けていきます。

屋根の形は集落の持っている配置形態に近いものになっています。

全体配置は集落の形を真似しているというわけではなくて、 色々な必然性を読みながら、 各々の場所の特性を読みながら配置した結果、 こういう配置になりました。

だから、 いわゆる幾何学的な手法の配置とは全く異なってきます。

   

 ですから、 いわゆる画一的な空間の形式というものが全く見えなくなっています。

   

画像ep82 画像ep83  写真82が中庭の空間です。

ここにオブジェが置いてあります。

先ほどの3階のレベルに1つのメインストリートがあって、 その上下に住宅が配置されてます。

   

 写真83は、 模型をちょうど4期側から見た所なのですが、 ある人がこの模型を見て、 「森のような感じがしますね」と言われたのです。

非常にうれしかったんですが、 それはなぜかと言いますと、 例えば駐車場の中に車のピッチに合わせて並べてる緑があり、 あんまり自然な感じではないんですが、 でも、 何となくこういう、 まあこれは模型ですから自然とはいえないんですが、 こういう緑の持っている雰囲気と一体的な雰囲気ができればいいなあと思っていたのです。

そういうことについては、 かなりうまく調和する関係になったんではないかなと思ってます。

   

 こういうふうに、 集合住宅の計画が一見してそれと分かる幾何学的な秩序感から、 表面的には見えない秩序感に変わっている。

それは地域との関係だとか、 場所との関係だとか、 気候だとか、 風土だとかが関わってくるわけですが、 そういうものとの応答関係の中から生まれる地域全体を調和させる秩序であり、 単体の建築だけで自己完結する秩序よりは高次のものだと考えています。

だからだんだん説明がしづらくなるという感じではあるんですが、 先ほどの熊本の農業公園の中で見ていただいたトンネルと、 自由に作った洞穴のような空間と、 2つを比較して申し上げたように、 自然の秩序による自由な手法の方がやっぱりいいなと考えています。

そういうベクトルの中にある計画だということがいえると思います。

   

 この方向に踏み出す時に、 ずいぶん迷って本当にいいのかな、 大丈夫かな、 もう後戻りはできないしなあというようなことを自問自答しながら、 でも、 まあここまで来たら行くしかないかということで、 ボンとこちらへ飛んでしまったわけです。

全てのプロジェクトがこのような形態になるとも思いませんが、 でも、 基本的な考え方だけは、 こういう考え方、 価値観に基づいて計画を進めていきたいと思ってます。

これはなにも集合住宅だけの話ではなくて一般の建築においても、 同じような考え方で作っていこうと考えています。

   

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