そしてそのエコシステムというものが自然界に存在しているという事を最初に言ったのは、 ヘッケルという人でして、 たかだか20世紀初めのことです。
それほど自然界に対する認識は深くないわけです。
そのヘッケルという人が生態系を発見したということは、 ヨーロッパ社会に対して極めて衝撃的な事でした。
この生態系というのは、 食物連鎖のピラミッド構造になっているというふうに我々は教えられたわけですが、 それは、 上位にいくほど大型の生物で、 下にいくほど小さくなっています。
しかし、 それを人々は錯覚して、 上にいくほど猿とか霊長類など人間に近い偉い動物になっていると信じられたのです。
特にキリスト教社会では、 アダムとイブは神から遣わされたもので、 人類の進化の過程で生まれてきたのではないと現在まで信じられてきたのです。
生態系ピラミッドの上にいくほど偉い、 下にいくほど下等生物だというふうに言われてきた、 そういった自然界の秩序を根底からひっくり返したのが、 ヘッケルの生態系の考えだったのです。
生態系の構造は上のものが下のものを食べて消費者になるということですけれども、 ここで着目すべきことは、 最もピラミッドの根底をつくるのは無機物から有機物を最初に作り出す植物ということなんです。
だから植物がなければ絶対に上は存在しないわけです。
さらに、 その植物を分解する微生物とか、 そういったものがなければどんなに頑張ったってピラミッドそのものが成り立たないと同時に、 人間そのものも存在しません。
木が生育して、 土の上に落ち葉が落ちるのですが、 これを微生物が分解してくれないと土に還元されません。
だから土のなかに微生物がいるということが絶対的に必要なのです。
そういうものがいなければ植物も、 それを食物として生育する昆虫なんかもいないということなのです。
そういうシステムを見つけ出したのがヘッケルという生態学者です。
つまり人間が一番偉いという論理を、 ヘッケルという生物学者は根底から否定したのです。
エコシステムというのは人間が秩序を作り出していく、 あるいは霊長類が作り出していくといったことではなくて、 むしろ上がいなくてもこれさえあれば生態系は存在していくという事なのです。
だから上がなくても下は存在します。
しかし下がなければ上は存在しません。
これがヘッケルの生態系の考えです。
これはキリスト教の世界での、 人間がすべてを司っているという考えを真っ向から否定しました。
一つのコスモロジーが限界に来たことを生態系の論理は表わしているのです。
ちょっと難しい話になりました。