左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ

自然の装置化と鎮守の森

 私は『都市は野生でよみがえる』という本の中で、 特に自然に対してどのようなデザインとか、 ランドスケープとかで対応して行ったらいいのかという事に触れているのですが、 ここで自然の見方というものを変えてみてはどうかと思うのです。

それは自然というものを「装置」として見るということです。

これはまた非常に逆説的なのですが、 自然というものを装置化して考えてみようということです。

つまり自然を利用する時には全て装置として利用するわけです。

花壇もそうだし、 植栽もそうだし、 公園もそうだし、 この万博記念公園にしてもそうだし、 自然というものは装置化してはじめて人間が活用できるというふうに考えるのです。

それを良い方向で、 つまり生物共生の論理で解くか、 これまでのように一方的に人間が利用するだけの論理で解くかの違いだけで、 装置化することは別に悪い事ではないのです。

装置化することによって自然と共生する仕方はないのだろうかということです。

そうやってまず置いてみたらどうだろうかと。

つまり地球全体としての自然を取り上げるのではなくて、 人間にとって身近な存在、 盆栽とか、 公園とか、 路地裏の植木とか、 屋上庭園とかそういった部分を生態系のシステムの中で装置化という概念で捉えて、 それを自然に近づけていくという指標はないだろうかと考えています。

   

 最近それがビオトープとか、 つまり生物のトポロジーという概念として言われているわけなんですが、 おそらくその装置化という概念を考えてみて、 そこに巨大な自然と、 わりと小さな装置化された自然と、 連携するようなネットワーク構造が出来ないだろうかと。

もちろんそれはビオトープのシステムじゃないかと思うわけです。

したがって、 その装置化という概念を入れていきますと、 様々なことが何となく理解できるようになってきたと思っていまして、 そこで目をつけたのが「鎮守の森」です。

   

 「鎮守の森」というのは、 装置化の中でも信仰とか、 都市集落の形成、 あるいは都市の禁忌、 禁伐とか、 鎮守の森の木は切ってはならないという意識の下に、 つまりそういう文化があるという根本的な前提条件の中で残って来たのです。

したがって「鎮守の森」というのは装置化された野生ではないかと思うわけです。

そしてその森の中に建築が存在しているのです。

我々は森を切って、 その森よりも背の高い建築をつくってきたわけですが、 古代からの文化において森の中に建築をつくり、 参道をつくり、 そこに神楽とか御輿とか聖域をつくり、 そしてその森を聖なるものとして見てきました。

そのような装置化された野生というのが、 現在ヨーロッパから来た公園という概念のなかに全然存在して来なかったのです。

   

 もちろん、 イギリスにおいてコモンとか、 そういう共通の庭には素晴しい野生的な自然がありますし、 ヨーロッパには日本の都市公園に比べてはるかに豊かな自然があります。

しかし日本に輸入された都市公園の体系というものは、 自然を余り取り入れないで、 野球場とかテニスコートとか、 そういうスペースを主体的につくっていったのです。

あまり生物的な要素、 生態系の要素を入れないでつくってきたのではないかと思います。

それはおそらく、 「鎮守の森」におけるオープンスペースが近代の生活にあまり合わなくて、 公園というものは利用されないといけないという事になり、 テニスコートのような動ける場所として計画されて、 生態系の要素はあまり考慮されなかったのです。

   

 つまり野生と共生するために自然を装置化した上で、 その中に野生の論理を入れるという格好の例として「鎮守の森」があるのではないかと思うのです。

   

第三の自然

 そこで「新たなオープンスペースと生物共生」という事ですが、 “TERTIARY NATURE”、 つまり「第3の自然」の概念と野生とをうまく合わせることが出来ないかと考えています。

「第3の自然」とは人間が勝手に地球でつくった人工環境、 あるいは「人間生態系」というものに沿った形での生態系と言えます。

人間が自然を利用するといった視点からつくられた自然を「第2の自然」とするならば、 人間の生態系の中に自然の生態系を入れて、 そこに循環型のシステムをつくっていくこと、 それで出来たものを「第3の自然」と呼ぶことは出来ないだろうかというわけです。

しかしこれは非常に難しくて、 理論的にどこまでいけるか分かりません。

   

左三角前に 上三角目次へ 三角印次へ


このページへのご意見は前田裕資

(C) by 都市環境デザイン会議関西ブロック JUDI Kansai

JUDIホームページへ

学芸出版社ホームページへ