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木賃空間のどこが悪いのか

土田旭

 今から100年経つと井口さんの竹中工務店とか日建設計の建物が20世紀末の主たる文明あるいは文化というのか、 一つの建築スタイルを獲得しているという点では、 多分そうなんだろうと思います。

それが後期資本主義社会の建築の代表例として残るかもしれないのですが、 それがおもしろいのかおもしろくないのかは別だと思います。

   

 例えば、 パリの今の街並みを作っているものは、 かなりの部分がオスマン以降です。

パリは非常に様式が重層化している都市ですが、 パリの骨格を作っている宮廷様式のロの字の住宅が一番おもしろくないわけです。

その中にアールヌーボーだとかがポチポチとはまっているというようなことです。

   

 たぶんイギリスでも、 ウィーンあたりでもそうだと思うのです。

   

 19世紀の末の方が人間がもっとビビッドで個人の精神が発露されていたような感じがして、 その結果が街の中に残っているという感じはするのですが、 ただそれも言ってしまえば原広司のあの建物が時代が経つと芸術に見えたりするということでしょう。

   

 それとは別に、 関西でもあると思いますが、 東京では木賃アパートの密集地区をどうすればいいのかという話がだいぶ前からあります。

私は、 あれは合理的に論理的にやっていくと、 リハビリテーションというか、 改善型で解いていくことは無理であると思っています。

   

 しかし、 ここで夢をみるとすると、 魔法かなにかで息を吹きかけたら木賃アパートが全部コンクリートになって、 すごくいい空間ができるんじゃないか。

イタリアのどこかのビレッジに入り込んだのではないかと思うんです。

コンクリートになってしまえば、 燃えることが最大の問題だった木賃アパートでも不都合は大してないわけです。

   

 少し1戸1戸の間取りが小さいのは壁をぶち抜けばいいわけですから、 結構快適に住めそうな空間が実はあるのです。

   

 いつぞやパリに行って来たときに、 パリのニュータウンで近代のセオリー通りに平行配置で住宅を並べたけれども不人気であまり入らなかったと聞きました。

要するにライフスタイルに合わないというわけです。

ニュータウンでも今は囲み型が取られているようです。

   

 ところで昔からの囲み型のロの字の街並みで今どういうことが行われているのかというと、 中庭をどう使い込んでいくかということで、 色々な工夫がされているようです。

かつてののんびりした中庭にはガラス屋根を作ってアトリウムにし、 高級ホテルにリノベーションしている例もありますし、 中庭から中庭へと渡っていける新しい形のパッサージュを入れて、 今まで完全にクローズしていた中庭を、 セミオープンな形にしていくということがトライされています。

   

 つまり沿道型というか囲み型の中庭を現代風にどう再生して街の財産にしていくのかということが、 いくつものところで試みられていると聞きました。

ストックを大事にするということがなければ、 そのような発想も出てこないのかなという気がします。

   

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