アフリカ・マリの住まい by ウスビ・サコ、吉田哲、設楽亮一
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伝統型住居から都市住宅への移行

ウスビ・サコ

バマコの住宅の4つの形態

画像ma15    京都大学のサコです。

バマコの住宅は4つの形態に分けることができます(図15)。

 

   4つのタイプを大きく分けると、 2つの流れがあります。

1つは農村住宅の影響を受けて都市住宅への発達してきたもの(4つのうちの3タイプ、 「基本型住宅」「ベランダ付き住宅」「テラス付き住宅」と名前を付けています)と、 西洋・コロニアルスタイルの影響を受けて発展してきたもの(1タイプ、 「ビラ」)があります。

どの住宅タイプでも、 世界文化遺産ともなっているジェネという町で生まれたスダニックス建築タイルの影響を受けています。

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   農村住宅の事例を図16で簡単に説明します。

バンバラ族の住宅、 フラニ族の住宅とドゴン族の住居です。

どの住宅形態でも塀に囲まれて、 中庭を住宅の中心としている。

その中で生活し、 また居住者のニーズによって寝室を増やしていく。

農村住宅の特徴は、 必ずしも幾何学的な形に沿ってはつくられていないということです。

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   それに対してスダニック建築は都市型住宅の原点ではないかと考えられるものです。

図17a図17bのようなファサードを持っていて、 入り口から玄関、 そして中庭、 それからベランダといった構成の住宅であります。

ここで見られる特徴は都市住宅に見られる特徴です。

 

   各住宅タイプの空間構成を説明します。

 

   以上の3のタイプの動線としては入り口から中庭、 各中間領域を通して寝室への直線になっています。

 

「基本型住宅」

   これから各タイプの特徴と空間利用をスライドで説明します。

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   寝室が奥へリニアに並べられており、 中庭が生活の中心になっています(図18)。

 

   これでも分かりますように、 生活領域が中庭全体に散らばっています。

寝室と中庭が直面しています。

このような住宅タイプで個人が自分のテリトリーを主張するために、 石や、 様々な方法で空間をつくっています。

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   部屋が暗いのが特徴です。

マリは暑い国で、 住宅の材料はだいたい土です。

従って、 部屋が暗くなればなるほど快適で、 窓もこのよう小さくなっています(図19)。

 

「ベランダ付き住宅」

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   ベランダは居住者がある程度自分の空間と認識できる寝室の前の空間です。

このような住宅でも過密居住をしています(図20図21)。

 

   次の図22はベランダの様子です。

「基本型住宅」の中庭で見られたような道具がベランダに見られます。

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   例えば図23はゴザです。

ベランダで昼寝したり、 夜でも寝たりするためにおいてあります。

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   図24はかまどで、 ベランダで料理も作ったりしています。

中庭で行われていた日常生活行為の一部がベランダに移ったように思われます。

 

「テラス付き住宅」

画像ma25 画像ma26    ベランダの前に低い壁で囲まれた比較的オープンで、 セミパブリック空間としてのテラスがあります(図25)。

 

   ベランダ、 テラスは図26のような感じになっております。

 

「ビラタイプ」

画像ma27    次はスダニック建築スタイルとコロニアルスタイルからなる住宅です。

図27が「ビラタイプ」にあるテラスです。

 

   ビラタイプの材料はコンクリートになっています。

比較的西洋的な要素が入っています。

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   寝室にはゴザの替わりにベッドが入ってきます(図28)。

 

   サロンがあったとしてもお金持ちのステータスシンボルとして『こういうサロンを持っております』形でしか存在していません。

日常的には使われていません(図29)。

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   ビラタイプでもほとんどの生活は外部空間としての中庭の方で行われています(図30)。

 

中庭の意味と構成要素

   4つの住宅タイプの共通の特徴は中庭があることです。

研究調査の経過は吉田の説明にもあったように、 1年目にどのような生活が行われているかを調べて、 2年目は住宅の中でも中庭空間に集中して調べてきました。

中庭の特徴として複数の世帯が共同で使用していることが挙げられます。

中庭空間は元々一家族用の空間で、 都市化の影響によって複数世帯が利用するようになりました。

 

   就寝以外の行為はすべて中庭で行われています。

中庭は一見シンプルな空間ですが、 そこに生活の必要な多様な空間が存在しています。

 

   中庭の構成要素は、 井戸、 木、 ハンガー、 かまど、 台所、 トイレ・浴室トイレがあり、 テラスが付いている場合もあります。

中庭構成要素がそれぞれどのようなものかをスライドでお見せしたいと思います。

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   図31は井戸の様子です。

 

   図32は流しになっております。

流しの周りに生活用具が散らばっております。

 

   木は重要な要素となっています。

1日の生活は、 だいたい木の下で行われています。

木陰を追いかけながら転々と移動しています。

また普段、 朝は団らん、 昼間は食堂、 午後は接待と木影空間が多様に使われています。

一つの空間が多目的に使われていることがわかります。

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   図33はある住宅の木です。

先ほどの説明にも出たように、 この木の影は居住者にとって非常に重要な空間であり、 その空間取り合いのために、 人間関係が悪くなるということもあります。

 

   木の下に場合によって木材で作られている固定的な椅子が置いてあります(図34)。

 

   図35はハンガーです。

ハンガーはフランス語で、 木の柱を四本立てて、 その上には茅葺きのようなものを架けて一つの安定した日影空間をつくることができます。

木の場合は1日の間に転々と移動しなければならないのですが、 ハンガーのような空間だと1日中そこでゆっくりしても安心できます。

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   住宅によって、 ハンガーの質と目的が異なります。

図36の家ではハンガーは日影空間をつくるより一つの領域を確保するということに使われています。

私的領域だということを主張しているものであると思われます。

人が増えると誰がどの空間を使うかということが問題となるのですが、 このスライド39では居住者がそれぞれ自住戸の近くで炊事や家事をおこなっています。

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   先ほどは『かまど』と説明したが、 マリではかまどといえば、 3つの石を置いて、 その間に燃料となる木を入れています。

そのようなかまどは比較的固定されていますが、 図37の場合は、 昼と夜は別の所に置いてあり、 固定されていません。

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   台所は写真のように日干し煉瓦作りです。

中が暗くて、 台所を使っているというよりもその周辺を使っていることが多いのです(図38)。

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   図39はトイレです。

マリではトイレはだいたい正面から中が見えないように、 壁をずらして作られています。

トイレはシンプルなデザインで、 水浴びもトイレも全部済ませます。

場所によってはセメントとかを使っていて、 ここに水が貯まったままですので、 不衛生です。

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   図40図41は寝室です。

このような寝室の中で、 一人が生活しているのではなくて、 だいたい一家族、 5人から10人がここで寝ています。

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   道具も同じ寝室に置かれています。

最近の若者の寝室ではポスターを貼ったりしています(図42)。

 

中庭の過密な使われ方

   中庭空間の特徴の説明を続けますが、 中庭は先ほど話しましたように、 一つの目的だけに使われている空間ではありません。

 

図43 中庭利用の特徴

・複数世帯の共同利用(もとは血縁一族)

・就寝以外の行為が中庭の木陰を中心におこなわれる

 

図44 中庭の空間利用の特徴

1.時刻によって多様な行為と占有領域が存在(ダイニング/キッチン/居間…)

2.空間上のヒエラルキーの存在(パブリック/セミパブリック/プライベート)

3.中庭の利用に世帯間の序列の存在(中庭の木が主世帯の専用となることがある)

4.セミパブリックスペースの大きさにより共同化できる行為の範囲が異なる

 

   例えばこの住宅の場合72人が生活しております。

トイレが2つ。

面白いのはトイレと水浴場が一緒になっていて、 ここの居住者にアンケートで「1日何回シャワーを浴びるか」と聞いたら、 みんな2回から3回と答えました。

72人が1日2回から3回、 2つのトイレを使うというのですから、 大変です。

台所も倉庫になっています。

11世帯が生活しているので、 同時に一つの台所を使うのが非常に難しくて、 皆かまどを自住戸前に置いています(図11)。

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   この住宅の場合は木が1つしかありません。

従って、 居住者は早いもの勝ちで、 朝早く木の下を使い始めたものがその日1日使います。

他の居住者は談話という形で木の下に来たりしていますが、 食事や休憩に関しては、 それぞれ自分の寝室、 ベランダを使っています(図45)。

 

   次の寝室の場合は、 母親と12人の子供が一つの部屋で寝ています。

その場合は生活(活動)空間は中庭とベランダしかありません(図11)。

 

中庭空間のヒエラルキー

   中庭はパブリックな空間ではないかと思っていたのですが、 中庭の使い方、 あるいは構成によってヒエラルキーが存在しているのではないかと考えました。

中庭空間では、 夜と昼で空間の利用の仕方が異なっています。

また、 昼間にはパブリックからプライベート、 自分の寝室へとあるヒエラルキーが存在していると感じました。

 

   次の図12の中庭空間だと、 元々の持ち主が住んでいて、 部屋のうちのいくつかを賃貸しているのですが、 元々の所有者だけが中庭をほとんど占有しています。

そうなると他の居住者は中庭を使えなくなるのです。

そのような状態が他の中庭でも見られています。

 

   本調査のアンケートで、 中庭の利用に関して居住者がどのようなことを感じているかということを聞いてみました。

   例えば図46図47の住宅は、 まったく木がない住宅です。 この中庭では木陰ではなく、 住戸の影を追いかけます。 全ての居住者が午前中はここ、 午後はここで生活するといったように転々と場所を移り変わりながら生活しているという状態が見られています。
 

敷地と世帯の集合のタイプ

   私たちが調査して気づいたもう一つの住宅の特徴は、 一つの敷地に複数世帯が生活していることです。

図48 複数世帯の過密同居にともなう問題点と居住者の意識の対応

1.個人空間がとれない……個人空間をとりたい

2.空間の仕切が少ない……西欧型住宅に住みたい
            (世帯毎の専用空間がとれるのではないか?)

3.設備が共同利用である……専用の設備が欲しい

4.複数の世帯が過密居住しているため

 A.住環境が悪い……移り住みたい

 B.複雑な人間関係が発生……世帯専用の持家に住みたい

 

図49 同一敷地に複数世帯が同居する場合の3タイプ

1.血縁世帯

2.全居室の賃貸化

3.大家の血縁世帯 + 一部賃貸居室

 

   その集合パターンはだいたい3つに分けることができます。

血縁世帯つまり兄弟や親戚同士が一緒に生活しているパターン、 賃貸居住者のみの集合と大家と賃貸居住者が一緒に生活しているという3つのパターンです。

 

   集合化の特徴は、 例えば図12の住宅の場合では、 大家の部屋、 第1婦人、 第2婦人、 第3夫人(1年前に調査に行ったときには第3婦人がいました)のそれぞれの空間をまず確保してから、 賃貸居住者の使える空間が決まってきます。

 

   ここの大家は自分の空間を人に貸しています。

この住宅の賃貸居住者に関しましては、 大家がいることによってパブリックな空間としての中庭が使いにくくなっています。

中庭はだいたい大家の家族が使っています。

中庭のような空間の取り合いを建築的にどう改善して、 マリの住宅問題の解決にどう活かすかが今後の課題になっております。

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