女性が取り組む都市環境デザインの世界
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質疑応答


大阪産業大学の場合

榊原さん

   私の大学に環境デザイン学科ができて去年で4回しか卒業生がでていないんですが、 そのなかで、 やっぱりもう既にやめた女性が色々います。

私の学科は、 少ないときで120人ぐらい、 多いときで150、 160人いたときもありましたが、 そのうちだいたい1/3から1/4ぐらいが女子学生です。

その中で3人の例を簡単に申し上げますので、 それに対して感想といいますか、 アドバイスをいただけたらと思います。

 

   一つは、 意に添わない仕事という理由です。

土木の建設コンサルタントにいって、 3年たってやめちゃったんです。

土木のコンサルですから、 元請けの設計を受けて、 それを下請けに出すような仕事ばかりで、 全然おもしろくない。

たまにおもしろそうな仕事が来ても、 後輩の男の子にとられてしまったとか、 どうもそういうことが続いたらしいんです。

それが一人です。

 

   それからもう一人は、 セクハラでやめたという人です。

これは、 女性としては非常に貴重なことなんですが、 建築の現場に行くんだということで、 行ったんですが、 小さな会社だったんで、 現場の事務所に2人しかいない。

つまり、 その女性本人とあともう一人の男性であると。

その片一方からセクハラをされるともうどうしようもない。

もうやめるしかないということで、 やめたというのが一人います。

 

   もう一人は、 結婚でやめたというのですが、 この人は、 やめるつもりは最初はなく、 別居結婚をしようということでした。

旦那さんの方は茨城県とか千葉県とかの方で、 別居結婚が2年近く続いたと思います。

今日来ておられるブロック幹事の土橋さんのところの方も、 別居結婚をつづけておられますが、 その土橋さんのところの女性を手本にして、 私は別居結婚を続けるんだといいながら、 やっぱり続けられなくてやめたという事例がありました。

この3人の例についてどうお考えになるのか、 お伺いしたいと思います。

 

   もう一つは、 先ほどからうかがっていますと、 アルバイトをしていて、 この仕事に就くという方がおられるわけです。

大学の専門もちがう分野の方です。

これは、 女性特有じゃあないかとも思うのです。

 

   そうすると、 大学で学んだことというのは、 一体何なんなんだということ、 あるいは大学で教える立場からすれば、 一体大学では何を教えたらいいのかという話になるわけです。

 

   要するに大学でやったこと、 学んだことで本当に役に立ったことは一体何なんだ、 あるいは、 大学ではこういうことをもっとちゃんと教えてくれということがあればお伺いしたいと思います。

そのこと自体は女性だからということではないのですが、 入り方が女性特有じゃあないかと、 非常に興味を持ったことろです。

それについてなにかあればお伺いしたいと思います。


たくましく生きよう

大矢さん

   いま先生がおっしゃったセクハラの話ですが、 そういえばありました。

勤務しているところでそういうことがありまして、 非常に腹立たしく思った経験があります。

その時、 私がやめるんではなくて、 そういう理不尽なことを、 どうして受けなければならないのかということを堂々と訴えたところ、 結局その男性の方がやめていきました。

そういう経験はあります。

だから、 一言でいいますと、 たくましく生きてきたと言えるかもしれません。


自分のやりたいことがまずある

横山さん

   先ほどの先生のお話で、 就きたい仕事に就けなかったという方がおられましたが、 機構を学ばれたらというか、 お知りになったらいいんじゃないかと思うんです。

先ほど言いましたように、 大手メーカーのデザイナーは、 すごくかっこいいし、 一言でみなさんが納得する、 登場するだけでみなさんが納得するというロケーションはあります。

でも、 そのデザインしかできないというところです。

造園をでて、 大手メーカーに就職するのをとるのか、 本当に木を扱いたいと思うのかで、 就職先を選ばれたらと思います。

 

   昔は、 いい大学をでて、 大きな企業に行くと安定していいという話があったのですが、 これから先はどうなるかよく分からないと思います。

ただ、 そういう大きな企業に行けば、 世間の見る目は多少違うかもしれませんし、 仕事も大きな仕事に触れられます。

けれども、 自分は本当にこれがしたいというのがあるんでしたら、 就職活動をされるときに、 それができるところを見極められて、 そこに就かれたらいいかと思います。

そういう仕事があるところは絶対あります。

 

   巨大なプロジェクトで、 巨大なデザインをしたいというのは、 ちょっと無理がありますが、 例えば、 植物をさわっていたいというような形でしたら、 できる可能性のあるところはたくさんあると思います。

学生さんは、 会社の名前だとか、 そういんじゃなくて、 会社の実態と自分のやりたいことを考えて、 就職されたらどうかと思います。

 

   ただ言えることは、 大きなところは、 大きな仕事もありますし、 いろんな面で得をすることもたくさんあります。

大きなところに入って、 小さなところにいくことは、 結構できますが、 小さなところから大きなところへいくのは、 よっぽどいろんなことを身につけないと、 むずかしいというのも現実です。

ですから、 その辺で選択されたらいいんじゃないかと思います。


〈結論を急がない〉

   次に、 セクハラなんですけれども、 セクハラには、 種種雑多、 いろんなものがあります。

感じるか、 感じないかもあります。

私も、 土木の営業職みたいなことをしていましたから、 そんなものはあたり前ですし、 人身御供になってやれと会社が言うケースもあります。

現実にあるんですが、 あるから、 だからやだ、 という捉え方もあると思いますが、 回避の仕方も、 それなりにあるように思えます。

 

   先ほどの「工事現場で2人」というお話でしたら、 直接その人だけじゃなくて、 マネージメントされる方を通して、 なにか対策を練れないのか、 「1人と1人」と考えないで、 いろんな手法がありうると思うんです。

ただ、 つい敵とか味方とか、 すごくはっきりとさせてしまいすぎて、 物事がこじれたり、 決裂という方向ばっかりが出てしまうというケースもあるので、 マネージメントの方、 いろんな方に、 どうしよう、 どうしようと聞いてみるのもいいと思います。

それでもダメなケースというのも、 本当にあるんですけれども、 そういうときは、 さっさとやめられる方がいいと思います。

でも、 それに至るまでの間に、 結論を急ぐというということも、 おかしいと思います。


〈結婚と仕事、 どちらが生き甲斐?〉

   次に、 結婚なんですが、 私はまだ結婚をしていません。

結婚をする気がないんではなくて、 23の時から結婚したいとずっと思ってきています。

私がもし結婚するということを考えますと、 「結婚」をとるというのも「仕事」をとるというのも両方考えられます。

私はこの仕事が本当に好きで、 一生続けたいと思っています。

しかしそれは絶対かと言うと絶対でもないのです。

そういう事で自分をしばる必要はないと思っています。

基本的に、 本当にどっちが自分の生き甲斐かということを判断されて、 それでやめちゃうんならしかたないし、 妙に突っ張ってがんばっていくのも、 なんか「良くないよねえ」という気もするんです。


〈大学はグローバルの知識を身に付けるところ〉

   私が何の知識もない状態でこの仕事を続けてきた結果、 一番思うのは、 のりこえなければいけない壁が多いということです。

いろんな人がまわりにいてくれたから、 その場を過ごすこともできたし、 先生方もよく、 学外生徒だとおっしゃっていただけるぐらい、 みなさんからいろいろ助け続けていただいています。

 

   「大学に行かなくても、 学外でちゃんと学べるのか」という話があるんですが、 私は、 このままでは私自身、 偏ったものの見方しかできないのではないかと思っています。

グローバルな目で見られない人間になる可能性は、 たぶん教育を受けてこられた方よりも、 あるんじゃないんかという不安があります。

 

   建築とか工学系の大学がどういう形で何を教えているのかよく分かりませんが、 いろんなカリキュラムをいろんな角度から、 教養を付けさせようということで組まれているので、 学生の方々はグローバルな知識を身につけていかれると思います。

 

   さらに、 大学で専門のことをずっと考え続けて来られた学識経験者の方に触れられるのは、 すごくいいと思うのですね。

実務の人間は、 実務からしかものを考えられないんです。

学識経験者の方は、 全然違うところから発想されている部分があって、 逆に、 やっぱりそうやってものを考えていかなくてはならないんだということに触れられるんですね。

その先生のお人柄とか、 ものの考え方に触れられるというのは、 こんなにいいことはないと思います。

私も仕事のいろんな局面でものを考えていかなくてはならないのですが、 先生方ともいろんな議論をさせていただけるということが、 自分の肥やしになっています。

 

   例えば、 役所では、 実務でやってきた人が一番偉くなるんじゃなくて、 キャリアの人がずっと指導しているということに出会いますが、 本当にいろんなことを勉強してこられた方、 実務と違うところできちんとそういうものを学んでこられた方の力、 判断力は、 実務に惑わされない強さみたいなところがあって、 大学はそういうことをきちっと教えてくれるところじゃないのかと思います。


大学は自由な考え方を学ぶところ

三谷さん

   私は学生時代を関西で過ごしたせいもあるのでしょうが、 枠にとらわれない、 自由な考え方をもつということを、 大学で学んだような気がします。

 

   できる枠を決めてその中で考えるのか、 枠にとらわれることなく、 したいことがあってそのための手段を考えるのか、 大きくは考え方は2つあると思います。

お金がないからできないという発想と、 したいことのためにお金をどこかから調達しようという発想では大きな違いがあります。

 

   私は、 したいことがあってそのための手段を考えるという発想をすることを習ったと思います。

だから、 今仕事をしていて勤務時間が長いことも、 その辺にも影響があります。

要は「しょうがないじゃない、 これぐらいしか考えられないよ」という発想ができないんです。

「何で?」「どうして?」「必要性は?」ということを常に自分に問いかけ、 打ち合わせの場面でも「どうしてこれが必要なのか」から始まって「何のためにこれを考えるのか」という疑問が口をついて出てしまうのです。

簡単に納得できないのは、 大人げないのかもしれないし、 学生の意識が抜けないかもしれません。

悪くいえばモラトリアムの延長というかもしれません。

しかし、 目的が明確でないもののために時間と労力を費やしたくないという気持ちが強く、 この程度でいい、 この辺が常識だという枠を考えにくいのです。

 

   社会状況が変化すれば、 自ずと常識は変化していくものだし、 固定的なものではないはずです。

今までの常識(枠)の中で仕事をするのではなく、 自分が常識をつくる(枠を超える)ような傲慢さがあってもいいと思っています。

その考え方の土壌は、 大学と大学院を通じて得られ、 都市計画や都市デザインを考える際に、 自分の中でかなり影響を与えていると感じています。


学生さんから一言

宮前さん
   せっかくきていただいている学生さんに、 お話なり感想なりをしていただきたいと思いますので、 どなたかいらっしゃいますか。

それでは、 こちらから指名させてもらいます。

 

倉橋さん(立命館大学)
   女性の立場で、 どういうふうに仕事にたずさわっておられるのかということを、 聞くことができてたのですが、 やっぱり、 やりたいことにつけるわけではないという現状も知ることができました。

そういった点で、 どんなふうに対処していったらいいのかな、 ということをちょっと考えさせられました。

 

北崎さん(武庫川女子大学)
   私は、 武庫川女子大学の生活環境学科で、 助手をしております。

北崎と申します。

今日は、 学生の引率がてら、 よらせていただきました。

私はもう職に就いておりますので、 みなさんの意見を同じ働く女性としていろいろ聞かせていただいたのですが、 仕事をしていく上で、 人生のタイミングとか、 そのときどきで転機みたいなものが、 みなさんに共通してあるのだなと感じました。

私もこの先どうなるのか分かりませんけれども、 タイミングがあったときには、 前向きに考えて、 それなりに行動したいと思いました。

 

野島さん(奈良佐保女学院短大)
   女性は、 仕事か結婚のどっちかを中途半端にしなければいけないのかと、 思っていたのですが、 私はずっと働いていけたらいいなと思っているので、 いろんな経験を持たれた方の話が聞けて、 良かったと思います。

 

・・・さん(京都工繊大)
   私も、 今ちょうど就職活動中でして、 面接を控えている立場ですので、 こういうお話が聞けて良かったと思っています。

私も、 どちらかといいますと、 結婚もしたいし、 仕事も続けていきたいという立場ですので、 そういう中で、 みなさんがどういうふうにやっておられるのかが聞けて、 参考になりました。

 

氏原さん(阪大船舶海洋工学科)
   私は、 全然関係のない船舶ですが、 ランドスケープとかに最近興味を持ちはじめたところです。

それと就職しなくちゃいけなくて、 その辺でどうしようかなというので、 この会に参加させていただいたんです。

今まで、 何か一つの考え方にとらわれていたのですが、 お話しされていた方々は、 一つの考え方にとらわれずに、 いろんな見方をして、 それを自分の肥やしにされて、 10年先とか長いタームで考えてきて、 うまいこといっていると感じました。

そういうものに対する接し方とか、 私もそういう行動ができたり、 考え方ができるようになれたらと思いました。


まとめ

宮前さん

〈男女同じような状況である時代である〉

   どうもありがとうございました。

今日のお話のまとめというのは、 なかなかできないことだと思うのですが、 今何人かの学生さんのお話を聞いていますと、 参考になったというふうに、 おっしゃっていただけたので、 1つの目的は果たせたかと思います。

 

   鳴海先生がテーマのところにお書きになっておられますように、 仕事環境の中で、 男性優位というのはやはり現実として存在します。

先ほどから4人の方が何度もおっしゃっていますように、 バブルの時代は、 もうなんでもいい、 とにかく技術があろうがなかろうが、 かまわないというような時代でしたが、 こういう状況になってきますと、 どれだけ仕事をやり続けていくという意識を持っているのか、 それから先ほど三谷さんが勉強してきたとおっしゃっていましたが、 それぞれの局面でどう課題を解決しながら前に進んでいくのか、 そういうものが求められている時代だと思います。

そういう意味では、 男性だからだとか、 女性だからということではなくて、 我々都市環境デザインに関わるメンバーというのは、 みんな同じような状況ではないのかと思います。


〈女性が取り組むという姿勢〉

   さらに、 女性が取り組むという姿勢について、 まとめではないんですが、 みなさんがおっしゃったことを整理してみます。

 

   技術を持っているということは非常に重要なことだということ、 日本は農耕社会であったわけですが、 かつての農耕社会のいい意味での伝統、 こういうものは引き継いでいけるのではないかと思います。

それから、 みなさん共通して、 女性、 男性は関係ないとおっしゃっているわけですが、 もしあるとすればどういうことかといいますと、 例えば、 環境の悪化なり、 環境の変化なり、 そういうものに非常に敏感であって、 それに対応できる能力を持っているんじゃないのかと思います。

そういうことと、 職場環境の中で、 いわば、 クッション材といいますか、 そういうような機能を果たしていることが、 現実にはあるんじゃないのかと思います。

それから、 育てるとか、 守るというような、 動物的機能を持っていることから、 都市に、 安全なり、 安心なり、 あるいは身体的によいもの、 そういうものをもたらしていく能力があるんじゃないかということがでてきたと思います。

 

   逆に、 例えば、 感情的になりがちだとか、 細かくなりがちだと、 批判を受けることもありますが、 それはバランス感覚の問題で、 これは、 先ほど三谷さんがおっしゃっていたんですが、 女性だからということよりも、 最近若い男性を見てましても、 結構感情的になりがちの方もいらっしゃいますし、 結構細かい方もいますので、 それは、 たぶん、 仕事をしていく過程で、 どういう意識を持っていくのかで、 解消されるのではないのかと思います。

 

   最後に、 企画をしていただいた鳴海先生に総括をお願いしたいと思います。


女子学生は世界が見えていない

鳴海さん

   表題をどうしようかということで、 色々議論しましたが、 結局、 「女性が取り組む都市環境デザインの世界」ということにしたのです。

「男性が取り組む都市環境デザインの世界」ということで、 みなさんにお話をしてもらおうかとも思ったのですが、 そうするとひねりすぎなので、 もう少し分かりやすく、 素直に表現しようということになりました。

 

   どうしてこのテーマを考えたかというと、 建築とか、 環境デザインとか、 造園とか、 女子の学生が増えている現実があります。

三谷さんがいた頃はそう多くはなかったんです。

だから、 少ないときは、 女性が来るならよっぽど覚悟してきているはずだから、 安心して結構きついことを言ってたんです。

ところが、 だんだん増えてくると、 どういうふうに彼女たちに教育したらいいのか、 なかなか自信がもてないので、 こういう機会に、 教えてもらおうという、 企みであったわけです。

 

   就職の時期になると、 女性ばっかりではないのですが、 ハウスメーカーとか、 ある特定の業種だけ頭にあって、 それだけを就職活動で走り回っているんですね。

全然、 世界が見えていないような気がします。

これは講義の仕方が悪いのかもしれませんが。

男子学生は、 先輩とかを探し回って、 話を聞いて、 自分で探して来るんですが、 女性は、 まだ古い先輩がなかなかいないので、 自分だけでハウスメーカがいいだとか、 目先のものだけで考えてしまって行動してしまうんです。

そういう人が非常に多いのを目の当たりにして、 ちょっと方法を変えなくてはいけないのではないかと思いました。

本当は、 こういうのは講義でやってもらうと非常にいいのですが、 ビデオでも撮っておいて、 3年生ぐらいに毎年見せるくらいの、 そういうふうなものにも使えたらいいなあと思っています。

 

   さっき宮前さんも男の学生にも聞かせたいというような話をされていましたが、 確かにその通りです。

このセミナーでは、 プロとして何を考えたらいいのかということを主体にやってきたんですが、 男女の区別なく、 我々の後輩が育っていくためにはどういう状況をつくって行かなくてはいけないのか、 そういうテーマを1年に1回ぐらい採り上げていったらいいんじゃないかと思いました。

今日は、 いろいろと勉強させてもらってありがとうございました。

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