それでは質問やご意見を出していただきたいと思います。 どなたか質問のあるかたはお願いします。
〈後藤裕介〉
難波さんにお伺いしたいのですが、 密集市街地に関わる問題はとても難しいと思うんです。 今後さらに難しくなっていき、 現在使っている「再開発」という言葉ではとても追いつかなくなると思います。 私たちは空間的には色々やっていますが、 システム的なところはあまり出来ないと感じています。 現状の「再開発」を含めて事業手法があまりに幼稚だと思うのです。 今回の震災復興事業でも不満があります。 行政はどういう仕組みで密集市街地に対して取り組んでいるのか、 その点をお聞きしたい。
〈難波〉
私に対する質問の答えも含めて私にも質問があるのですが、 震災で密集市街地が脚光を浴びているということは事実です。 そのムーブメントをさらに大きくして、 密集地対策をもっと充実させようという動きがあります。 例えばコンサルタントでも、 再開発のコンサルタントは華々しいものなのですが、 密集市街地のコンサルタントは、 おじさんじみたというか(笑)、 みんながあまりやる気にならないものなんです。 それをこの際、 「密集市街地を扱うコンサルタントは非常にナウい」というような、 そういう状況をつくっていくとすれば、 それにはどういう提言があるか、 是非いろんなご意見をお伺いしたいと思います。
では北條さんからお答えいただきましょう。
神戸の震災地で、 御菅地区を中心に支援活動をやっています。 ここに適用された区画整理という手法は、 百年近くの歴史を持ち「都市計画の母」なんて言われており、 制度的にはいろいろ使いこなされてきた面もありますが、 実は非常にプリミティブな手法と思います。 例えば土地利用について、 マクロには協調しながらミクロには分離していくことをしようとしても、 区画整理事業には、 照応の原則があって土地利用はようさわれませんということになります。 ましてや住宅の共同化や建物の再建をどうするかについての手だては制度的にもできていない。 つまり、 区画整理事業は、 基本的に土地しか扱わない手法です。 土地の整形化、 道路の整備といったことで原理としては宅地開発の発想と変わらない、 密集地の建物整備はむずかいしようです。
そういう中で、 区画整理が適用された以上、 区画整理のいいところと密集地整備という条件の厳しい面とを、 いかに相互乗り入れしていかれないかと考えました。 そのイメージとしては住宅再建のプログラムを持って地元に入ったのですが、 これがうまくいきませんでした。 またいずれ詳しくご報告しますが、 まちづくりについて、 理解をいただくのに時間がかかります。 極端な話、 建物を建てるのに、 家の前に道路が必要という話を延々しなくてはならない。 共同体とか共用空間とかいう前に、 家の前に道路がいるということから始めねばならない。 もとは1間とか2間の路地でそれで十分用は足りていた。 それを区画整理の設計基準になぜしなればならないのかと。
密集地における現実の建物は全焼してなくなっているが、 依然として地元の皆さんの頭の中に権利は存在している。 そこに家主がおり借家人がおり、 その契約も厳然と存続しています。 空間的には何もないけれど、 権利や生活像は残存しているのです。 こうした密集地改善の現行の手法は、 ご指摘あったように非常に幼稚なものです。 住民の元の状態にもどしたいという意識をどう切り替えていくか、 その問いかけを行っていかなければなりません。 また生活再建について将来の住まいをどうするのか、 費用負担をどうするのか、 そのプランを示さないことには単に道路を広げる、 住宅を建て替えるというだけでは地権者の皆さんを引っ張ることはできないと考えました。
つまり事業の話をしなくてはならない。 例えば公園について、 これは皆さんの負担でつくるものではない。 これは国の補助金など公共資金で整備しますから、 みなさんの減歩に関係ありません。 これをはっきり言わなければなりません。 区画整理は減歩で成り立っていることから、 公園も自分らの土地を出して造ると思われています。 現実はそうではなく、 公園も道路も減価補償で先行買収ですから、 ほとんど影響しないんです。 こういう話を早くからいうべきでしょう。
我々は、 まちづくりコンサルタントして、 まちづくり計画や建物などの再建を中心に考えていましたが、 やはりお互い話し合えるようなボキャブラリーを持たなければならないと思いました。 事業の用語、 法律の専門用語について、 住民のわかる言葉に翻訳していく必要があります。
先に話したように、 密集地の中に展開する共用空間について、 先ほど言いましたように所有権は自分のものだという意識がありますから、 敷地一杯に建物を建ててどこが悪いという極端な意見もだされます。 建ペイ率があることについてもなかなか分かってもらえない。 何故60%に指定されているのか。 これは説明がむずかしいですね。
建ペイ率の緩和のための地区計画の勉強会のときに、 次のように説明しました。 民法で隣地界から50cm空けなければなりませんが、 この空地確保をすると、 建ペイ率はほぼ70%程度になります。 近隣商業地域が一部あり、 ここは80%で、 これが緩和されると90%になる。 「90%は使えないから、 商業地域では地区計画はいらない」という意見もでました。 これは困るわけです。 これは建ペイ率60%を救うためにやるので、 是非理解を」というしかない。 こうした議論を延々半年ぐらいやっていました。
まちづくり協議会で十分に話し合わっていくのですが、 都市計画決定が先にされたということで行政との信頼関係が壊れ、 議論において混乱と誤解がありました。
我々は、 共同再建を重要なテーマとしてとらえ、 協議会の勉強会では、 早くからこの話を出していきました。 しかし、 これは期が熟してこないと、 共同化の意思形成ができないものです。 あまり早くから出しても、 空振りにおわるということだといえます。
一つには今度の密集新法です。 これはもの造りの助成として直接関わる部分は少ないと思うのですが、 例えば税法とか様々な法律をクリアするのに新法を使ういう発想はどうでしょうか。 また、 密集新法を適用した場合、 都市経営にどういう影響するのか。 財政的に検討する必要がある。 今は自治体財政がパンク寸前ですが、 密集地を整備したら将来的には人も戻って、 税収も戻るわけですから、 やった場合とそうでない場合をシミュレーションし、 広くマスコミに流し、 ディベロッパーも行政も住民も「やらなあかん」と思うような環境づくりをやって欲しいと思います。
区画整理の話が出てきましたが片山さんどうですか。
〈片山〉
区画整理に関わったことがあるので意見を求められたと思うのですが、 先ほどの北條さんのお話で一つ引っかかったところがあります。
4mの道路がダメだという話があったと思いますが、 実際には4〜4.5mの道路は神戸の復興でも使われているという報告が以前このセミナーでも出ていました。 確かに既にやられております。
それから区画整理では補助の世界と事業の世界は非常に微妙な関係にあります。
いわゆる都市計画の道路について補助が出るという都市計画の話があるのですが、 その補助制度自体が区画整理事業だと理解されている部分が多く、 それが区画整理事業を理解し難くしている部分だと思うのです。 都市計画をしなくても、 補助を受けなくても土地区画整理の手法を使うことは可能なのです。
それから、 住民の理解が得難く、 コンサルタントから上物の話がしづらいという話があったかと思いますが、 それはとても大きな問題だと思います。 北條さんが最後に言われました経営や生活像へのコンサルティングを含め、 建物や他の全てのことを含んだ形ですすめることが必要です。 本来的には行政が信頼される状態で対応できればいいのですが、 今はそういう雰囲気ではなくて、 NPOといった組織で救っていける仕組みが出来ればいいと思います。 これには税制の問題などもありますので制度を作らなくては行けません。 もっと自然な形でそれがつくれないか、 という感想を持ちました。
区画整理の話は難しく、 ちゃんと教えられる方があまりいないので、 マスコミの方は区画整理というだけで「減歩でダメだ」というレッテルしか張っていただけない。 その辺はもっとPRしなければいけないなと思います。
中山さんにお伺いしたいのですが、 石橋の中でも高齢者の一人暮らしの方が沢山いらっしゃると思うのですが、 そういう方々の日常生活と今日お話下さったこととの関連についてはいかがでしょうか。
〈中山〉
私は学生の時にあの町に住んでいましたが、 実を言うと、 ご老人とのつきあいはほとんどありませんでした。 今回お見せした写真を撮っている時に歩いていると、 休日ということでサラリーマンの姿はほとんどなかったのですが、 主婦層や老人の方が多いまちというのを改めて感じました。
商業地ということを考えれば、 石橋に関わって生活されているご老人たちのコミュニティの基盤になっているのはお店だと思います。 衣料品を扱うお店や銭湯などで、 親しそうにお話をされているのをよく目にしました。
それと私の経験から言いますと、 話し掛けはしませんでしたが、 あのおじいさんどうしているかなどと確認したり、 そういう目配せを交わす場がこの町なのではと思います。
また、 私は再開発事業をお手伝いしている会社にいるのですが、 密集住宅地の再開発を進める手法として、 第一種再開発事業の区域規模が1,000m²以上に引き下げられたり、 今年度新しくできた「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」で、 整備の位置づけを受けた一定エリアの木賃集合住宅については、 その建替えにあたって除却費や共同施設整備費が補助されるなど、 支援が拡充されつつあります。
石橋のような町は、 再開発においては小規模な作り替えであることが求められますので、 その意味では歓迎すべき流れになっていると思います。
〈難波〉
私はずっと石橋の近くに住んでまして、 その点で中山さんより石橋には詳しいと思うのですが、 商店を長くやってこられている人や、 外から来る人、 つまり外で働いて帰ってくる人たちが立ち話をしている姿を良く見かけます。
人が表を歩いている、 通りに面しているところでは老人もやはり表に出て交流しているので、 そこに出てきていない老人はどうしているのか分かりませんが、 何もすることが無くなったら、 ああいうところで商売をするのもいいなと思っています。
まず田中さんにお聞きしたいのですが、 レジメの中のまとめのなかに、 「均一でないコミュニティ」という言葉があるのですが、 これは具体的にどういうことを指しているのか教えていただきたい。
次に「単独世帯及び都市」に書かれている何行かは、 一つ一つ猛烈に難しいと思うんです。 簡単で結構ですが、 これを具体的にご説明いただけたらと思います。
〈田中〉
2つ質問を頂きましたが、 レジメの同じページなので、 まとめてお話したいと思います。
まず「住宅供給方式の世帯の混在化」についてですが、 公営住宅でも色々な試みがなされていますので、 それはそれで進めていただいて、 民間の住宅供給でも、 世帯を混在化させる方向で進めて欲しいと思っています。 例えばマンションを建てるとき、 半分は絶対に高齢者を入れなければならないとか、 あるいはそうした条件を満たしたそのマンションを優良マンションとして補助をしたり、 金融公庫の利率を下げたりする事も考えられるのではないかと思います。 住宅全体を供給する側も、 単に何m²の住宅をいくつというのではなく、 住宅を供給すること自体がまちづくりに大きく関わっているという意識を持ってもらいたいと考えています。 また、 若者の居住が増えるからといってすぐにワンルームマンションを建てたりするのは短絡的に過ぎるのではないかと思うことから、 「多様な居住形態」を発想しました。 色々な形での住宅の例を増やして、 居住の形を選択できるように出来ないかと考えたわけです。 そこにはコーポラティブハウスも入ると思います。
次の「単独世帯を含んだコミュニティの形成」ですが、 私が以前奈良市に住んでいたときのことを例にあげます。 学生でしたからアパートに一人暮らしをしていたのですが、 町内会があるので出て下さいと大家さんにいわれましたので参加していたことがあります。 大阪に引っ越ししたら全くそうしたことはなくなりました。 町内会に出たといっても何もすることはないのですが、 奈良では一人暮らしでも一応参加する形を求められ、 大阪では出るか出ないか、 1か0かという求め方をされる。 もっと高齢者や若者に合わせた町内会のあり方があれば、 参加してくれる人もいるのではないかと思っています。 そういう意味では自治会や町内会のあり方はもっと考えられるべきだと思います。
「職住近接のまちづくり」については、 先ほどニュータウンのお話が出ましたが、 ニュータウンでも高齢者の一人暮らしが増えています。 都心に職場があって郊外の一戸建てに帰ってくるような生活は、 その地域がそういう生活様式の人たちだけの時は成り立っていたのですが、 そうじゃなくなってくると、 良くないのではないかと常々思っていたのです。 このように単独世帯が増え、 家族ぐるみでつきあうコミュニティが無くなっていった場合には、 さっきいいましたような職場でのつきあいが近くにあった方がいいのではないかと思い、 「職住近接のまちづくり」ということを書いてみたわけです。 これはどうしたらいいかということはなかなか言いづらいのですが、 先ほど出ました商店街では後継者が商店の近くに住めるように配慮をし、 後継者として育っていけるようなかたちをつくれないかと考えています。
「生活の外部化のための都市施設の充実」ですが、 これも高齢者が増えていくのですから、 生活の外部化がもっと行われべきだと思うのです。 高齢者のための食事を作るボランティアなどが良く見られますが、 それはそれでいい方法です。 でも一人暮らしの高齢者の方が自分で外に出ていけるチャンスを増やすという点では、 食事を外で提供してあげられる町の方が、 人とふれあえるチャンスも提供できるのだと考えています。 全部を外部化するのがいいとは思いませんが、 そういう観点から生活を外部化する都市施設はもっとあってもいいと考えています。
一言だけいわせてもらうと、 密集市街地事業を動かすのは、 私はコンサルタントの方だと思うのです。 コンサルタントの人が積極的に動いてくれないと、 密集地事業は絶対に出来ない。 行政の人に動いてもらうのは当然なのですが、 コンサルタントの方には始動期にいろんな作業をやってもらわなくてはならず、 非常に大変です。 ましてや一人一人との話になると、 生活再建の話にまで及ばなくてはならない。 そういうことを出来るコンサルタントの人が絶対的に不足している。 お金にならないし、 苦労が多いわけで、 なかなかなり手がいない。 先ほど出ました「密集地を手がけるのがかっこいい」とならないと、 なかなか出ないのかも知れません。
私はそういうことに関わるコンサルタントの人をどれだけ増やせるか、 そこにかかっているように思えます。
〈後藤〉
密集地に関しては、 私は手弁当だと思うんですよ。
手弁当でも動くコンサルタントをどうつくるか、 これはJUDIの仕事ですね。 密集地に関しては手弁当という言葉につきると思う。 お金も儲かる、 かっこいいというのではどうにもならない。
〈難波〉
ということで、 JUDIの責任になりました。 以上を持ちまして終わりとさせていただきます。
法律と現実の狭間の中のコンサルタント
〈北條〉
密集地開発は時流にのせるための環境づくり
それから密集地がもっとナウくならないかということですが、 現在再開発は全国で300カ所ぐらいで完成していますが、 今は再開発も試練の時です。 これまではディベロッパーが早くから先行投資をしてくれました。 コンサルタント料金も立て替えるとか。 これからはディベロッパーも慎重になっています。 民間ディベロッパー・公共ディベロッパーを含めて、 資本を動かすには、 事業経営的に成立する環境をつくっていかねばならない。
区画整理について
〈難波〉
石橋における高齢者のくらしについて
〈石東〉
田中さんへの質問
〈質問者〉
コンサルタントをどれだけ増やせるか
〈千葉〉
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