密集市街地の居住空間
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コメント

都心における新しいコミュニティの可能性

住宅・都市整備公団

〈千葉〉桂司

田中さんの報告について

改行マーク今日は三人の方に大変興味深いお話を伺いました。 田中さんからは単独世帯についてお話しいただきました。 都心居住志向の話とか、 ワンルームマンションでの生活行動の話とか、 今まであまりお目にかかれないお話を聞かせていただきました。

改行マークそれらに住んでいらっしゃる方が意外と常識的な解答をされているのが印象的でして、 ちょっと驚きました。 ワンルームマンションの周辺に住んでおられる方にお話を聞くと、 また違うものが出てくるでしょうし、 それを比較してみると面白いのではないかと思います。

改行マーク色々な居住性を持つ住居を提供することで、 それらが混在化していったほうが良いのではないかというお話に、 やはりありふれた言葉ではありますが、 コミュニティという言葉が出てきたなと思いました。 世帯あるいは年齢層が非常に単純化・単一化されたグループが醸し出すある種の危うさというものを感じたわけでありますが、 しかし社会がそれを必要とする場合もありますので、 それらをどう共存させていくかということが大きなテーマになってくるかと思います。 多様な世帯に対応する多様な住居ということはベースとなる話であり、 大変興味深い指摘です。


中山さんの報告について

改行マーク中山さんからは住居が混雑化した密集市街地の魅力について語っていただきました。 車の進入しない町の魅力、 あるいは商業と住宅の混在化した活気の魅力など、 それらの界隈性とか迷路性とかいうものについてお話しいただきました。 「危険だけれども楽しい町」また「タフな町」ともおっしゃっていましたが、 そういう町はどこの都市に行きましても必ず一つや二つはあります。 危険だから故に楽しいとも思いますが、 象徴的にいいますと「アジア的な都市空間」が持っている面白さではないかと痛感いたしました。 そういう空間を支えているのが若い人たちの生活で、 彼らがこの空間を継続させていると思います。

改行マークこのような地域をどう再開発していくか。 中山さんのお仕事はまさにこの再開発にあるわけです。 この再開発の難しいところは、 出来たら残したいのだけれど、 それでは計画が進まないということです。 その辺りは再開発が従来の大規模な再開発から少しずつ変容して、 従来の街の構造を残しながら進めていこうというスタイルが少しずつですが生まれつつあるようですので、 それを検討されるのではないかと期待しています。


北條さんの報告について

改行マーク北條さんからは密集市街地の共用空間について非常に分かりやすく分析的に説明いただきました。 共有空間が持つ色々な特性を明確にし、 共用空間の持つ役割や変容の過程も興味あるところを教えていただきました。 特に長屋を例にとって分かりやすくお話しいただいたとおもいます。


まとめ−都心居住における共存

改行マークこれをまとめるのは非常に難しいわけです。 先ほどちょっと申し上げましたが、 これまでも都市の居住地では階層による住み分け、 金持ちと貧乏人、 サラリーマンと商売人の住み分けはあったのです。 年齢階層による住み分け、 特に若者と高齢者の住み分けが、 何故このようになるのかが問題点として頭に残っています。

改行マーク若者の住む町が高齢者を排除していくのか、 高齢者の住む町が若者を排除していくのか、 或いは排除などなく自然にそうなっていくのか、 その辺の関係が良く分かりません。 しかし、 いずれにしても都市の機能が単純化・単一化し、 非常につまらない町になってしまうことがあります。 若者と高齢者の住み分けもまた、 町をつまらなくし、 魅力を失わせると思うわけです。

改行マークそういう若い人たちと高齢者の方々の分化がこのままで良いわけではないということをおっしゃったわけですが、 ならばどうすればいいかとなるとなかなか解答が見つからない。 簡単にいえば、 混住・共存という道が探れないかという問題が次に出て来ようかと思います。 その解決策の一つとして都心居住を、 私は仕事の関係上からも考えています。

改行マーク都心に住むというと、 これは若い層が多いと思われがちですが、 一方で長屋を中心としたゾーンには高齢者の方が多く住んでいらっしゃいます。 長屋では住宅が狭いから若者がどんどん余所に出ていって、 高齢者だけになってしまう。 出ていった若者たちがどこに住んでいるかというと、 すこし離れた郊外のワンルームマンション、 利便性が良くてフットワークの良いところです。 そういう一緒に住めないが故に分離してしまうという面があります。 共存していく、 同居でなくても近所に住み合うという事が今後はもっと求められても良いはずで、 それらをどう作り出していくかという事を、 都心を例にとって考えたいと思っています。


路地コートでの実践例

改行マーク数年前にやりましたプロジェクトのお話をして、 まとめに代えさせていただきたいと思います。

改行マーク阿倍野区阪南町で路地コートという15戸の住宅からなるコーポラティブ・ハウスを作りました。 それは戦前長屋を何とかして自力で更新して住み続けられるような状態をつくりたい、 そしてこの動きを波及させていくことによってまちづくりにつなげていこうということから構想したものです。 今日の共有空間の報告でも出てきた路地という、 戦前長屋の持っている非常にいい空間をどう継承していくかということ、 さらに一種のコミュニティである相互扶助的な関係、 それが豊かな居住性を支えているというお話もございますが、 これらをどう継承・発展させていくかということをふまえて実験的にやっていこうとしたプロジェクトでした。 それを行ったときに非常に面白かったというか、 我々の気がつかなかったことが幾つかございました。

改行マーク一つはコーポラティブのご案内をして関心のある方に集まっていただいたのですが、 その集まっていただいた方にお年寄りが非常に多かったということです。 高齢者の方がコーポラティブに興味を持っているとはとても思えないので、 これはどうしたことかと大変不思議でした。 お聞きしますと、 息子や娘の世代に是非近くに住んで欲しいという希望があるのですが、 なかなかそれに適した住宅がない。 それで息子や娘のために高齢者の方がお見えになっていたというわけです。 逆に親の住んでいたところに戻りたいという要望も多くありました。 これから少子化が進んでいきますと、 親と子の関係の中で、 どう暮らしていくか、 どう住んでいくかという問題が大きくなります。 例えば親の面倒を誰が見るか。 これはどこかの誰かに見てもらうというだけで片付く問題ではないと思うのです。 だからこの住まいへの要望と大きく関わってくると思えたのです。

改行マークそれからもうひとつ、 参加された方の中におかあさんを連れてこられた方がいらっしゃいました。 何故おかあさんも一緒に来られているのかをお聞きしたところ、 コーポラティブのいいところのひとつに、 住む人たちが入居前に顔を合わせることが出来る、 知り合える、 コミュニティが形成できるということがあるのですが、 住む前にコミュニティのみなさんに母親を紹介することによって、 おかあさんの面倒を見て欲しいというような趣旨をお答え下さいました。 ご自分の仕事の都合でお母さんの面倒を見ることが出来ないので、 昼間の間、 目をかけてもらえないだろうかということなのです。 これも親の面倒を誰が見るか、 高齢化社会になったときに高齢者をどうコミュニティが見ていくかということに繋がる話だと思います。

改行マークさらに、 子連れの若い夫婦もおられました。 自分たち若い夫婦は働きに出るのだが、 子供の面倒を誰が見るのかという問題がある。 保育所に入れれば済む話なのかも知れないが、 子供の面倒を見てくれそうなおばあさんがまわりに沢山いれば、 安心して子供を預けられるということです。 こういたおばあさんは、 まだ社会に役立ちたいという気持ちも強く残っている。 ですから若い世代と高齢者の共存共栄しうる社会システムがうまくかみ合えば十分可能な話です。 そういうニーズが非常に強い。 が、 いかんせん、 そういうシステムが出来ていないので、 その辺が一番難しいのです。

改行マークそういった事業を通しまして、 やはり高齢者のコミュニティケアの話、 あるいは高齢者に社会的な役割を与えることによって元気になってもらうということを、 住まいをつくる中で同時に出来るのではないかと思いました。

改行マーク若者は若者で、 高齢者は高齢者で単純化されて住んでいる町は、 町の活性化や魅力という点で問題を持っていると思ったのです。 ですから進んでそういうことが出来るような仕掛け、 ニュー・コミュニティを作っていくことが大事であろうと思います。 つまりはコミュニティの再構成・再編成をやっていくことにつきるのではないかというのが私の考えです。

改行マークこれはニュータウンでも同様で、 先日の研究会でも話に出ました。 ニュータウンでも高齢化が進んでいます。 アメリカを除いてニュータウンはつくられていない。 唯一つくっているアメリカでも、 ニュータウンではなくニューコミュニティをつくっている。 やはり郊外に新しい住宅地をつくるという時代ではなくて、 都心に新しいコミュニティをどう再編成するかが求められているのです。 そのためには密集した市街地をどう捉えるのか、 どう整理するのか、 どう住み良くしていくのか、 ということが問われているのではないかと思った次第です。 以上でございます。

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