A1棟からF1棟までの北側の各住棟ピロティ部分には、 7人のアーティスト作品が掲げられています。
ピロティのアートワークの一例として、 市営3号棟のイチハラ・ヒロコ氏の作品を紹介します。 この方は言葉を使って表現するアーティストで、 作品は「あしたもあしたもあしたもあいたい」、 反対側には「いちばん好きなひとが、 いちばん気持ちいいし」という言葉が入っています。
南側にある6棟には、 6つのピロティを連続した空間としてとらえた空間表現を、 江川・木村両氏が手がけました。 これが、 建築と一体となったアートの部分です。
ちなみにどういう観点から、 アーティストを選んだかについて説明しておきます。 俳句の稲畑汀子さんや建築家の江川さん達を別にして、 みなさんいわゆる従来のパブリックアート的な仕事はほとんどしていない人達です。 そして、 いずれも何らかの形で今回の震災に関する、 それぞれの思いや体験を持っている人達にお願いしました。
たとえば、 市営2号棟作品の小山田さん(DUNB TYPEメンバー)は、 震災後すぐにボランティアとして足繁く被災地に通って来られましたし、 赤崎さんは芦屋市在住、 藤本さん、 IDEAL COPYの方々も今日の人間の問題について非常に深いところで表現活動されている方々です。
田甫律子さんは、 アメリカ・ケンブリッジ在住で、 今はMITのビジュアルデザインプログラムの準教授をされている方です。 かなり前からパブリックスペースにおけるアートの可能性や、 住民が関わることで成立するアートなどでいい仕事をしておられ、 私が注目していたアーティストの一人です。 そういった顔ぶれでこのアートワークが行われました。
なぜ住宅団地の中にだんだん畑かというと、 二つの理由があります。 ひとつは、 ここに住む人の多くは高齢者だということです。 彼らが新しい暮らしを始めるにあたって何が大事かを考えた時、 子供の時の原風景を身近な環境の中に取り入れ、 しかも風景だけでなく、 それを介して人が新しい関係を作り出せないかと考え、 その答としてだんだん畑が登場しました。
今回の入居者には、 そういう環境で暮らした体験のある人がたくさんいるはずです。 芦屋にも昔はあちこちに畑や田があったはずです。 そうした心安らぐ原風景に近いものをここに持ち込み、 実際に「農を楽しむ」ことで、 収穫を分かち合い暮らしの中の行事として楽しむ仕組みも含めて、 一つのシステムとしてのアートを提案しています。
もう一つの理由としては、 緑・土が私たちの日常生活から消えてしまったことから、 もう一度身近に取り戻したいという思いがあります。 特に、 土は「自然」というより経済行為の材料と化してしまっているように、 自然と人間のゆがんだ関係が今日の社会では蔓延しています。 そうした現象に対して、 ささやかではあるけれど、 もう一度身近な所で自分たちが自然に関わり育てていく仕組みができないだろうかという問いかけが、 この作品の背景にあります。
お気づきの方もいると思いますが、 今まで公営住宅団地の公共緑地では、 住人が草花を作ることは黙認されていたようですが、 このように正々堂々と農作物を作ることが認められたことはたぶんないはずです。 これが認められたのは、 このプロジェクト関係者全てのご努力の結果だと思います。 もちろん、 それが完成なのではなく、 これからどのような形で何を植えるのか、 それが意味あることになっていくのかも含めてまだまだ続いていくプロジェクトです。
それぞれの仮設住宅から来てもらうのは大変なことが分かってきたので、 途中で私たちが仮設へ出向く「出前講座」に切り替えました。 今まで4カ所の仮設を順番に回り、 同時に「れんげ通信」というミニコミも出しています。 だんだん畑をスタートさせる時、 れんげから始めようと思っていますので、 ミニコミ名もそれにちなみました。 れんげは農村風景の原点でもあり、 その後で肥料にもなるからです。 ただ、 それ以降何を植えるのかについては、 私たちが決めるのではなく、 住まわれる人に委ねていきたいと考えています。
また、 この活動はある基金から助成をいただきましたので、 今後一年間はみなさんと一緒に楽農講座を続けていく予定です。 たぶん、 いろんなトラブルが出てくるだろうとは思います。 しかし、 トラブルも隣人を知るいい機会であり、 トラブルを恐れていては何事も前に進まないと考えています。 今までのおつきあいの中で、 あるおばあさんが「きっといい風が吹くよ」と言って下さったのですが、 何事も事前にきっちり計画するのではなく、 みなさんに委ねながら、 私たちはその横で一緒に走るという形を続けたいと思っています。
アートワーク紹介
アートワークの概要
さらに今回のアートワークの中で、 その考え方を典型的に示している内容について詳しく説明します。
だんだん畑(注文の多い楽農店)
その中で、 今回のアートワークの特徴を最も具体的に示す作品が、 公共緑地での田甫さんの「注文の多い楽農店」という作品です。 これはだんだん畑です。
楽農講座
このプロジェクトに関連して、 ワークショップ以外にも途中から「楽農講座」を始めました。 これは、 入居する人達に、 私たちがどういう考えでだんだん畑を作ったのかを話すと同時に、 人々が草花や野菜作りをどう思っているのか、 何をやりたいと思っているのかなどを知りたいということから始めました。
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