日本におけるユニバーサルデザインを考える
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「全ての人のため」の

デザインは本当に可能か

丸茂

改行マーク関西大学の丸茂です。 ユニバーサルデザイン全体に関わることかと思いますが、 先ほど「子どもが見捨てられている」というお話がございました。 しかし、 10年ほど前から「冒険遊び場」のような公園が話題になったことを考えると、 遊び場や公園は今とてもスペシャライズされた方向に向かって行きつつあると思います。 つまり、 「全ての人に」というより「それぞれの分衆のため」の部分を拡充することで、 結局は全ての人が満足し、 楽しめるようになるという発想です。

改行マークあるひとつのもので全ての人に対応しようとすると、 多目的ホールのように何者でもないものになってしまう危険性があるように思うのですが。

改行マーク問題提起というほどでもありませんが、 口火を切る質問をさせていただきます。

浅野

改行マークでは、 私がまず口火を切ってお答えします。

改行マーク私は実は学生時代には経済のマーケティングを勉強していましたが、 趣味が昂じてこの分野にのめり込んだという経歴です。 マーケティングの勉強をした後に公園設計の仕事をするようになったとき、 倒れそうになるほど驚いたことがあります。 普通、 経済活動をしていると「費用対効果」といって「造っていくら儲かるか」を必ず最初に考えるものなのですが、 公園業務にはそれが全くなかったのです。 なくても許される世界があることに非常に驚きました。

改行マークそれ以来、 常々公共空間にはなぜマーケティングの思想がないのかと考えていました。 たまたま、 花博の会場でほとんどの人が楽しそうにしている中で、 車イスの人、 お年寄り、 いろんな障害の方がお祭りの輪に入れなくてポツンとしている姿が目に入りました。 こういうお祭りに乗れない人をどうすればいいのかと考え始めた頃、 大阪府から声がかかってこういう仕事につくことになりました。

改行マーク私は1991年からこの仕事を始めたのですが、 アメリカもイギリスも屋外空間に関してのアクセス、 近づきやすさの資料はなかったのです。 かろうじて、 建築に関するアクセスが徐々に規定されてきていました。 それから、 一、 二年してから「福祉のまちづくり」が追い風になって、 いろんなところでバリアフリーが条例化されるようになりました。 「福祉のまちづくり条例は、 大阪府と兵庫県が日本で初めて条例化したものです。

改行マークその中に「公園編」の規定もあったのですが、 公共で公園を造るときは必ず自治体の「福祉のまちづくり室」に行かされたのです。 その時「園路の勾配は4%以下にしなければならない」と指導されるわけです。 それはおかしいじゃないかと私は思いました。 「ここには大きな木が何本もあるのに、 なぜ4%以下にしなければならないのか」と聞きましたら、 「そう規定されているから」という答でした。 しかし、 そんなことをしていたら金太郎飴のような公園しかできません。

改行マークですから、 私としては世の中全ての人に合わせた公園を造りたいと思ったわけではなく、 地域の特性に応じた公園を造るべきだと考えているということです。 それを造るためにプロは必死になってマーケティングをして、 地域住民と関わりながらやらなければならないのに、 最低基準の数字や手すりなどの用語が一人歩きするのはあってはならないことだと思うのです。

改行マーク公園は建築ではないのです。 行政がそれをしないのであれば、 民間の私たちが研究をまとめなければならないと考えていたときに、 大阪府の「ハートフル・パーク」の策定調査業務の仕事がありましたので、 そこで言いたいことを言ったのがユニバーサルデザインの公園づくりを具体化しはじめた発端です。

三宅

改行マーク「子どもは見捨てられている」ということについてコメントします。 この間、 遊具を作る仕事をしたのですが、 その際楽しい遊具を作りたいと思ってワークショップをしました。 これは、 子どもたちが何を思っているかなどいろんなアイデアを集めるためのものです。 子どもたちに段ボールを与えてみると、 けっこう面白いものは出てくるのですが、 想像の範囲内のアイデアがたくさんありました。 その中のいくつかを取り入れて遊具を作りました。

改行マークその時に感じたことは、 遊具は我われが子どもの時に面白がっていたものとさほど変わりがないということです。 その感覚が遊具作りの基本になっているのですが、 全体のランドスケープの中で子どもと障害者のうまい接点を見つけることができればと思っています。 たとえば遊具の中に車イスで入っていけるといったこともその一つだと思います。

改行マーク一番大切なことは、 子どもが遊んで面白い遊具であることです。 そこから、 何かをうまく組み合わせて考えていくうちに、 いろんな解決方法が見つかるのではないかと思っています。 亀山さんがおっしゃったように、 最初から完全なものを作るのではなく、 作って悪かったら後で修正するという考え方が必要でしょう。 行政ではそれはなかなか許されないのですが、 ユニバーサルデザインではある程度それをやっていかないとうまくいかない。 だから、 ユニバーサルデザインはなかなか完成しないものだと感じています。

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