住宅・都市整備公団の西です。 仕事柄、 高齢者対策とか防災対策ばかりやっていますと欲求不満になりがちで、 それとは正反対の町に行ってみたくなります。 それで、 98年の7月に尾道でのセミナーを企画しました。
ご存じの通り、 尾道は路地ばかり、 階段ばかりの町で、 車イスでは行けない所だらけです。 では、 そんな町ではユニバーサルデザインはどう考えればいいのか、 というのがみなさんにお聞きしたいことです。 物理的な対応はたぶん不可能だと思うのですが、 ソフトな対応だったら可能かと思っています。
おそらくユニバーサルデザインも一般的な正解はなく、 町ごとに防災や環境を考えていくしかないのだと思うのですが、 そういったところのご意見をいただきたいと思います。
三宅:
アメリカの話ばかりで申し訳ないのですが、 アメリカではADAと共に屋外に関するROSという法律があります。 これは、 全国一律同じことをするのではなく、 状況に合わせて5段階で考えようというものです。 都市の中では100%ちゃんとする、 それからだんだんと自然環境を優先していって、 最後は完全な自然を残しそこでは何もしないというものです。
例えば、 国立公園は景観があって初めて成り立つという考え方が基本にあります。 だから景観の価値がなくなってしまうようなものは入れない。 ほとんど何もしないのが基本で、 その代わり人的にガイドをしたり、 車で案内するなど対応が用意されています。 施設もほとんど造らず、 ところどころビジュアルアクセスと言って、 展望台までのアクセスをつけるぐらいです。
カナダの場合も、 ほとんど全国何もしない。 むしろ「ない」という基準の方を大事にしています。
イタリアも同じ状況です。 あるシンポジウムの報告によると、 ほとんどの所が車イスでは行けない。 その代わり、 情報が充実しているのです。 ここに行けば公園があり、 そこまでは物理的な交通手段で行ける、 ここには車イスではいけないということが分かります。 国立公園と同じようにハード的な対応はない、 というより出来ないという状況のようです。
浅野:
行政の方は、 障害を持っている人たちに対して何もしなかったら批判されるじゃないかという恐怖心を持っているのではないかと思っています。 しかし、 彼らが一番がっかりするのは設備のあるなしではなく、 行けると思った所に行けなかったということなんです。 行けるのか行けないのかを事前に教えてほしい。 つまり、 情報の開示が全ての基本にあるわけです。
三宅さんが説明されたROSも基本的には情報開示の方法です。 行けないところに無理矢理行きたいと誰もが言うわけではなく、 行けないんだったら最初からそう言ってくれ、 言ってくれるのが親切だということなんです。 さらに、 行けないけれどもこんな代替手段がありますよと幾つか用意されていれば、 なお良いというわけです。
歴史や自然環境は次世代につないでいくものですから、 その処理の仕方はきっちりやっていこうというのが、 全世界共通の流れであるように思います。
亀山:
そういう町の場合は、 住んでいる人に決めてもらったらいいんです。 プランナーは何をするかというと、 「ここに障害がありますよ、 道をつけるとその障害はなくなりますが、 危険になります。 どっちがいいですか」という情報提供をすればいいのです。 ひとつの開発をすると、 こういう良いところがありますが、 その代わりこんな支障がでてくる、 どっちをとるかは住んでいる人が選ぶのです。
一番わかりやすい例は、 例えば震災の時に消防車が入れる町にするかどうかです。 消防車が家の真ん前まで来て消してくれる方がいいのか、 狭くて消防車は入れなくてもホースが届く程度であれば十分で歩く人を優先にした方がいいのか。 これからは選択の理論でしかないと思うのです。
そんなことをコンサルタントが決めるわけにはゆきません。 それは住んでいる人が決めることです。 それをサポートして仕切っていくのがコンサルタントの仕事だと思います。 もっとも決めるのは今のところは行政ですけれども。
山本茂:
予定の時間になりましたので、 そろそろ98年最後のセミナーを終えたいと思います。 最後に私も一言感想を述べたいと思います。 本日のお話を聞きながら、 ユニバーサルデザインとは、 その言葉の響きとは逆に、 実は非常に“ローカル”なものであることが分かりました。 その地域に求められることは、 そこに住んで利用する人々が考えていくべきであり、 それがユニバーサルデザインの基本であるということです。
また、 私も含めて、 これまで計画やデザインに携わってきた人たちが、 このようなごく基本的なことを果たして考えてきたのだろうかという問題提起をされているように感じました。 こういう意味では、 ユニバーサルデザインは“シンク(考える)”デザインだということを教えられました。 そして、 大泉緑地の例にも見られたように、 ユニバーサルデザインを志向することによって、 これまでなかった“新しいデザインの地平”が見えてくるようにも感じました。
来年も10回のセミナーを予定しています。 来年も多くの方がご参加くださるよう希望して、 セミナーを閉じたいと思います。 本日はありがとうございました。