前に 目次へ 次へBALI in transition
上野泰
(ウエノデザイン)
“Isn't Bali spoiled ?” is invariably the question that greets the returned traveller from Bali―様々なところで引用されているM. Covarrubiasの1937年の著書『Island of Bali』注1の一節である。 この答えはyesでありnoである。
BALIもまた現代世界の一部として、 好むと好まざるとにかかわらず絶えざる変化の過程にあることは言うまでもない。 そしてこうした変化の積み重ねが、 BALIを新しい時代に導く事になるのだ。
★SCENE 1
Denpasarから西へKrobokanへ向う幹線道沿いのDenpasar baratと呼ばれる辺りはいま、 急速な市街化が進んでいる。 もともと母体になる集落もなかったこの辺りでは、 伝統的なBALIの集落の文脈とはまったく異なる形態の市街地が生まれようとしている。
DenpasarやKuta等の既存集落の拡張としての街ではなく、 またツーリスト相手の“BALIらしさ”とも無縁なこの新しい市街地でも、 新しく建てられる建物はそれなりに現代風であるともいえるが、 一様に勾配屋根をのせた多層建築の形態は明らかにBalinisatoinの産物である。 Denpasarを始めとする市街地でいま急速に増えつつある「BALIの皮を被った現代建築」がこれからのBALIの顔を創ることになるのであろうか。
★SCENE 2
ここ数年BALIの道路で急速な緑化が進められていることに気付かれた方も多いと思う。 幹線道路はもとより、 集落の中の道まで道端に樹木の苗が植えられている。
当初高さ1mにもならない苗をかなり狭い間隔で植えているのだが、 3年もたつと街路樹らしい大きさに成長している。 5年か10年も経てばBALI中の道は緑に覆われることになるだろう。 これによって、 これまでの集落の塀越しに家々の屋根やsanggahの屋根が連なって見えたBALIの沿道景観は大きく変わることになるだろう。 そして近い将来、 おそらくこれらの「緑の壁」の背後には、 新しいBALI建築が並ぶことになるものと思われる。
★SCENE 3
これも最近の変化であるが、 いまBALIのあちこちで、 巨大なモニュメントが出現している。 これらモニュメントはkabupaten(県)のシンボルとしてそれらの中心市街に創られたものらしい。 Ngurah Rai空港の近くの巨大な「ラーマヤーナ」をテーマとした像をご記憶の方も多いと思う。 もともとBALIでは辻々に様々な神やguru像が置かれることが多かった。 その後それぞれのdesa(村)あるいはbanjar(集落)の歴史あるいは特徴をシンボライズするモニュメントが置かれるようになったものと思われる。 BatubulanのBarong像やPeliatanのLegong像などはその例である。 いまBALIはこれら巨大モニュメントや新しいBALI建築の出現によって、 BALI-Baroque時代に突入したかの感がある。
我々が伝統的BALIとして考えている多くのものが20世紀になって創られたものである。 BALIは生きている。 そして絶えざる変化の中で、 20世紀の始めに世界を魅了した姿とはまったく異なる姿を取りつつも、 なお21世紀のalternative worldとして我々を魅了し続けることになるのであろうか。
注1:Miguel Covarrubias “Island of Bali”, Oxford University Press, 1972