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江川直樹
(現代計画研究所)
外国から帰ると、 いつも日本のことが想われる。
日本の色、 “はいいろ”。
しかし、 「灰色の時代」「灰色の人生」「灰色の青春」???。
灰色を“すばらしい”という人たちがいる。
茶人である。
じっくりと炉や風炉のなかの灰に見入る。
灰に寄せる茶人の心は深く、 彼らは本当の灰色を知っているのだそうだ。
キリスト教徒にとっては、 灰は神聖のものなんだそうである。
復活祭の46日前、 四句節の始まる日を「灰色の水曜日」とよび、
当日のミサでは、 司祭が信者の額に祝別された棕櫚の葉を焼いた灰を塗る。
灰は、 地上にあるよろずのものが有限的、 一時的なものであるという思想を象徴し、 あわせて、
死を生じた罪に対して悔悛の意をあらわすものなんだそうである。
「利休鼠」という色は、 少し緑色を帯びた灰色である。
瀬戸内晴美の小説では、 すっきりとした老女が利休鼠の鮫小紋の着物。
北原白秋作詞、 梁田貞作曲の『城ヶ島の雨』。
「雨はふるふる、 城ヶ島の礒に、 利休鼠の雨がふる。
雨は真珠か、 夜明けの霧か、 それとも私のしのび泣き」(村山貞也『人はなぜ色にこだわるか』KKベストセラーズより)。
流行歌にもサラリとでてくる、 情感あふれる灰色の世界である。