前に 目次へ 次へ死者の通り道
小浦久子
(大阪大学)
バリ・アガ集落のひとつであるトゥンガナンは、 帯状の広場に面して住居が並ぶ。 その背割り側に狭い通路がある。
それぞれの敷地の背割り側は、 豚やとりを飼うところとなっていて、 地形に沿った街区の境界には、 低い石積みのしきりがある。 そこには切り込みが入っていて、 通常は板などで豚が逃げないように閉じられている。 この背割り側の狭い通路の仕切り板がはずされると、 死者の通り道になる。
死者は広場を通ることができない。 死者はこの通路を運ばれる。
集落の空間構成は、 生活のしくみと一体になっている。 神様と共存するとともに、 共同体としての生活の作法が、 集落の空間構成を支えている。
伝統的集落のかたちは、 そこで営まれる生活慣習が持続することによって生きた空間として維持される。 たとえ敷地内の利用が変わって、 建て込んでいったとしても、 神様との関係が変わらないかぎり死者の道は残る。 神様が生きている。