the Urban Enviornment Design Seminar, Yogyakarta & Bali
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豊かなコモンと狭い路地

千葉桂司

(住宅・都市整備公団)

 豊かな自然と、 ゆったりと流れる時間の中に、 バリの集落はあった。
ティヒガン、 ブクブク、 トゥンガナンそしてティムラの4つの伝統的な集落。 ゆっくり、 細かに見れたわけではないが、 一つの共通した感想を持った。 それは「豊かなコモンは、 住む人の生活を豊かにしている」のではないかということ。
 巨大なバニヤン樹の下に、 一族・先祖・村を守る数々の祠と、 ワラ屋根に柱と床だけの寄り合い所等がいくつも並列し、 そして周りに広々とした広場を従えている。 村の共有施設、 共有空間の殆どを集約した、 この余りにも豊かなコモンのスケールは、 村の人口・経済力・政治力の大小と無縁であるはずがないと思うのだが、 それにしても小さな村の不相応な程に立派で、 堂々としたこの空間構成は、 どこからくるのか。
 同時に、 この素晴らしいコモンのスケールに比して、 枝毛のようにそれぞれの家に延びた路地の狭さはどう理解すればいいのだろうか。
 比較として2つのことを考えた。 一つは日本の農村にも、 かつてこうした寄り合い所や舞台はあったが、 バリ集落ほどの「中心性」を持った大きな空間を従えてはいなっかった。 又、 巨大な杉の木の下に社と境内をもつ鎮守の森もあっが、 思えばそれは村の「はずれ」にあった。 そして日本の農村集落や個々の農家にバリ程明快な方向性はなさそうである。 この「中心」と「はずれ」は、 宗教・伝統・生活文化を比較して考える上で興味をそそられる。
 二つ目は、 中国福建省の客家(はっか)の円楼集住との対比である。 トゥンガナンの原始共同体を成立させた直線平行軸の構成に対して、 円楼は字のとおり円形をしており、 中にコモンをもつ求心性の高い形をしている。 ここで一族郎党数百世帯が共同体的生活を営んでいる。 外敵への防御を最優先させたこの形と、 外に対して殆ど無防備に見えるバリ集落の構成原理との差異は、 次々と楽しい疑問を私に発する。
 ともあれ、 最後に寄った小さなティムラ村のコモンには、 祭りの前とはいえ多くの村人が出て、 とても賑やかで底抜けに明るい。 今この国を覆う経済パニックがどれほど彼らに関心があるのか分からないが、 この豊かで広々としたコモンが、 少なくともここに住む人達の生活を豊かにさせていると言えば褒めすぎになるだろうか。

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