前に 目次へ 次へBUGBUG パンジャールの集会所近くの家
丸茂弘幸
(関西大学)
帯状広場から路地を介して各住戸にアプローチするのが一般的であるのに、 この家はやや奥まっているとはいえなぜか広場に直接面するように建っていた。 村の中心に位置することといい、 堂々たる門構えといい、 どうやら普通の家ではなさそうだが、 洗濯物が干してあるなど生活の匂いもあり、 住宅ではあるらしい。 中を覗くと初老の婦人が「入ってご覧なさい」と言わんばかりに手招きしてくれた。
門をくぐるとタイル敷きの道が奥に伸びている。 奥はシーンと静まり返った別世界である。 普通の住宅と同じ配置だとすれば正面が儀式用の建物バレ・アダット、 左手が寝所となる建物ムテン、 背後の入り口に近い部分がリビングの建物バレ、 右手が台所と米の収納所、 そしてこの中庭が聖なる空地ナタールということになるのだろう。
建物も地面も磨き上げられたようにこざっぱりとして、 所々に配された緑がいかにもすがすがしい。 定石通り北東の一番奥まったところに聖なる拝所サンガが見え隠れしている。 この中庭にも石灯籠のような形をした祠がひとつ、 午後の日差しを浴びてひっそりと建っている。 清浄な空間を満たす静寂…一瞬至福の感覚が僕の背中を襲った。
神々とともに〈住む〉とは、 やはり〈澄む〉ことなのだろうか。