前に 目次へ 次へKOTAGEDE 美しい音との出会い
丸茂弘幸
(関西大学)
ジョグジャの街を一日中歩きまわって、 コタ・グデのBetween Two Gatesと呼ばれる一画に着いた時にはもう夕暮れが迫っていた。 家並みの両端に門があり、 ここだけ独特の領域を成しているので研究者の間でこう呼ばれているのだろう。 両端の門と門を結ぶのは、 わずかに幅や位置を変えながら個人の敷地の真ん中を串団子のように貫いて通っている庭先路地である。 各戸の舞台空間(プンドポ)と母屋(ダルム)の間の空間(プリギタンと呼ぶらしい)が繋ぎ合わされてできた道である。 両側にはあの独特の形状の屋根ジョグロを乗せた家々が並ぶ。 普通の路地と違って庭先路地は全く開放的で明るい雰囲気である。
その開放的な家並みの上を、 暮れなずむ空に染み入るように、 男の渋い声が朗々と流れていた。 夫婦なのだろうか、 母屋の縁側(エンペラン)に、 鮮やかに彩色された大きな楽器をまえにして年配の男女が並んで座っている。 女の弾く軽やかでしかも深みのある楽器の音が、 男の声を包み込むように寄り添っている。 男の手元にある分厚い書物はコーランだろうか。
インドネシアの町ではいろいろなところで美しい音との出会いがあった。 サウンドスケープという言葉が、 ここでは自然に使えそうな気がした。