前に 目次へ 次へ精霊のやどる村−トゥンガナン
山本茂
(生活環境問題研究所)
バリの伝統的な村であるトゥンガナンは、 カジャ(聖なる方向)の北に向かって伸びる2つの帯状広場に沿って家々が並ぶという特異な空間構成をもっている。 インドネシアに出発する前から、 バリの中でも最も興味のあった村だ。
村に到着するなり土産物屋が出迎え、 この村にも観光化の波が---と少々興ざめするが、 少し進むと帯状広場に並ぶ細長い集会所や米倉の落ちついたつくりと、 白壁と藁葺き屋根が連続する民家の家並みに伝統を感じる。 村はカジャの方向に向かってゆるやかな登り勾配になっており、 進んで行くにつれ上昇感とともに聖なるものに向かっていることを感じる。
村の北の端の結界のような門をくぐると、 両側にみどりが迫る細い石畳の道を進む。 山奥にどんどん入っていくことを実感し、 神聖な雰囲気が増していく。 しばらく行くと、 椰子の木が茂る森の中の広場にひっそりと社が建っている。 さらに進むと空一杯に枝を張り、 何本もの気根を垂れた聖なる木−バンヤン樹が現れ、 行く手を阻む。 バンヤン樹のまわりの木や石の一つひとつに、 精霊がみなぎっているような気がした。
突然、 2頭の牛が森の中から現れ、 村の方にゆっくり帰っていった。 わたしには牛が精霊に引かれているように見えた。